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プラムフィールズ27番地。

本・映画・美術・仙台89ers・フィギュアスケートについての四方山話。

◇ ティム・オブライエン「世界のすべての七月」

2022年10月27日 | ◇読んだ本の感想。
タイトルが素敵だな、と思って課題図書リストに入れたんだけど、
実際に読む順番が廻って来て詳細を見ると、訳者が村上春樹。
……これは多分嫌いだろうなあ。
村上春樹が嫌いなわたしは最初からあきらめていて、予想通り嫌いだった。

こういう辛い話は嫌なんだよ。
大学時代の同学年会(卒業年度が同じ)に集まった53歳の人々の人生の光と影。
というより影ばっかり。光のように見えても全員影を抱えてる、という話。

これは少々変わった成立をしたらしい長編小説で、
そもそもは短編小説として各個人の人生を描いたものだったそうなんだよ。
だがそれらの登場人物は何とか大学の同学年の卒業生ということらしく、
のちにそれを繋げて(繋ぎの部分も加えて)長編にしたらしい。

それを知ったのは事後だったので、特に意識せずに読んでいた。
言われてみればかなり切り替えの多い作りだった。
まあわたしは章立てが短くあってくれた方が読みやすくて好きだけれどね。
読むのが大変な小説は特に。

だがそういう作りの弊害なんだろうか、とにかく登場人物が多すぎて。
こっちだって単行本460ページ超の本、一度では読めないんだから
間に何日か挟むわけですよ。
そうするとその間に全部記憶から抜ける。

何人くらい出て来たかなあ。主要登場人物だけでも20人くらいか。
乳がんになった人。
いわゆる「幸せな結婚」をしていて、しかし不倫をしてしまい、しかも
相手の男が不倫旅行中に溺死してしまい、その秘密に押しつぶされそうになっている人。

大学時代に惚れていた女性にアプローチする人、しない人。
インスタントな関係の夜を過ごす人があっちでもこっちでも。
不法侵入で逮捕されてしまった女牧師。
大学時代と同じキャンパスクイーンのイメージを保ちたくて
若作りをして無鉄砲な行動を繰り返す人。
やれやれ、ですよ、こんな話は。

くだらないと切り捨てるべきではないのだろう。
もっと共感をもって読めれば面白いのだろう。
しかしこんな話は――大なり小なり、こんなくだらない話は、
現実にいくらでも転がっている。だからこそ、改めてそれをフィクションで
読み直したくはない。
別に成功者の話が読みたいわけではない。美しさのある話が読みたいのだ。

そういう人はこの小説を読まなくていい。


ただこの本で啓蒙された部分があって、それは冒頭の一章。
そうか、アメリカが月面着陸を成功させていたのとまさに同じ時期に、
アメリカはベトナムに兵士を送っていたのか――。

ベトナムの片隅の川辺で襲撃を受け、隊長である本人以外は小隊全滅してしまう。
まさにその時、ラジオからは月面着陸を今か今かと待つニュースが流れていて。
惨たらしい死と華やかな月面着陸。
これは単にフィクションではなかった。実感を持って想像出来た。


原題は「July,July」。
これを「世界のすべての七月」というタイトルにしたのは村上春樹で、
それがなければ読まなかったんだからいいタイトルなんだろうけど、
このタイトルならもう少し爽やかな内容の小説だと思うよねえ。

嘘を吐かれた気分。
まあ「ジュライ、ジュライ」だったとしても楽しそうな話なのかな、と
誤解をするだろうが。





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