物語にもならない

へたくそな物語を書く主の部屋

もうひとつ

2018-03-27 12:24:49 | 物語
 裏地球の人々の主な意思疎通は音楽でした。全ての大人が作曲家であり何らかの楽器を弾くことができました。
子供の頃はまだ楽器が弾けない人が多いので、声をメロディにして表します。それと同時に小さい頃から楽器の練習をします。ですから上達した人ほど流暢に意思疎通ができる社会でした。なんらかの原因で楽器を弾くことが難しい人は、声で音楽を奏でました。
ある子供はバイオリン、ある子どもは鍵盤楽器、ある子どもはマラカス、ある子どもはトランペット、ある子どもは声、という具合で一生懸命練習しましたので、表の地球から見たらこの惑星の大人は唄か楽器のプロということになるのですが、そこではそれが普通のことでした。
そして、自分のできない楽器を奏でる人を尊敬しその音色を尊重しました。ここでは、楽器の音色は”個性”であり即興で作られた曲は”表現”なのです。

人々は、陽が沈むと起きて朝日が昇るころ家に帰り太陽が頂点に到達するころ眠りにつきました。ですから、目もそのように発達していて暗闇でも見ることができました。太陽の光は眠りのサインであり、西日が照る頃にはみな深く深く眠っていました。
鳥のさえずりを聞きながら眠りにつきます。動物たちの鳴き声は人の言葉と同じようなものだったので動物との意思疎通もよくできていました。

 表地球と裏地球、両方の日本という国に少女エリカがいます。二人のエリカは同じ顔、同じ性格、同じ脳の構造を持っています。要するにDNAも生まれた日も両親も同じです。同じ人ですが別の惑星に住む別人なのです。
そして、裏地球にはエリカだけでなく表地球にいる人たち全員の別人が存在していました。ただしこの惑星では、だいたいの人が表地球とは逆の人生を作り出し生きることが多いようです。
表地球も裏地球も性別は同じですが、表地球でお金持ちな人が貧乏だったり、表地球でモテる人はモテなかったり、表地球で幸せな時間を過ごしている人は不幸な時間を過ごしすということはよくあることでした。
表地球で素直な人といえば人の言う事をすぐに飲み込める人ですが、裏地球では、自分の気持ちに正直な人が真に素直な人なのです。言ってみれば、裏地球は表地球の鏡のような惑星なのでした。

 表地球のエリカは、いじめられていつも一人ぼっちでした。吹奏楽部に入ってホルンを吹いていますが、全然うまくなりません。元々音楽は好きでしたが、なんとなく自分にホルンは合ってない気がして練習をさぼり勝ちになりました。
そして教室では、エリカが自己主張をしない性格なのをいいことに、皆に無視されたり知らないうちに教科書に落書きされたり、体育着を隠されたりSNSの書き込みで”死ねばいいのに(笑)”と書かれたりして見えないいやがらせを沢山されてきました。
エリカは疲れてきました。「私が何を悪い事をしたというのだろう?それに自分はいったいなんのために生まれてきたのだろう?いじめられるため?それとも、神様は私を自死に追い込みたいのだろうか?」そんな疑問まで生まれてくるくらい、辛く苦しい日々を過ごしていました。
家に帰っても、フルタイムで働いている母親にいじめられていることは言えませんでしたので本当に孤独な心を持っていました。

一方、裏地球のエリカは学校でいじめられていませんでした。
エリカの楽器はギターでしたが、この惑星ではほとんどの人がギターを弾こうと思わなかったので、一目置かれたのです。
そしていつも一人でいられるエリカを皆は尊敬していました。大抵、中学生くらいになると誰かとセッションを組みたがるのですが、エリカだけはギター1本でドラムの音や、ピアノの音や、ハープの音や、動物の鳴き声や、海の波の様な音や、ベースの音を作り出し、別の楽器と一緒でなくてもりっぱに1曲を奏でることができたので、皆は尊敬のまなざしで彼女を見ました。
エリカはいつも手持ちのギターで沢山の曲を作って自分の世界を表現し人々を圧倒させました。
感動と共感の拍手で皆の尊敬の念が伝わってくるので、一人ぼっちでも全然寂しくありませんでした。むしろ一人でそれだけの音が出せることを誇りに思ったのです。

