二次試験で挽回できる自信もなかったので、第一志望校を諦め、地元の大学に願書を出した。
二次試験の勉強は全くやる気が起こらなかったが、無事に合格した。
かくして、下宿して家を脱出するという2年越しの私の策略は失敗に終わった。
私は大学受験を『敗北』と思っていたのだが、友蔵と毒子はそんなことはつゆも思わなかったようだ。
なぜなら私の合格祝いに豪華な食事会が開かれたからだ。
私の記憶では、子供の頃に家族で外食したことなんて片手で数えても指が余るくらいだ。
少なくとも、中高時代には一度もなかった。
それなのに、いきなり地元で一番格式の高いホテルのフランス料理のディナー🍽に連れて行かれたのだ
今になり親の立場で考えると、友蔵と毒子はよほど嬉しかったのだろう。
塾も行かずに自分で勝手に勉強して、県立高校から国立大学に合格したなんて
しかも大学は自転車で通える距離だから下宿代も交通費も要らない。
何というコスパの良い娘だ!!
私が親だったら大喜びだよ💢
毒親の元から飛び出したいと必死に勉強した結果、毒親を喜ばせてしまうことになるとは、何という皮肉…
毒子は私に入学式のスーツのほかに、高級ホテルのディナーを食べに行くのに恥ずかしくないようなワンピースを買ってくれた。
モノトーンで細かい千鳥模様のワンピースを着て、友蔵と毒子と3人で、高級フレンチのコースを食べに行った。
そこに兄がいないことに、当時の私は何も思わなかった。
あんな家庭で育ったから仕方がないと思うが、兄は私よりもコミュ障で変人だったので、誘われても来なかっただろう。
しかし、今思い返すと兄が大学合格した時はお祝いの食事会など開かれなかった。兄はきっと面白くなかっただろう。
家ではいつも口汚く罵り合っている友蔵と毒子が、レストランではよそ行きの顔をして普通の夫婦のように振る舞っていた。
毒子は「私はテーブルマナーを高校で習ったから知っている」と自慢して、フォークとスプーンは外側から順番に使うのだと勿体ぶって教えた。
友蔵はフランス料理なんぞ初めて食べたかのようにぎこちなくガチャガチャ音を立ててフォークとナイフを使っていた。
もちろん私も初めてのフランス料理だった。
ウェイターの前で上流家庭のふりは流石に無理だが、ふだん喧嘩などしない普通の家族の芝居をしているようだった。
とても変な感じがしたが、私はそのような芝居は嫌ではなかった。
続く