お好み夜話-Ver2

執行猶予付き仮釈放

入院して6日目の朝、すんなり退院とはいかず、朝食のあと心電図と心臓超音波検査、いわゆる心エコーを撮ることになった。

上半身裸になって診療台に左を下にして横たわり、ヌルヌルのジェルを塗られてジョイスティクのようなもので胸をクリクリされると、モニター画面に我が心臓ちゃんの姿が現れる。

ちょっとレーダーの画面みたいだが、場所を変え画像を切り替えると、はっきり心臓ちゃんが脈動している姿がわかる。

心臓ちゃんの弁が開いたり閉じたりして血液を送り出す様子が、なんだか口をパクパクしている生き物に見え、嗚呼こいつは生まれる前からオヤジの中で頑張っているんだなと実感した。

規則正しい波形が画面に現れると、コンピューターの中で加工された心臓ちゃんの音が響く。

それがまたエイリアンの声を解析しているようで、人体という深宇宙の危機を警告しているかのように聞こえる。

やはりオヤジの心臓ちゃんは、流れにくくなった血液を懸命に押し出そうと頑張ったあげく、肥大したのだった。


診察が終わって病室に戻ってくると、すぐ会計が上がってきて、かあちゃんも同時にやって来た。

荷物をまとめ、手首に巻かれたバーコード付きのリストバンドをはさみで切ってもらい、やっと病院から仮釈放になった。

すでに次の入院予定と手術日が決まっていて、お腹の中には逃亡防止のための ? ステントが埋めこまれているので、執行猶予付きの仮釈放だ。

そうは言っても6日ぶりのシャバだ、大きく深呼吸をして隅田川沿いの遊歩道を歩いて浅草に向かった。

天気は良くないけれど気持ちが良く、入院中ずっとモヤモヤしていた気分が晴れてゆくのがわかる。


ジョギングの人と何人もすれ違い追い越され、ゆっくり風に吹かれて歩く。

今一番何がしたいかと問われれば、「酒が飲みたい」ということよりも「走りたい !! 」という事のほうが勝る。

気持よく走れる身体を持っていれば、すなわち酒も飲めるしなんでもできるんだということを、今更ながらに痛いほど実感した。

今は薬も飲んでいないし、寝てなきゃいけない病人でもないから、収監されるその日まで仕事をしたいと思う。

もちろん酒はご法度だ


浅草からTXに乗って千住に戻ってくると、さすがにちょっと疲れた。

昨夜は明け方まで眠れなかったので、歩きながらあくびが出る。

家に戻って少し片付けたりしていたら、もう本当にまぶたが重くて耐えられず、コテっと寝た。

かあちゃんもとりあえずホッとして、オヤジより先に寝てしまった。

明日は仕込みをしなければ店を開けられない、やることは山ほどあるが、ボチボチやろう。


4日の金曜日から再開したいと思うけど、今週は早めに閉めて身体の様子をみたい。

そういうことで

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