 ある国に、表の地球で戦争に巻き込まれている少年ギッチがいました。彼の家は農家でしたが砲撃でなくなり、家族もどこかへバラバラになっていました。戦争を起こした人を憎み、自分もいつか兵士になって敵国に復讐をしてやろうと考えました。それに生きてゆくには、子供兵士になって大人から食べ物をもらうしかなかったのです。
一方裏地球のギッチは、農作物を作る中流家庭の普通の少年でした。彼はあまり楽器がうまくなかったけれど、働いているうちに農機具で音を奏でることを覚えたのでした。
休憩タイムになると皆に”農楽器”を披露しました。そして母親が作ってくれたお弁当を食べました。太陽が昇ると、父の作ってくれた家に帰って暖かいベッドに入り、いつか親孝行ができる日を夢見て眠りにつきました。

表地球では戦争が絶えませんでしたが、裏地球には戦争がありませんでした。ハッキリとした理由はわかりませんが、討論も喧嘩も音楽だったからかもしれません。
感情を表現するために新しく作り出されたすごいフレーズが奏でられると、皆感動してしまうせいかもしれません。それに、人を殴る人もほとんどいません。それは多分、手に持っている大切な楽器が壊れてしまったり、身体を負傷して奏でることができなくなったら困るからでしょう。
武器を作るくらいなら楽器を作る方が儲かりました。武器工場はあっても動物の狩りに使う為のライフルを作るくらいだったので、あまり稼働することはありませんでした。
その代わりそこら中に楽器職人がいましたので、表地球で武器を作っている人が裏地球では楽器職人の弟子だったり楽器工場で働いていることが多くありました。耳を澄まして微妙な音を調節するので、耳は大事なものとなり大きな音のする大砲や機関銃を嫌いました。

裏地球の人々にとって音は言葉です。音楽は特別なものではなく自己主張であり、社交礼儀であり、気持ちの表現であり、愛を伝える道具でした。試しに音楽を録音して売っても売れません。楽譜は大切な人への手紙であり、けして後世に残すための物や世の中に広めるためのものでもありませんでした。
誰かがオリジナルで奏でた音楽が遠く離れた他の誰かのオリジナルかもしれないから、わざわざ残すという野暮なことはしなかったのです。表地球で日常会話を録音したり書きだしたりしないのと同じことです。
その代わり裏地球では、言葉の組み合わせでできた詩は高く売れました。情緒を言葉で表現したものは珍しかったからです。
教科書はもちろん文字で書かれていますし新聞もありましたが、言葉(文字)はあくまでも事実を語るものであって、感情を表すものではなかったのです。しかし国が変わると意味が分からなくなったのが言葉の難点でした。

表地球で武器工場の社長をしている人は、裏地球ではホームレスでした。なぜかというと、破壊することばかり考えており、自分でモノづくりをする心がなかったし楽器をうまく弾ける人を妬んでいたからです。特に優しい音楽が嫌いで、楽器を壊すような大きな音や行動を好み人々から煙たがられたため、結婚も仕事もうまくいかなかったのです。
大統領は詩を載せた音楽で演説しましたが、時々後になって自ら作った詩と曲でないと判明した時は大問題になりました。自分の真実を語らない大統領は許されず、容赦なく国民から首にされました。

星や月の美しさを音楽にしたり、風や雷を音で表現したり、色を音で表現したり、裏地球では毎日毎日、音楽は香りのようにどこからともなく聞こえてきては消えてゆきました。人々が言葉を簡単にしゃべらない世界は、いじめはあっても戦争のない世界でした。自分に正直な音の世界は、正直でない人が生きづらい世界だったのです。
耳障りの良い心地よい曲は暫くもてはやされましたが、それが誰かの真実から奏でられた音楽でなかったと気づき始めると消滅してゆきました。
日々の中で、不変で永遠なる音楽を作り出す者もありましたが、それは香りか煙のように一瞬にして消えてゆくのでした。それが裏地球の日常です。
裏地球はすごく近くにありますが、望遠鏡でも見えない場所にあります。同じ軌道を行き、同じ動きをして同じ回転をしていますがみつかりません。太陽という偉大なる恵みのまぶしく輝く存在は、それを見つけることを永遠に遮り、表地球と裏地球は互いの存在を知ることはないのです。


