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< 女人平家 >(ドラマ・BS11再放送)

2013年05月07日 | ドラマ。
再放送という意味ではものすごい再放送。なにせ最初の放映は1971年ですから。


わたしははるか昔に、これの原作である吉屋信子「女人平家」を読んで。
吉屋信子は少女小説なんかを多く書いた人で、そういう意味ではこれも、
平家について書きながらも、全体的な雰囲気は甘め、でもそこがいいという作品。
読んで、その時はかなり気に入った記憶がある。
……だが、おそらく再読はしていないので、正直細部は不詳。

テレビ番組表をチェックしていると、「女人平家」という番組があった。
へ?あの女人平家かいな、と思って見てみると、……そうですか、当時ドラマ化されてたんですか。
なんか……すごいね。けっこう大がかりな話だった気がするし……片手間じゃあ作れませんよ。
40年前のドラマ作りがどんなんだったか、という興味を含めて、録画して見てみた。


あ、その前に若干前日譚がある。
はるか昔の大河ドラマ「草燃える」が大層面白かった記憶がある。名作だと思っていた。
こないだそれが再放送されたのを楽しみに見たところ、
――画面のちゃちさがひどく、演技もひどく、見てられないの。
ええっ!こんなんだったか?と落胆し、1回見て止めた。

「女人平家」はさらにその前に作られたドラマ。
ちゃちさはさらにひどく、演技も今の時代とは全く違うだろうし、
まあ1回2回見て終わりだろう。と思った。



と、思ったらアナタ!これが予想に反してなかなかいい出来で!



とにかくセットが凝っている。常に小うるさく、しかも源氏物語好きのわたしが
平安時代のセットとして、なかなかやるじゃないか!と感嘆したんだから、けっこう凝ってますよ。
ここまでしてくれるかと思った部分が多い。時代考証は別として。

寝殿造りを相当に大掛かりに作ってる。(しかもそれを燃やす)
小物を丁寧に作っている。几帳とか、文箱とか、二階厨子とか。伏籠なんかもあったな。
しかもちゃんと香を燻らしているところがニクイ。
置物、飾り物は、省略すればどこまでも省略出来る部分なのに、がんばってけっこうな量を揃えていて。
卓上暖房器具(名前がわからん)なんて……その存在を聞いたこともないような
マイナーどころなのに、また手をかけて作ってるわー。襖絵なんかもちゃんと描いて。

衣装もふんだんに。着たきり雀のドラマも数多いというのに、女房たちの衣装まで、
けっこう豪華でしたよ。まあ回によって若干の質のばらつきはあれども。
衣装の質感が、今のものよりもずいぶん上質な気がした。デザインも凝ってた。


演技は今とはだいぶ違う感じで、なんというか、様式的。
あれは舞台演技が残っているということなのかな。それとも同時代のドラマとしても、
時代物独自の演技なのかな。

ここは好き嫌いが分かれるところだろうが、わたしは意外に……その動きの少ない演技が好きだった。
なんといっても、そのゆっくりした長台詞を聞いてて気持ち良かった。
きれいな言葉が使われている気がした。
現代の女優さんではおそらく言えないような言葉づかいを、このドラマでは素直に言えていて、
そこが気持ち良かったなあ。現代語にしたレベルが、あまりにも下がり過ぎてなくて良い。
立居振舞も、今の若手の女優さんには難しそうなおしとやかな動き。やはり時代かねえ。
今は元気に歩きすぎるから。



ここまで金をかけたドラマだから、当時の有名な俳優を使っているのだと思う。
しかしわたしは残念ながら、吉永小百合と佐藤慶と有馬稲子しか知らなかった。
田中絹代を初めて見て、おお、この人が有名な……と思った。
浜畑賢吉と下元勉は、なんとなく見覚えがある気がしたが。
あ、あと加茂さくら(北条政子)がだいぶ後半になってから出てきた。

この中でものすごく光っていたのは時子を演った有馬稲子。
わたしは、とある理由により、有馬稲子を好きなのだが、じっくり演技を見たのは初めてかもしれない。
上手いなあ、と思った。このドラマの扇の要は彼女だ。
彼女一人が演技的にはたっぷり。

でも田中絹代も、棒読みみたいに見えたけれども、その台詞回しを聞いていると気持ち良かった。
佐藤慶は……なんだかなあ、と言いたい棒ぶり。平清盛としては、わたしは大変に不満である。
時子に完全に食われているやないか。

吉永小百合は、きれいだった。きれいだった。きれいだった。
わたしは吉永小百合、その立ち位置がキライで好きになれない女優なのだが、
この時の吉永小百合はその美貌と可愛さを存分に生かし、ほんときれい。
役柄は……若干説得力がない気もするし、内面をもっと描かなければならないのでは?
という疑問もあるが、悲恋のヒロインとして、とにかく美しくて吉。……オジサマ連をとやかく言えんか。

時子の末娘・典子を演った(当時の)現代っ子らしい新藤恵美なる人も、
顔立ちは派手で衣装が全然合わず、最初はううむ、と思ったが、
後半の、主役というか狂言回しの役をちゃんとやっていた。吉永小百合より役柄的には中心かも。


女人平家といいつつ、目立つ役柄は限定されていて、時子、次女?の佑子(吉永小百合)、
末っ子の典子と、佑子の女房汐戸(田中絹代)、典子の乳母で汐戸の娘の安良井(三田和代)
くらいなのだが、平家の姫たちにもう少し華やかな役者を持って来ても良かった。
話としても、もう少し他の姫のことも書いて欲しかった気がする。
まあそうすると20話では収束しないか。


ストーリー的には多々不満もあれども、やはり20話くらいかけて作ってくれると
中身もそれなりに充実しますな。わたしは昨今のドラマのひどさは、ワンクール9話?10話?が
作っているのではないかと思うので、半年を基本にしたらずいぶんましになるんじゃないかと思う。
その分脚本を練って作れと。

今は粗製濫造だもの。ネタもそうそう湧き出すものじゃないし、
時間がないから脚本が全然練れてないし、間で見せるとか映像に語らせるとか、
そういう部分に全く作り手の意識がいかない構造になっている。
だから手っ取り早く視聴率を稼ぐために、固定ファンがいるアイドルを持って来て、
1時間何かやらせているだけなんだよね。時間さえ埋めればいいと思っている。

フィクションの価値は細部なのになあ……。残念でしょうがない。


そういう意味で、細部をたっぷり見せてくれたこのドラマは40年前にもかかわらず、
見どころの多いドラマでした。合戦シーンとか政治シーンはカットするだけしてあるけど、
まあそれは「女人平家」なんだから、そこまでは要求しない。
雅やかな時空を垣間見せてくれたことが価値。
もし宜しければ、源氏物語をこの5倍くらいの雅やかさで作ってくれたらさらに嬉しいけどね。



“雅やかさを見せることだけを主題にしたドラマ”――こういうの、ありだと思うよ。
何かに特化した作品。近年だと「SP」かな。ああいう暗いかっこよさを追求したドラマは、
わたしの好みにはそう合わないが、制作物としては時間埋めのドラマよりはるかに評価出来る。
“こういうものを作りたいんだ!”という意志が伝わってくるもの。
作り手が作ることに情熱を持たずして何としょう。作らされてるようでは、それは創造物じゃないですよ。



20話、楽しんで見ることが出来ました。重畳。
……っていうか、放映中に記事書いとけば良かったね。皆さんにちょっと見て欲しいドラマだった。



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