さて、博士号を持った人の名前の呼び方(敬称の付け方)の話をしよう。
アメリカでは博士号を持った人の敬称には「Mr./Ms.」ではなく「Dr.」を使わないといけない。博士号を持っていると知りながら「Mr./Ms.XXX」と呼ぶのは失礼にあたる。バイデン大統領の奥さんは博士号を持っているので、「Ms.(Mrs.)Jill Biden」ではなく「Dr.Jill Biden」と呼ばれている。
ニュース検定で「ジル・バイデン『博士』」ではなく「ジル・バイデン『さん』」と言っていたが、日本語では博士号を持った人に「博士」を付けて名前を呼ばないといけないとか、「さん」付けではだめという決まりはないので、それで間違いではない。
アメリカの新聞では博士号を持った人には「Dr.」を使い、「Mr./Ms.」を使うことはないそうだ。
日本での新聞では博士号を持った人にも「さん」や「氏」を使うことが多い。日本語の「さん」や「氏」は誰にでも使えるらしい。「氏」は肩書きの置き換えという意味合いもあるようで、記事本文の最初の言及では「フルネーム+肩書き(首相、党首、会長など)」、2回目以降の言及では「苗字+氏」となっていることが多い。「氏」に置き換えが可能なのは「博士」も例外ではないと考えられている。
アメリカの場合どうかというと、大学の図書館で英字新聞を見たことがあって、最初は「President George Bush」で2回目以降は「Mr.Bush」になっていた。博士号を持っていれば「Mr./Ms.」に代わって「Dr.」となる。
日本で似たようなものをあげると、恩師に対して「先生」と呼ばなければならないというのがある。まず、生徒は教師を先生と呼ばなければならない。生徒を持つ父兄も教師を先生と呼ぶことが要求される。教育者であっても社会生活においては「さん」で呼ばれることが多い。同じ職場の教員の間では「先生」で呼ぶ場合もあれば「さん」で呼ぶ場合もある。新聞やニュースでは「さん」扱いだ。
一方、アメリカでは「Mr./Ms.」という敬称に属する人と「Dr.」という敬称に属する人とにはっきり分かれている感じ。
日本では口頭で「○○博士」と相手の名前を呼び掛けることはめったにない。例えば街中で博士付けで名前を呼ぶと、むしろ「恥ずかしいからやめてくれ」となるだろう。
日本で博士号を持った人に対してあえて一般人と区別した敬称で呼ぶとしたら、「先生」がよく使われる。しかし、学校教員と同様に「先生」と呼ぶのが適切でない場面も多々ある。
博士号の有無に関わらず、学者や研究者に「先生」を使うことが多い。「先生」と呼ぶと「さん付けでいいよ」という方もいれば、最初からさん付けで呼ぶと「さん付けは失礼だよ。先生と呼んでくれなきゃだめだよ」と言う方もいるので、最初はとりあえず「先生」で呼ぶのが無難だろう。
アメリカで博士号を持つ人に「Dr.」では堅苦しいから「Mr./Ms.」で呼ぶということもあまりないだろう。そういう時はファーストネームで呼ぼうということになる。
日本で博士号を持った人に普段から「○○さん」ではなく「○○博士」と呼ぶのは日本文化にはなじめない。日本で「さん」などの敬称を使うのは英語圏でMr./Ms.などを使うケースと比べてかなり広範囲に及ぶ。日本では基本的に年上の人に対しては友達のように親しくなってもさん付けで呼ぶ。また、対等以下の相手にも呼び捨てにはしづらい場面も多い。そういう場合も一緒くたに「さん」の代わりに「博士」を使うとなると、ものすごく堅苦しくなる。
