『卑怯』と言われても、私はそれからも授業中に挙手することはなかった。
自分は価値のない人間だと思った。
毎日学校へ恥を晒しに行っているように思えた。俯いて教室の隅でなるべく目立たないようにしていた。
この頃、心から笑うことはなかった。
自分の子供から笑顔が消えていることに、毒子は気付かなかっただろう。
毒子から何かあったのかと声をかけられた記憶はない。
実家はこの年に同じ小学校の校区内に土地を買い、家を建てた。毒子の関心はそちらに向けられていた。
6年生に進級すると担任が替わった。新しい担任は優しく私を見守ってくれた。
この担任は授業中に挙手しない生徒にも指名して答えさせた。
私は当てられると緊張して黙り込んでしまうのだが、担任はニコニコして何かを答えるまで辛抱強く待ってくれた。
私は少しずつ挙手できるようになった。
少しずつ自信がついた。
仲の良い友達もできた。
新しい家に引っ越しして、自分の部屋が与えられた。
狭いアパートで夫婦喧嘩を目の前で繰り広げられる生活から解放された。
私は笑顔を取り戻した。
小6の卒業アルバムの写真は心からの笑顔で写っている
小学6年生は子供時代で一番良い時代だった。
続く