お好み夜話-Ver2

昭和26年生まれのオヤジ

  
かあちゃんが「どじょうふんだ」そのとき、オヤジにもまた異変が起きていた。

鼻がグズクグズしてとまらず、放っておくとエイリアンのヨダレのようにタラァ~と垂れてきてしまう。
鼻っ垂らしの反省期オヤジほど、見苦しく不気味なものはない。
きっとバイクで走り回り、冷えきってしまったのだろう。
頭も重く、悪寒がとまらない。
まさしくこれは風邪の引き始め・・・。

この5月の悪夢が、脳裏をよぎる。
20数年ぶりに発した高熱、血圧と脈拍の異常な上昇、“人間やめますか ? 酒やめますか ? ”と医者に告げられ、悶々と苦しみながら、それでも20キロの減量をして甦ったのだから結果的にはよかったのだが、あの苦痛が再び、この暮れにきて甦るのは、なんとしても避けたい。

とっとと家に帰り、蕎麦を茹で、たっぷりの大根おろしとネギを熱々のあんかけにして汗をかいて食べ、みかんでビタミンCを補給、ショウガ紅茶でさらに身体を温め、ユニクロのヒートテックとタイツを身に着けて、万全の冷え対策を施し戦闘態勢を整えた。

その夜は、仕事納めの人たちやカップルで、店は混み合った。
忙しくなる前に、アルバイトの給料を取りにきてそのまま落ち着いた「トモちゃん」は、カウンターの端へと押しやられ、どさくさまぎれに入ってきた大酔っぱらいのおっさんに隣に座られてしまった。
おっさんはあきらかにベロベロちゃんで、オヤジが焼きに追われていなければ、間違いなくお引き取りいただくようなタイプだった。
年の頃は60ちょい前ぐらい、耳当てのついた帽子をかぶり、髪とヒゲは白髪の方が多いくらいのやせ形、前歯がかけて、タバコのヤニが染み付いている、“いかにも”といった感じの飲んだくれ。

しまった、と思っても、座られてしまったらしょうがない。
瓶ビールを1本出したが、メニューを見るでもなく、おしぼりでやたら顔を拭いて、ブツブツと何ごとかつぶやいている。
そのうち左隣の「トモちゃん」や右隣の男性にちょっかいを出しはじめ、タバコをくれとせがむに及んで、ついにオヤジのレフリーストップが入った。
するとおっさんは、客に説教するのかとすごむ。
だがそこで一歩もひるまず、説教ではないが、やってはいけないことはきちんと注意すると言ってやった。
さらにすごむおっさんに、脇から割って入った男がいた。

当店の常連さんの中で、唯一のMac使いのデザイナー「リュウちゃん」である。
彼は普段はずっと遅い時間に来て、あまり他の常連さんとは顔を合わせない異色の常連さんなのだが、年末進行も片付き、相方の「オミネさん」を待たずにフライングして飲んでいたのだった。
「リュウちゃん」はかあちゃんと同郷の肥後もっこすで、カウンターの平和を乱すたちの悪い酔っぱらいを見過ごせなかったようで、いきなり立ち上がるとネイティブな熊本弁で「表へ出ろ」と食って掛かった。
慌てたのは酔っぱらいのおっさん、由緒正しい熊本弁を聞いて、自分が不利だと濁った頭で考えたのか、オヤジが「リュウちゃん」をなだめると、トーンダウンして大人しくなった。

気まずい沈黙がカウンターに漂うが、おっさんのビールは後残り半分。
それを飲んだら出てゆくだろうことは察しがついていたので、まあ我慢していたが、やがておっさんは居眠りこいた。
まずそれを起こし、四の五の言うのをなだめすかし、全部飲むまで他人にちょっかい出さないよう話しかける作戦にでた。
口から唾を飛ばしながらおっさんが言うところによると、東京で生まれて北九州で育ち、今はこの界隈に住んでいるらしく、自分には町屋の“その筋の人が”ついているということで、なんなら電話して呼んでやるなんてほざくから、どうぞ呼んでくれと言ってやった。
するとおっさんは携帯の番号を押す振りをして、耳に当てるが、やがてしょんぼりと携帯をたたんでポケットにしまってしまった。

「あんた、いくつだい ? 」

突然おっさんが聞くので、同じくらいだ、大して変わらない歳だよと答えると、あっさりと昭和26年生まれだと白状した。
いやぁ、オイラはもう少し若いんですけど・・・、まあいいや、そう思わせておけ。
おっさんの自己申告によると、本日は日本酒一升、ビール5本、焼酎5。6杯を飲んだらしい。
おっさんのビールはあと3/1。
こうなりゃ一気に飲んで頂きましょう。

「なぁんだ、大して飲んでないじゃない。燃費悪いねぇ」

などと言いながら、残りのビールを全部グラスに注いでやり、乾杯などと言ってやると、おっさんは弾みでカプッと飲み干す。
ハイ、ありがとうございます、550円です。
ハイ、さいなら、とっととさいなら。

たぶんおっさんの明日の記憶には、あらかた残っていないのだ。
帰り道を見送ると、見事な千鳥足であった。
凍死しそうな夜だというのに、帰るアテはあるんだろうか・・・。

ひとしきり騒ぎが終わって、「リュウちゃん」と、合流した「オミネさん」だけになると、鼻水ちゃんがとたんにズルズルになってしまった。
終わったらどこかへ飲みに行きましょうか、という誘いを断って、とっとと家に帰り、厚着をしたままで、しっかりマスクをして寝た。
一晩で風邪の菌を絶滅させてやる !

はい、立ち直りました。
丈夫な身体に生んでくれて、ありがとうおっかさん。
そうなると、もう乾いちゃって、乾いちゃって・・・、嗚呼、燃費悪りぃ ase2 symbol5

今年も残すところ、今夜を入れてあと3日。
頑張らねば。

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コメント一覧

mogmas
携帯なくしたって、アンタ、またまたヘロヘロちゃんになるまで飲んじゃったのね。
何ごともなけりゃぁいいけど・・・、これじゃあよいお年をっていいにくでないの・・・
てせもまあ、とりあえずまた来年 !!
りゅうちゃんです。
この前はどうも!!
携帯なくしました。。。。
よいお年を!!
28日深夜(まだ仕事です。)
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