私の経験でもいい例がある。私が大学4年の時、サークルの関係で知り合った院生(修士課程2年)がいて、彼のことは「苗字+さん」で呼んでいた。ちなみに彼と話をする時は、周りの部員の多くはタメ口だったので、私もタメ口にしていた(大学生では先輩にタメ口で話すのも珍しいことではない)。飲み会の時、彼は博士号取得を目指していると言っていた。その時、英語では博士号を持った人にはMr.じゃなくてDr.で呼ばないといけないという話もしていて、「でも日本語で『○○博士』って呼ばれるのはしっくり来ないんだよね」みたいなことも言っていた。彼がその後博士号を取ったかどうかは知らないけど、博士号を取っていたら彼に対する呼び方を「○○さん」から「○○博士」に変えるかと言うと、もちろん変えない。アメリカの場合、私と彼のような関係だとMr.もDr.も使わずファーストネームで呼ぶ。
ハローワークで「必要な免許・資格等」に「博士号」と書かれた求人を見たことがある。その求人に応募する人は博士号を持っているのが前提だけど、窓口では普通に「○○さん」と名前を呼ばれる(「○○博士」とは)だろう、でもこれがアメリカなら窓口で「Dr.XXX」と名前を呼ばれるだろう、と想像してみた。
博士号を持った人でも「Mr./Ms.」で呼ばれることが絶対ないというわけでもない。
その人が博士号を持っているというのを知らない人からは、当然Mr./Ms.で呼ばれる。
電話で「Dr.」で呼んでもらうために「This is Dr.Smith.」と自分に敬称を付けて名乗る人もいるが、敬称を付けずに「This is Smith.」と言う人のほうが多いだろう。
博士号を持っていても会社勤めの場合は、その人あてに来るメールのあて名がMr./Ms.になっていることが多い。
イギリスでは外科医には博士号の有無に関わらずMr./Ms.で呼ぶ。一方、アメリカでは医者は全般的にDr.と呼ばれる。アメリカで医者になるには(すべての分野で)、博士課程を修了する必要がある。
アメリカの大学で学生が博士号を持っている先生にもMr./Ms.で呼んでいる例もある。Mr./Ms.を付けるだけでも十分敬意が込められた呼び方だとして、許容される傾向があるようだ。誰が博士号を持っているかを覚えるのは難しいという理由もあるだろう。
ホテルのチェックインなどではよく、希望する敬称を(おおむね「Mr./Ms./Dr.」の中から)選択する欄がある。博士号を持った人でも、プライベートで旅行に来てまで医療行為を手伝わされる羽目になるのは嫌だなどという理由で、あえてMr./Ms.を選択することもある。
フランス語では、博士号を持った人に「Dr XXX」という言い方はあるが、一般的には博士号を持った人にも「Monsieur/Madame/Mademoiselle XXX」と呼ぶことが多い。「Monsieur/Madame/Mademoiselle」が丁寧な呼び掛け語として全般的に用いられる。医者は比較的「Dr」で呼ばれることが多い。
ドイツ語では、呼び掛ける時は「Dr.」の前にさらに英語の「Mr./Ms.」にあたる「Herr/Frau」を付けて「Herr Dr.Siebold」のように呼ぶ。本来は博士号を持った人には「Dr.」まで付けて呼ぶべきとされていたが、もともと「Herr/Frau」が入っていることもあって、現在では一般人と同じように「Herr Siebold」と呼ぶことが多くなった。「Herr/Frau」を省いて「Dr.」を活かして「Dr.Siebold」と呼ぶこともある。
英語圏でも、オーストラリアでは博士号を持っていても「Mr./Ms.」で呼ばれることが多い。オーストラリアでは「Mr./Ms.」は誰にでも使えるという風潮があるようで、博士号を持った人に「Dr.」ではなく「Mr./Ms.」で呼んでも失礼にならないようだ。
サービスを利用する時に書く用紙に敬称を選択する欄があって「Dr.」を選択しても、DMのあて名が「Mr./Ms.」になっているということはよくある。
PhDを持つ人の敬称は絶対にDr? - OKWave
最新の画像もっと見る
最近の「言語・語学」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
人気記事