お好み夜話-Ver2

ひげ男の夜(第21夜 2005-10-01 10:15)

  
当店は、お客様が自分で焼かないスタイルなので、男性が一人で来店されることも多い。

カウンターで、本や雑誌を熱心に読みふける人もいれば、ひたすら携帯でメールを打ち込む人、黙ったまま身じろぎもしないで待つ人もいる。

基本的には、お客様のスタイルをじゃましないようにしているが、鉄板の上にジッと注がれる沈黙の視線は、正直、つらい。
こう見えても意外と人見知りするほうだが、なにかきっかけさえあれば、会話をしたほうが気持ちが楽だ。

ある晩のこと。

偶然とは予告なくやってくるもので・・・。

年格好も体つきも全く違う男性が、一人、また一人と、口裏を合わせたように次々と来店、カウンターへ。

椅子を1つおきに席につき、5人の男性がカウンターにわらわらと陣取った。
さりげなく視線を外す男たちの間に、気まずくも不思議な空気が漂う。

それもその筈、全員が口ひげ、あごひげ、どろぼうひげ(口の悪い「Cちゃん」の「スチャラかな旦那さん」に言わせると、オヤジのひげはドロボウだそうだ・・・beフン、今どき昔の漫画みたいなドロボウなんているもんか ! せめてヒゲ男爵くらい言ってくれ ルネッサンス~hinodehinode)と、ひげ男のオンパレードだったから。
焼いてるオヤジもひげならば、待ってる人も全員ひげ男。

この光景を第三者が見ていたら、相当ヘンだ。

「ひげ専科・モグランポ」の開店でござい。

とて~もおかしな空気の中、黙々と焼くひげオヤジ。
出来上がったものを黙々と食べ、かつ飲むひげ男たち。

やがてひげ男たちは一段落した。
誰がこの雰囲気を打破するか、緊張が走る。
そこへ、何と不運な・・・。

うら若き女性が2人、ご来店。

いっせいに振り向くひげ軍団。

ギョッと、立ちすくむ女性2人。

顔を見合わせ、恐る恐る、「あの、いいですか・・・」

も、もちろん!
はじけるオヤジ! 満面の笑みで。

「どうぞ、いらっしゃいませ!」

緊張の糸がほぐれ、帰るタイミングはここだ、とばかりに、お会計になだれ込むひげ男たち。

そして平安が訪れた。
口開けに端のカウンターについた、口ひげの(名前までは知らないのが、何度か来て頂いている)男性は、小さく息をつき、かすかにオヤジを見て苦笑い。

その後、「ひげ専科・モグランポ」のメンバーが一堂に会することはありませんでした。

数年前の、世にも不思議なお話の一席でございます。
お後がよろしいようで・・・。


このことがあったかなり後、ヒゲの手入れをしていてうっかり片方を中途半端に剃ってしまい、もう取り返しがつかないので両方剃り落したことがある。
でも常連さんでもしばらく気がつかなかったほどの、存在感のない“ドロボウひげ”でございます。
ついでながら・・・。

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