お好み夜話-Ver2

かあちゃんが調子悪くなったワケ

病院は負のオーラの集合体だ。

喜び勇んで病院に行く人なんてまずいない。

表面上は元気なヤツでも、検査結果が最悪だったらとたんにめげるし、脛に傷持つ者が病院の敷居をまたぐや、とたんにマイナスオーラの洗礼を受けるのである。

とはいっても、霊感だとかオーラなんてものを最近はとんと信じないのだが、神社や聖域などと言われる、いわゆるパワースポットのようなところで凛とした気を感じるように、病院にはなんだかイヤ~な感じを受けてしまう。

かあちゃんが面会に来たときに、ちょうどレントゲンを撮るところで、点滴をガラガラと押しながらエレベーターで階下へ下りた。

ドアが開くとなんだかがらんとして人気がなく、表示を見たら霊安室とあった

かあちゃん間違って、1階のボタンを押したつもりが地下1階だったのだ。

おいっまだ死んじゃいないぜ

何が言いたいかって、病院にはたいてい霊安室があって、それは天国に近い最上階ではなく、1階もしくは地下にあるのが普通だ。

どういういきさつで亡くなったかは知らねど、荼毘にふされる前の一時霊安室に安置され、家族や関係者と無言の対面をする。

そういう場所の上に病室があるわけで、外来の人や入院患者の発するイヤ~な、具合のワル~い雰囲気と、消毒やら薬品の独特の匂いと相まって、病院の空気を醸し出すのだ。


だから仮釈放とは言っても、とても気分が良くなったような気がして、足取りも軽く浅草まで歩いたのだった。

浅草に着くとちょうどお昼前で、昼飯を食べてゆくことにした。

病院の食事は規則正しく、カロリー計算もして薄味で少量という、ダイエットにはもってこいのものだが、食事制限も薬も飲まなくていいオヤジには全く物足りなく、6日ぶりにシャバに出たオヤジを、かあちゃんは痩せたやつれたとしきりに言う。

ならば、病院では望むべくもない高カロリーのものを食ってやろうかと伝法院通りを進むと、一軒の店が目についた。

いつもこのあたりを通ると行列が出来ていて、ちょっときつい感じのごま油の匂いが漂っているので、歴史のある老舗だということは認識していたが、いまさらお上りさんでもあるまいし、素通りして一度も入店したことがなかった。

だが魔が差したというのだろう、誰ひとり並んでいないし、のれんは出ているのになんだかひっそりしていたが、思い切って入ってみた。

テーブル席には2,3組の客だけで、2階にしますかとホール係のおばさんに聞かれたが、1階の窓際のテーブルにした。

「大黒家天麩羅」は創業明治20年だというから、老舗中の老舗だ。

席についていくらもしないうちに、どんどん客が入ってきて、2階席や奥の席へ消えてゆく。

外からは窺い知ることができなかったが、意外とキャパがあるんだなぁと考えながら待っていると、先に入店した人たちの天丼が運ばれてきて、その匂いが漂う。

病院での健康的な生活で嗅覚が鋭敏になっているのだろう、その匂いの中にコゲの匂いを感じ、ちょっと不安んになった。

そして運ばれてきた天丼。

オヤジのは、エビ2本とかき揚げ1本がのって1,700円。

かあちゃんのは、エビ1本ときす1本、かき揚げ1本のって1,500円。

いいお値段です。

今どきのカラッ、サクッの天ぷらとは見た目と触感も違います。

味は好き好きだから置いといて、丼からはみ出さんほどのエビとかき揚げをよけると、真っ黒なタレで染まったご飯が現れるが、やはり感じたとおりごま油のコゲた臭いが立ち上がる。

2,3口食べて、かあちゃんと顔を見合わせる。

こりゃ西のほうの人は苦手だわ

タレは濃いししつこいし、豪勢なエビもかき揚げもサクッはないのはしょうがないとしても、かたいし食べにくい。

おまけに頼んだわけでもないのに、ご飯をよせて丼を傾けるとタレが底に溜まるほどツユダクだ

周りを見回すと、みなさん無言で食べている。

老舗の店で難癖をつけるような無粋はしてはならぬと、じっと丼に目を落としおとなしく食べる。

が、かあちゃんはギブアップ、小声で白いご飯が食べたいとお茶をすする。

仕方がないから、かあちゃんが残した分もオヤジは始末した。


店を出て、口直しのお茶を飲んでから家に帰ったのだが、家に着くなりかあちゃんは食べたばかりの豪勢な天丼をトイレにぶちまけた。

そうして何度も空えずきが出るまで吐き続け、胃の中を空にして涙目で寝てしまった。

それから2日間体調を崩し、仕込みの最中もゲロゲロで、医者に行って気休めの薬を処方してもらってひたすら飯も食わずに寝ていた。

なので、退院したとはいえまだ執行猶予付きのリッパな病人のオヤジが、買い物をして食事を作ることになった。

まあそんなことがあったので、血圧上がっちゃうよねぇ

毎度おなじみの事だといっても、このオヤジが全ての元凶だ と糾弾されているようで、心安らかじゃないよねぇ

しかしそれでも、日々は過ぎてゆくのです。

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