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お好み夜話-Ver2

なくなったら終わり

高校1年の2学期に入った時、学校をやめたいと担任の女教師に言ったら泣きながらとめられた。

千住村から川向こうの学校に入って、習慣にも友達にも馴染めなくて嫌で嫌でしょうがなく、このままテキトーに高校に居続けるよりは社会に出て稼ぎたいと思ってしまったのだ。

でも新任の教師に泣かれたことでシラケてしまって、高校はやめずに朝晩新聞配達のバイトをして金を貯めて様子を伺っていた。

高校2年の夏、密かにキャンピング仕様に改造した自転車で家を出た。

野宿しながら四国を目指し、途中の三島・名古屋・大阪で親戚に頼って泊めてもらったことで親に足取りがバレてしまったが、そのまま四国を一周して小豆島に入ったところで自転車のフレームが折れてしまった。

メーカーに連絡して岡山で修理してもらえることになったが、なんだか熱が冷めてしまって、フレームもタイヤもギヤもすっかり新品になった自転車で来た道をまた東京へ戻った。

そんなことがあってからは少し吹っ切れたのか、クラスの連中ともこだわりがなく付き合えるようになり、徹マンしたりバカをやったり、その後50年も時どき会って酒を酌み交わせる仲でいる。


土曜日にかつてのクラスの仲間に誘われて酒を飲んだのだが、10年ぶりぐらいにお目にかかるヤツもいて高校時代の話しで盛り上がった。

誰それがあの娘と付き合ってただの、誰と誰が中学が一緒だったとか、あの娘が可愛いだのアイツがケンカが強いとか、皆んなよく覚えていて相槌打っているが、高校に馴染めなかったこのポンコツは話しの半分もわからなかった。

そんな話しの中で、当時はスカートが長くて、でもいい感じの「ユイちゃん」のママにちょっと似ている女子に、「あの頃は斜に構えていたでしょ」と指摘されその通りですと頷くよりなかったりして。

まあなんにせよお爺ちゃんお婆ちゃんたちはとりあえず元気で、よく笑いよく飲み、今どき絶滅危惧種並みに盛大に紫煙を噴き上げ、半個室の天井は霞むほどだった。

そんなチェーン店の居酒屋で出てきた玉子焼を食べ、
なるほど、これもアリなんだと感心した。

お手軽だけど皆んなおいしそうに食べていたし、やはり玉子ものは強いとあらためて思った。

今度やってみよう。


宵の口の8時にお開きになって、麻雀をしようという連中とは別れて千住に戻った。


夜外へ出るのは久しぶりだし、まだ早いから寄っていこうとBAR「二月屋」の扉を開けた。

去年ここのマスターに「東京マラソン」の伴走をお願いするかもしれないと言ったきりだったから、不甲斐ない状況も話しておきたかったし、残り少ない「TEN  HIGH」も飲みたかったし。

静かな落ち着いたBARでひとり飲むバーボンの美味さよ。

マスターのご厚意で現在では出回っていない銘柄を入手してもらい、コロナの前からチビチビと、このオヤジだけのキープボトルみたいにしてもらっていた。

しかし調べてももうこの「TEN  HIGH」は入手できないと言われ、このボトルが最後になるかもしれないと告げられた。

まあそれは仕方のないことだけど、ちょっと寂しかったりして・・・。

グラスを掌で包み、

「これを飲んじゃったらあの世に召されちまうかもね」

なんて呟いたらマスター苦笑。

良くも悪くも「東京マラソン」を走るなんて人はそんなに簡単には死にませんよ、と諌められた。

ゆっくり味わいながら「TEN  HIGH」を3杯ロックで飲み、「生きてたらまた来るよ」とここ数年来の常套句を吐いて店を後にした。


いい夜であった。

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