今日は漢字に関する話題を一つ取り上げます。
1956年、常用漢字の前身である当用漢字表にない漢字(を含む熟語)を音が同じで意味の近い当用漢字で置き換える「同音漢字による書きかえ」が行われた。
「同音漢字による書きかえ」の一例である「顚」から「転」への書きかえについて取り上げたい。
書きかえが提示されたのは下記の熟語である。
顚倒→転倒
顚覆→転覆
七顚八倒→七転八倒
「顚」は「倒れる、ひっくり返る」という意味がある。「ころぶ」という意味があるとも言える。
何冊か見た漢和辞典の音訓索引で「たおれる」を引くと「顚」という字も載っている。一方「ころぶ」を引くと載っていたのは「転」のみで「顚」はなかった。一応、ネット上で「顚ぶ」の使用例もあった(ヤフーでフレーズ検索してヒットした)。
「転落」も「顚落」という表記もあるが、これは書きかえではなくもとから両方の表記があった。「転げ落ちる」と言うからね。
「横転」は「横に倒れる」という意味合いから「横顚」とも書けそうだが、国語辞典を何冊か引いてみても「横顚」という表記は載っていなかった。ヤフーで「横顚」そして「横顛」(「顛」は「顚」の拡張新字体)をフレーズ検索したら数件ヒットした。
「顚沛(てんぱい)」は「つまずき倒れること」、また、転じて「とっさの時」という意味。「沛」が表外字であるため書きかえの対象外だが、(「つまずき倒れる」は「転ぶ」とも言い換えられるし)「転倒」などに準じて「転沛」という表記も使われている(ヤフーでフレーズ検索したらヒットした)。
「顚」は「いただき、てっぺん、はじめ」という意味もある。「顚末」は「物事の始めから終わりまでのいきさつ」という意味で、この「顚」は「はじめ」という意味で「顚倒」「顚覆」などの「顚」と意味が違うため、「転末」と書くのは間違いとされている。しかし、ヤフーで「転末」をフレーズ検索してみたらかなりの件数がヒットした。「二転三転したのちの行く末」みたいなイメージから「転末」だと思っている人もいるのかな?
「七転八倒」は中国の故事に由来する四字熟語で本来は「七顚八倒」と書き、「七転八倒」は書きかえ。
「七転八倒」とよく似た四字熟語に「七転八起」があるが、これはもともと「七転び八起き」という和語の慣用句があってそれが漢語化したもの。これも「七転八起」と「七顚八起」の両方の表記があるが、後者は「七顚八倒」の影響を受けたものだろう。試しに「七転び八起き」の「転」を「顚」に変えた「七顚び八起き」をヤフーでフレーズ検索してみたら数件ヒットした。
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