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お好み夜話-Ver2

港町名物「ふー」を食べる 「タコは見ていた」 外伝 

【過去ログ発掘シリーズ2006/7/19】

 


海沿いを走るローカル線に長いこと揺られ、その駅で降りたのは私だけだった。 

 

電車が発車し、遠ざかると、とたんに静寂がおとずれた。 

 

真夏だというのに、セミの鳴く声すら聞こえない。 

 

ひんやりした駅舎を出ると、午後の陽がカッと照りつけ、汗がじわりとにじみ出るのを感じた。 

 

小さなロータリーには客待ちのタクシーが1台、運転手は退屈しきって鼻をほじっている。 

 

見渡すとどこか懐かしい感じのセピア色の港町で、駅舎のすぐ脇には、昔ながらの円筒形の郵便ポストが置かれ、その赤色がやけに目に鮮やかだった。 



潮風の中に馴染みのある匂いがただよっている。 

 

港を背にして数件の土産物屋が並んでいるが、どの店の店頭にも「たこ焼」の焼き台があり、そこから油とソースの入り交じった匂いが漂っていることが見て取れた。 

 

私はゆっくりと歩き出し、一軒の土産物屋の前で立ち止まった。 

 

鉄板の上にはもうすでに焼き上がって丸くなっている「たこ焼」がジュウジュウと音を立てているのに、店の人間は見当たらない。 

 

ふらっと店の中へ入ると、天井から床の上まで「熱帯雨林」方式でところ狭しと商品が陳列されている。 

 

町おこしの一環で創造されたキャラクターなのか、バッグやタオル、Tシャツなどあらゆる商品に、ひょうきんな「タコくん」がプリントされて、みんな同じ方向を向いて口を尖らせている。 

 

さらに奥へ進むと、地方の「ゆるキャラ」の商品が、しだいにリアルさを増してきて、タコ入道、タコの化け物、オクトパス、クラーケンと、



円谷英二が喜びそうな奇怪な大ダコどもがのたうつ様を造形されたフィギアの巣窟と化した。 

 

その中にウルトラマンやゴジラなどの怪獣フィギアも混ざり、いつしか私はショーケースに収まった価値のありそうなフィギアを、顔を押し当てるようにして覗き込んでいた。 

 

板張りの床(フローリングではなく、使い込まれ磨き込まれたぶ厚い板張り)がギイーッときしみ、我に返った私は、店の奥に四畳半ほどの小上がりを見つけ、そこに腰掛けて携帯電話でメールを打ち出した。 

 

そうするうちに睡魔に襲われ、そのまましばらく寝てしまったようだ。 

 

小上がりに胡座をかき、舟をこいでいたのだろう。 

 

ふっと頭が垂れたひょうしに目が覚め、覗き込んでいる初老の婦人と目が合い、ばつの悪い思いで“どうも”と頭を下げた。 

 

婦人はべつだんなんでもないように、小上がりの奥へ顎をしゃくり、大きなちゃぶ台の向こうに座ってこちらを見ている親爺に合図した。 

 

陽と潮に晒された赤銅色の皮膚にノミで刻んだような皺だらけの顔の親爺が、私を手招きして向かい側に座らせると、

 

「まだメシぃ食ってねぇんだろ」

 

とギョロリと見て言った。 

 

ちゃぶ台の上には、キャベツの切れっぱしがちらばり、こびりつき、もう何日も台の上を拭いていないようだった。 

 

 

 

親爺はパンパンと手を打って、メシの催促をすると、すぐに奥から盆を捧げ持った先ほどの婦人が現れた。 

 

ちゃぶ台の上に配膳された皿には、大盛りの千切りキャベツと薄切りの牛肉らしき肉が少々、薄く切られた生ダコが盛りつけられていた。 

 

もう一つの風呂桶のような器の中には、グラグラと煮立った液体が湯気を上げている。 

 

「じゃ、食うべ」 

 

と親爺が言い、大きな手でガバッと千切りキャベツを掴むと、風呂桶のような器に一気に放り込んだ。 

 

大半は器の中ですぐさましんなりするが、入らなかったキャベツはさらにちゃぶ台の上を散らかした。 

 

親爺は箸で器の中のキャベツをつまみ上げ、「フーッ、フーッ」と冷まして口の中へ押し込んだ。 

 

やってみろと催促されて、同じようにキャベツを熱い湯の中に放り込み、箸でつまみ「フーッ、フーッ」して口の中へ入れた。 

 

「どうだ、うまいべ。ふー、は」 

 

と笑ったので、その食べ物が「ふー」ということがわかった。 

 

親爺はキャベツは平らげたが、肉とタコには手をつけない。 

 

なぜだか訊くと、「それが、ふーってもんだ」と答える。 

 

お腹が一杯になったので、そろそろおいとましますと、靴を探すが見当たらない。 

 

先ほどの婦人に訊いても横に首を振るだけで、ラチがあかない。 

親爺に尋ねても、

 

「だって、ふー食ったべ」

 

とにべもない。 

 

私の靴、靴を返してくれ。 

 

途方に暮れる私に

 

「だって、ふー食ったべ」

 

と言い残し、親爺は奥に引っ込んでしまった。 

 

ああ、このまま一生ここに座っているのか・・・。 

 

 

(( _ _ ))..zzzZZ

掛け布団を蹴っ飛ばして薄目を開けた。

 

またまた、タコの登場する夢を見てしまった。 

 

しかもすごーくリアル。 

 

ふーって、なんだべ ? 」

 

気持ちの悪い起き抜けのオヤジは、誰かに話してこの夢を忘れてしまおうとかあちゃんをつかまえるが、どこかへ用事で出かけるとかで、まともに聞いてくれない。 

 

とてもスッキリしないので、ブログに書いてしまった。 

 

なんでこんな夢を見たのだろう。 

 

フロイト博士なら「あんたは抑圧された性の奴隷だ」とでも言うに違いない。 

 

ユング先生は「近い将来あんたの身の上に振りかかることが暗示されている」とでも言うのだろうか。 

 

書いたことによって、なおさらはっきり夢が定着してしまったようで、気持ちが悪いったらありゃしない。 

 

どこかの地方の港町に、ほんとうに「ふー」という食べ物があったりして。 

それとも「パイレーツ・オブ・カリビアン」を劇場で見ろという暗示かも。 

 

魚河岸のタコ屋の兄ぃに訊いてみようかな。 

 

う~っ、スッキリしない・・・。 

 


 

 

この夢から幾星霜?

 

もうずいぶんタコの夢をみていないし、タコもあんまり食べていない。

 

何でもすぐに調べられる時代に検索すらせず、「ふー」という食べ物が本当に存在するのかどうかもいまだにわからない。

 

もし「ふー」があったとしても、すごく食べてみたいとは思わないのだが・・・。

 

どうしたらタコの呪縛から解放されるのだろう⁇¿¿


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