その職人さんは自分の仕事にやはり誇りを持ち、常に向上心があって、どうしたらもっといいものができるだろうと考えていました。
もう何十年と同じものをつくり続けているのにです。
その熱量や誠実さに触れ、美術品として残るものじゃない、けれど浅沓の技術や歴史はつくる人と使う人を通してこうして残っていくのだなと感動しました。
ところが伊勢型といわれる伊勢独特の浅沓は急に姿を消すことになりました。
後継者がいなかったのです。
「浅沓の収入では生活するのがやっと。息子にはこんな苦労はしてほしくないから継がせたくない」
これは職人さんが生前に仰っていたことです。
そしてこれは浅沓だけでなく、全国の多くの職人さんが思っていることだと思います。
その後、私は工芸グループに所属します。
三重県の工芸グループ「常若(とこわか)」と東海3県の工芸グループ「凛九(りんく)」です。
活動をする中で、ありがたいことに百貨店に出店させていただく機会をいただきました。
・ニーズに合った商品開発
・商品を良く見せるためのディスプレイづくり
・数日間に渡り商品棚を埋めるための商品数の制作
・売るということ
どれも初めてのことばかりです。
すべてに時間とお金が必要で、売らないと赤字になってしまう。
生活費どころか次の活動資金すらなくなってしまうのです。
ものを売って生活することの大変さを実感しました。
そしてなるべく安価で手に取りやすい、買ってもらいやすい商品はどんなだろう?とばかり考えるようになっていったのです。
・いま世の中ではこんなものが流行っている。
・ならば同じアイテムを漆でつくってみたらどうだろう?
ふと気づけば、流行を追った商品づくりをしていた、企業で働いていた頃の自分と同じ自分がそこにいたのです。
守るより攻めたい③に続く