【実録】会計事務所(公認会計士・税理士)の経理・税金・経営相談

大阪市北区の築山公認会計士事務所(築山哲税理士事務所)です。
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ノウハウや信用は決算書のどこに表れるのか?

2019-11-25 11:30:00 | 決算書・試算表
「当社も創業20年を超えずいぶんと実績を積んできましたが、それは当社にノウハウと信用があってのことです。ところで、このノウハウや信用は決算書のどこに表れるのですか?」

最近、このようなことをいう中小零細企業経営者が増えてきました。

◆ノウハウや信用は会計上の資産ではない(決算書には表れない)

ノウハウや信用も俗に資産(価値がありお金になるもの)といわれますが、それらは決算書で資産としては表れません。ノウハウや信用を得るためには多額の投資をしてきたことでしょうが、その投資は費用としてすでに消えてしまっています。

ノウハウや信用は目には見えず、長年にわたって社内に蓄積され、組織的に活用することによって価値を成すものなのです。

◆ノウハウと信用があれば収益を生む

ノウハウや信用は、資産として貸借対照表には計上されませんが、収益を生む源泉となります。同業種の複数の企業間でもノウハウと信用によって収益力は大きく異なります。

◆ノウハウと信用はM&Aの際に表面化する

ノウハウが会計上の資産として認識されるのは、会社や事業を売買するM&Aの際です。ある会社の貸借対照表が次のとおりであったとします。

資産500(預金200+売掛金300)
負債300(買掛金200+銀行借入金100)
純資産200(資本金100+累積利益100)

決算書からすれば、この会社の価値は200です。資産を換金し負債を返済した残額が200だからです。しかし、現実にはそれ以上の金額でこの会社が買われることがあります。それは、この会社にノウハウや信用があり、この先、利益を生むからです。

この「プレミアム」は、買収側企業の貸借対照表に「投資有価証券」(子会社化の場合)あるいは「のれん」(営業譲渡・合併の場合)として表示されます。買収側企業の純資産は200を超える金額で増加するのです。

◆ノウハウと信用を築いた経営者への見返り(役員報酬の増額)

経営者がノウハウや信用を築いたことに対する見返りは役員報酬です。ノウハウや信用が積み重ねられた結果として収益が増えたのであれば役員報酬を増額します。毎月受け取る役員報酬の増額ではなく将来の退職金として受け取るということも可能です。また、社用車や社長室のグレードアップをしてもいいです。

◆ノウハウや信用だけを売る

いわゆる「フランチャイズビジネス」はノウハウや信用の販売に他なりません。その他、自社のノウハウに関する出版やセミナーの開催もそうです。この場合の販売金額はケースバイケースです。

◆会社が清算(消滅)する際のノウハウや信用の扱い

会社を清算するということは、ノウハウや信用の価値がなくなり収益を生まなくなった状況ですので、もはや売ることはできません。(売ることができるノウハウや信用はすでに売却済みです。)

◆社長(経営者)そのものがノウハウであり信用でもある

中小零細企業では社長ひとりのノウハウと信用で会社が成り立っていることもあります。社長ひとりの会社、社員は社長の補助的役割でしかない会社です。このような会社の場合であっても、そのノウハウや信用は会社(法人格)と一体です。つまり、会社を前提として取引関係が成り立ち、それが収益を生んでいるのですから、会社を清算すればノウハウや信用も消滅します。ただし、取引先が会社の清算をマイナス要素や取引上の障害として捉えない場合には別会社や個人事業者として、ノウハウや信用を活かしての活動再開も可能です。

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★研究開発費
研究開発費は、研究開発要員の人件費、研究用材料費などからなります。これらは発生した年度の費用となりますので資産として計上されることはありません。研究開発の成果は不確かなので費用の繰延べ(資産計上)はしないのです。

★特許権
特許権という法律上の権利を有する場合には、貸借対照表に無形固定資産として計上されますが、その金額は特許権を取得するための法的手続に要した費用です。ですから、特許権を取得するまでの膨大な費用(上記の研究開発費など)は含まれません。なお、特許権は土地や建物の有形固定資産のように単独で売却することができます。

★自社で制作し自社で利用するソフトウェア
自社での利用を目的として自社で制作したソフトウェアに関する費用(制作費用の大部分は人件費)は、収益獲得や費用削減が見込まれる場合には無形固定資産として計上します。なお、このソフトウェアは単独で売却することもできます。

★マニュアル
ノウハウを文書化したマニュアルが作成されていることがあります。マニュアルが、印刷製本されている場合には未使用部分は資産計上します。なお、マニュアルはノウハウが具現化されたものとして収益に貢献することから、M&Aの際には評価の対象となります。

★商号、商標、ロゴ、ホームページのデザイン、ドメイン
商標を除いて資産計上はされませんが、相当な金額で売却できるものもあります。

★顧客情報
資産計上はされていませんが、ノウハウや信用の結果としての顧客獲得ですので、ノウハウや信用と密接不可分なものとして価値を有します。

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