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【「私」という超難題】(5) 笠原理論「幸福否定」について

2012-08-11 00:13:22 | 高森光季>「私」という超難題

 前回、「人間は、私は、実は途方もなく大きな宝物を持っているのに、一方で、必死になってそれを見ないようにする、否定しようとする志向も持っている」と書きました。
 実はこれ、心理療法家の笠原敏雄氏が明らかにしたことです。

 笠原氏は、臨死体験、スティーヴンソンの生まれ変わり研究など、超心理学・死後存続研究の翻訳者として、多くの人に知られているかもしれません。一方で、氏は長年、心理療法の現場で心身症・精神病の治療を行なってきました。一時は、独自の治療法で絶大な効果を上げつつも、心理療法の世界では異端視される「小坂療法」に傾倒し、統合失調症の治療で成果を上げました。
 その後、氏は、超心理学や小坂療法の知見を礎石にして、独自の“発見”に至りました。
 それが「“幸福否定”の理論」です。

 なにせ、従来の人間観を根底から覆す可能性のある重大な“発見”であり、長い年月にわたる厖大な実証的研究・治療の蓄積の上にあるものなので、なかなか簡単に説明することはできません。ここで紹介できるのは、あくまで「さわり」の部分だけです。笠原氏は厖大な内容のホームページを公開していますので、詳しくは「心の研究室」へ。

 笠原理論によれば、人間は心の奥底に、真に願っているものが(いくつか)あり、それを実現しようと行動する。これが「幸福否定」の「幸福」の部分です。表層的な幸福感(快楽、楽しさ)のことではありません。しかし、その実現を様々な形で邪魔しようとする「不思議な働き」も抱えている。様々な形というのは、気付かないようにしたり、それが実現しそうになると妨害(無意識の自発的失敗や病気)をしたり、実現しても幸福感(「嬉しい」という感情)が起こるのを阻止したり、といったやり方です。
 笠原理論では、願っていることを実現しようとする働きを「本心」、それを妨害しようとする働きを「内心」と名づけています。そして、「本心」が強く動けば動くほど、「内心」の妨害も強くなるというのです。

 たとえば――
 《ある男女が愛し合って結婚する。しかし、すぐにお互いに不満を言うようになり、喧嘩が絶えなくなる。嫌いになったのなら別れればいいのだが、別れようとは決してしない。》
 《受験とか、発表会など能力発揮の機会とかで、途中までは熱心に打ち込むが、直前になると、急に熱意を失ったり、病気をしたりする。》
 《勉強をしようと部屋を片づけ、机に向かうと、急に眠気が襲う。》
 《周囲から「あなたのこういう才能はすごい」とほめられるが、自覚もないし嬉しくもない。》

 奇妙な例としては――
 《本屋へ行くと便意を催す。》(“青木まり子現象”と呼ばれています。)
 《休日になると寝床から離れられなくなる。》
 《大好きな人の顔がはっきりと思い出せない。》
 《嬉しいこと――結婚、昇進、新居への引っ越し、出産など――の直後に、鬱状態になったり病気になったりする。》

 なんとなく、思い当たる感じはしないでしょうか。そしてなんとなく、おぼろげな全体像が浮かび上がらないでしょうか。
 ただし、思い当たるようなものは、あまり根が深くないもののようです。もっと「幸福」が重大なものであると、もっと「邪魔」も強くなります。「そんなことありえない」と思うようなカムフラージュがなされます。そうなると、強く愛している子供を虐待したり、まっとうに生きることを精神病でだめにしたり、少しそれに近づくだけで病気になったり、想い描いただけでめまいや眠気が起こったり、といったことさえ起こります。
 このあたりは、具体例で見ないと実感はできないでしょう。また、求めている「幸福」も実に多様なので、簡単に理解できないこともあります。
 しかし、これはどうも真実のようです。たくさんの事例から見て(私が間接的に知っている人のものもあります)、真実としか思えません。この理論と療法によって、統合失調症が治ったという事例もあります。

 この仕組みはいったい何なのか、なぜそんなものがセットされているのか。それに関して、笠原氏は答えを出していません。氏はあくまで実証的な証明を重視するので、宙に浮いた観念論は拒否しているようです。
 霊学的に考えても、まったくわかりません。そんな話はほかで聞いたことがないし、高級霊たちも言及していない。むしろそんなことはないだろうとさえ思えるのですが、現実には、そうとしか考えられない事態があるわけです。

