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◇ 森銑三「明治人物閑話」

2023年03月12日 | ◇読んだ本の感想。
ここ半年くらいで3冊か、森銑三の本を読んだ。
この人は、それまで聞いたことがなかったんだけど、実はたっぷり著作がある著述家。
明治半ばくらいの人ですか。――わたしからすればそういうイメージだけど、
実際には昭和60年に89歳で亡くなったんだから、人生の3分の2は昭和ですな。

最初に読んだのは「おらんだ正月」だったかな。
その後読んだ本も合わせて、逸話集をたくさん書いた人である様子。
それも平易な、ベースに話し言葉がある文章で。

wikiによると、アカデミズムの道を歩いては来なかった――あるいは少なくとも
その道のりは短かったようだから、在野の文学者という雰囲気が強いが、
それでもなお(だからこそというべきか)、こういう著作があることに
感謝したい気がした。

文学者や、幕末、明治初期の武士、公家、あるいは歌舞伎、各分野の芸能人。
同時代の彼らに関する逸話、豆知識、雑学を丹念に集めたものなんだよね。
それも通常出回っているレベルの逸話じゃなくて、もっと細かい、
換言すればもっとどうでもいいレベルの、ほんとにちょっとした話。

誰もが「ほう、なるほど」と思う逸話は残ると思うのよ。これは当然の話。
でもそこまでではない、もっとちっちゃい話は、わざわざ書き残そうとしない。
それを丹念に拾う。落穂拾いともいうべき。
この人が書いておかなければ、わたしが読むこともなかっただろう、本当に小さな話。

最初の本である「おらんだ正月」を読んだ時により強く思ったが、
そのおじいちゃん的語りの有難みを感じたなあ。
自分の昔の知り人の話を、つれづれに語ってくれる。
おじいちゃんのその人たちに対するほの暖かい愛情を感じる。

――が、森銑三が生きた時代の、広い意味で彼が親炙した人って、
全然知らない人であることが多くて。
漱石、鴎外、西郷隆盛や板垣退助の話ならちっちゃくても面白くても、
巌谷小波、饗庭篁村くらいはもやもやーっとなんかは浮かんでも、
それよりマイナーになるとまったくついていけないわけで。

まったく知らない人のちっちゃい話を、ちっちゃい字で何十冊も読むのは
なかなかに苦労なので、面白くはあるんだけど森銑三はこの3、4冊でいいことにする。
著作がほんとにたくさんあるんだもの。

しかし書いてくれたことには感謝する。
何年も経って、そういう風が吹いたらまた戻ってきたい気がする。

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