物語にもならない

へたくそな物語を書く主の部屋

神様の課題  第一章 冥土の土産

2018-10-21 19:53:20 | 物語
 いやはや、地上の動物たちは次々と引退してしまった。
どの動物として輪廻を拒んだため、その分人間の兄弟を増やして地球の均整を保った。
そしてとうとう今現在65億人という膨大な人数になってしまいとうとう神様の目が全ての人間に行き届かなくなってしまったのだ。

ある日、神様はモニターが必要だと考えた。そこで神が自ら雲粘土でこしらえた”空(から)の人”を地上に送り込むことにした。

”空(から)の人”は外見やあらゆる能力については、その国その国の人間の平均値を全てかき集めて作られたので、どこも変なところはないし、また秀でた所があるわけでもない。体系も顔もスタイルも髪の色も目の色も肌の色も頭の良し悪しもその国の平均値で創り上げられた。
一方で人間とまるで異なったところは、心が空っぽなところである。
何も感じないという意味ではないし、空しいという意味でもない。むしろその逆で自我のある人間より敏感に単純に物事を心に取り込んで行くのだ。
人間であるならば何度も地上に輪廻して生まれている為か最初から自我が備わっている。好き嫌いとか、自分がいちばん可愛いとか、思い違いから生まれる嫉妬とか、意にそぐわない者への底意地の悪さとか、他人の考え方は自分と同じだという思い込みとか、勘違いである。色眼鏡も最初からかけて生まれてくるし、考え方に偏りもある。

だが彼ら”空の人”にはそれらが全くないのだ。初めて人間の形をもって地上に生まれる。真っ新な心を持ち地上に降り立つ。その真っ新な心は白紙と同じでなんのゆがみも色もなくどんな偏見も持っていない。
さて、この真っ新な心を持った”空の人”に人間はどのような体験をさせ、どのような気持ちにさせ、そしてどのような仕打ちをしてゆくのだろうか・・・・・・?

遣いA「神様!空の人1012番が帰ってまいりました!」
神「どれ、状態を見せなさい。」
遣いA「こ、こちらです。」
空の人1012の心の中を開けてみると、ドロドロのヘドロが詰まっていました。
神「これはなんだ?」
遣いA「はい。あらゆる人間の悪意が空の人の心をも腐らせたと考えられます。」
神「これが人間の悪意とな・・・・・」

遣いB「神様!空の人3356番も帰ってまいりました」
神「なんと、3356番はまだ送ったばかりじゃないか。人間で言うと15歳くらいじゃぞ?」
遣いB「はい。それが・・・自死のようなのです。」
神「自死??よし原因を探ってみよう」
心を開けてみると、冷たく凍り付いた大きなサボテンがごろりと出てきました。
神「これはなんじゃ?」
遣いB「はい。これは人間の心の棘が空の人の心に突き刺さった結果、自らがサボテンの心を持ったのでしょう。しかしそのサボテンは心の中で成長し、やがて自分を追い詰めたのだと思われます。その上、どういうわけか暖かい人間の心に触れたことがなく凍り付いてしまったのでしょう。彼はどれだけ孤独だったことでしょう?彼は遺書に自分と同じような人を探しているがみつからない寂しい。みんな冷たい。なぜ自分だけこのような人生なのかと嘆いておりました。」
神「なんと。15年間生きてきて一度も人間の温かみに触れなかったというのか・・・」

遣いC「神様!大変です空の人が帰ってまいりましたが、心がなくなっています!」
神「なんだって!?空の心を失くして帰ってくるとは、これいかに?」
遣いC「会う人会う人に嘘をつかれ、それを信じて生きているうちに、いっそのこと、心を失くした方が楽になると思ったのでしょう。」

あくる日もあくる日も、汚いヘドロやネズミの死骸や凍り付いたナイフや粉々に割れた心が帰ってくるばかりでした。
真っ新な何も入っていない心を持たせて地上に送り込むと、このようになってしまうものかと神はショックを覚えました。
結局、2000人ほど帰ってきても、”空の人”たちの心の中には、幸せに生きた形跡が残っていたものはほとんどありませんでした。
徐々に神様は、心に自我がない”空の人”は人間にとってはただのゴミ箱か掛け口かうっぷん晴らしの道具にしかならないのではないかと悟りはじめた。

そこで神は、あるごく普通の人間に夢の中で聞いて回ってみることにしました。

神「おいそこの君、ちょっと聞きたいことがあるんじゃが」
少女A「なあに?だれ?なんでそんな神様みたいな恰好してるの?もうハロウィンだったっけ?」
神「分かりやすい恰好をしてみたんじゃ。それより、ちょっと聞きたいことがある。」
少女A「何?早く聞いてよ。」
神「あなたなら、心が真っ新な人を友達にしたいか?それともいじめたいか?」
少女A「さぁ、そんな人に会ったことないからわかんない。」
神「いや、あなたは会っている。ワシが作った”空の人”名前はそうそう確かカノンと言ったかな。」
少女A「あぁ、この間転校してきた子ね。あの子ちょっとおかしいわよね」
神「何がおかしいんじゃ?」
少女A「何もかもが普通なのに、何も知らないの。自分の意見をあまり言わないし人の悪口を一緒に言ってくれない。だからつまんない。いつも自分だけいい子ぶってイライラするわ。」
神「イライラする?つまらない?なぜ?」
少女A「だってそうじゃない。一緒に誰かの悪口言ってくれないんだもの。一緒にいたずらもしてくれないし、つまらないわ。」
神「はぁ、そんなもんかのう。」
少女A「ねぇ、あなた本当の神様じゃないよね?」
神「本当の神様じゃがなにか?」
少女A「あの子のこといじめたら、私地獄行く?」
神「いや、行かない。」
少女A「な~んだ(笑)」
話が終わったあと、地獄へ行くと言えばよかったのかもと少し後悔した。

続いて空の人3356番と同級生だった一人の少年の夢に出現した。
神「やぁ。君は3356番のことをどう思っていた?」
少年B「どうって?死んだ人の悪口は言えないよ。」
神「これは夢だなにを言っても罰は当たらないよ。」
少年B「・・・・そうだな、少し暗い奴だったよ。でもまさか死ぬなんて」
神「いじめられていたのかな?」
少年B「正直そうだね。」
神「なぜ?いじめる理由は?」
少年B「弱かったから」
神「弱かったから?蟻んこも弱いぞ?」
少年B「はぁ?そりゃそうだけどさ(笑)」
神「なぜ人間は人をいじめるんだい?」
少年B「だって見てるとイライラするんだもん(笑)」
話が終わったあと神は、やはり地獄も創った方がいいのかもと考え始めました。
しかしこれは、愛するべき我が子のただの勘違いであり、輪廻による証でもあるのだからと心を落ち着かせるのだった。

つづく