      *      *      *

 笠原理論にはいくつもの興味深い知見があります。そのうち三つばかりを。

 第一には、心には、あらゆる身体症状=病気を作り出す能力があり、同時にそれを瞬時に治す能力があるということです。氏の著作には、「勉学をしたい」という本心を妨害するために、若年にもかかわらず「白内障」が発症されるという事例があります。そしてそれは治療によって内心の妨害が弱められることで、劇的に回復したというのです。周知のように白内障というのは眼の水晶体が濁る病気で、原因はわかっていませんし、その発症過程は非常に緩慢なものだとされています。そんな身体症状が短期に起こり、短期に消失するのです。
 つまり、心身症・精神病といったものはもとより、癌といった身体の病気も、内心によって「作られている」可能性があるわけです。そして本心が強力に発動すれば、それが短期で治る可能性もある。
 つまり、人間の心は、その気になれば肉体をかなり自由に操る力を持っているということです。
 さらには、肉体だけでなく、周囲の物体まで、操ることさえできる。氏の症例で、「いとこへのライバル心を認めたくない」という心の力によって、録音用のテープレコーダーが故障するという事例が報告されています。人間の心の力は、物質へも作用を及ぼせるほど強力なもののようなのです。(このことは超心理学でも「PK」として証明されていますが。)

 第二に、人間の心は途方もない能力・力を持っているのに、現行の人間の表層意識(あるいは内心)は、それを否定しようとしている。その一つの表われが「唯物論」という“幻想”だということです。
 唯物論では、人間は諸生体反応の集積、脳の中の電気信号に過ぎないと捉え、人間の主体は、遺伝や環境に翻弄されるきわめて脆弱なものだと考えます。そして、究極的には「主体性」――意志・力・判断及び責任能力・倫理性――などは否定されます。
 これこそ「内心」の(集合的な人間の内心の)策略なのだと氏は捉えているようです(『隠された心の力――唯物論という幻想』参照)。
 そして、超能力や超常現象や霊的現象に対して、多くの人々が、ろくに調べもせずに「非常に感情的な」反駁・罵倒を行なうのも、この「内心の策略」ではないかと。
 超常的なものに対する強い心理的反応というのは、超心理学の実験で明らかになった「山羊・羊効果」「恥ずかしがり効果」「妨害現象」などに見られます。超常現象を起こしつつ、それを必死になって隠すという現象です。また、「自分が超常的な能力を持っている」ということへの強い抵抗(保有抵抗)も見られます。これらのことについては、過去記事「【霊学概論】(13)超心理学の問題」の後半部を参照してください。

 第三に、前世記憶に関連する心理的抵抗(内心の謀略)もあるらしいということ。
 これは、その前世記憶が今の本心の願うことに関連するものである場合はもちろん、前世があるということを強く確信させる場合などでも起こるようです。具体的には、前世からの持ち越しの課題が明らかになりそうになると、あるいは過去に生きていたことが(主観的に)明らかになるような事態(特定の場所に行くなど)に遭遇すると、身体的・精神的な病気・不調が起こるというものです。ただし、この問題に関しては、現在のところまとまった論述はないようです(部分的には同HPの「スタンダール症候群」参照)。(ちなみに、笠原理論で行くと、「簡単に思い出せるような前世記憶は、虚偽か、重大なものではない」というようなことになりそうで、これは厄介な問題です。)

      *      *      *

 笠原理論は、確かに「現行の人間観を根底から覆す」ような革命的なものです。そしてそうであればあるほど、否定的な反応も大きくなり、理解できない事態が生じます。
 私自身も、それがどの程度正しいのか、どこまで全域化(普遍化)できるのか、よくわからないところがあります。「本心」と、霊的な文脈で言われる「本当の私」との関係もわかりません(どうも意識は「本心」とかなり乖離していて、むしろ「内心」の手先のようになっているようです)。
 もしかしたら、この理論はあまりにも「先に行っている」ために、正当に評価されるのは、数百年かかるかもしれません。
 ともあれ、笠原理論で提示されている謎は、人間の心の秘密を探究する上で、きわめて大きなものだと言えると思います。

 まあ、正直、この方はある種の天才だと思います、ほんとに。


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