    おわり


坊主頭の散髪屋

2018-03-24 13:49:15 | 物語
ある時 おしゃれ好きな散髪屋がいました。
その散髪屋は街でたったひとつの散髪屋なので、正月以外休みはありませんでした。
散髪屋はみんなの髪型をとてもカッコよくまたは美しくしてくれました。
散髪屋はずっとずっと仕事をしているうちに、客が心の中に描いている理想の髪型を読み取ることができるようになりました。
エレガントになりたいけど私には無理よねと思っている自信なさげなご婦人の髪型を見事エレガントにしてあげたり、カッコよくしてほしいけど忙しくて手入れができない中年の男性には手入れいらずのカッコイイ髪型にしてあげました。
そんなある日、珍しく客が途絶えて鏡にふと目をやり映った自分を久しぶりに見ると、なんとも汚いぼさぼさ頭と長い髭が生えていることに気づきました。
「これは大変だ。散髪屋のオレがこれじゃあ面目ない」

翌日、自分の髪を切るために1日だけ店をお休みにしました。
しかし自分で自分の髪を切ろうとするとなかなかうまくいきません。
後ろが見えなくて変な形になったり、右サイドと左サイドと同じ角度で切れなくてちぐはぐになったりして四苦八苦していました。
そこへ友人の魚屋さんが通りかかりました。
「こんにちは」珍しく店が休みになってるので体調でも崩したのかと心配になって覗いてみたのです。
「おぉ いいところに来てくれた。悪いけど僕の髪を切ってくれないか?」散髪屋は友人にいいました。
「え?俺が?髪を切るのは君の専門だろ?俺にはできないよ」
「でもお願いだやってくれ。自分じゃ全然うまく切れないんだよ。代金はちゃんと払うから」
「そういわれてもね」魚屋は困って断りましたが、どうしてもという彼のお願いにそれ以上断りきれず髪を切ってあげることにしました。
魚屋は散髪屋が言葉でいうとおりに一生懸命切りました。しかしやはり上手くいきません。結果、散髪屋の髪型はガタガタのちんちくりんな髪型になってしまいました。
魚屋が髪を切り終わると、散髪屋はやってもらったお礼を言いました。そして友人の魚屋さんに散髪代を支払おうとしまたが魚屋はそれを断り、うちの魚を買いに来てくれればいいよと言って帰りました。
散髪屋はこの髪型じゃあカッコ悪いとも思いましたが、切りなおすことは友人に悪いと思ってそのままにしました。

翌日から散髪屋を再開しました。
しかし、客は店に入ってくるもののに散髪屋の姿を見たとたんにそそくさと帰ってしまうのです。何人も何人もそのように帰ってしまうので、散髪屋は困ってしまいました。

客の心はこうでした。
『いつもの散髪屋さんがいなくなった。それになんだかへんちくりんな髪型した人が立っている。あの人に切ってもらったらあんな髪型になるんじゃないか?』

友人の魚屋にせっかく無理を言って切ってもらったのですが、客足が遠のいては生活ができなくなります。散髪屋は、意を決してバリカンを手に取り坊主頭にしました。それでも客足が戻らなかったので店から離れて客を探しに行くことにしました。
すると、徐々に「あの坊主頭の散髪屋は上手だ」「あの坊主頭の散髪屋は、まるで手に取るようにこちらの理想の髪型をわかってくれる」とい噂さが広まりました。
髪を切り終わると自分の店の名刺を差し出し宣伝しましたので、徐々にまた店に来る客が増え始めました。
そして、店が繁盛し始めると同時に彼の髪が伸び始めてきました。髪が伸びると、今度は「あの坊主頭の散髪屋はどこ行ったの?君で大丈夫?」などと言う客が増えてきましたので、散髪屋は再び坊主頭にしました。本当は自分の好きな髪型にしたかったのですが、ずっとずっとできませんでした。
散髪屋はいつのまにか”坊主頭の散髪屋”として有名になってしまいました。
ある客は言いました。
「君は髪の毛が生えないの?」
「いいえそんなことはありません。髪は生えてきますよ。」
「散髪屋さんならもうちょっとおしゃれにした方がいいんじゃないの?」
「確かにそうなんですけど、私の髪を切ってくれる人がいないんです。」
「あ、なるほどね!」
別の客でもそんなやりとりがよくありました。
客から言わせると、散髪屋なのだからおしゃれな髪型にしているのが普通だと言うのでしょうが、散髪屋から言わせると、この町で自分だけが散髪屋だからおしゃれな髪型ができないんだよということになります。
散髪屋のしたい髪型を誰も読み取ってはくれないし、上手く切れる人もいないのです。そんなこんなで、散髪屋はおしゃれができないまま一生坊主頭で過ごしましたとさ。

 おわり



2018-03-20 18:01:17 | 物語
目を開けて初めて 今まで目を閉じていたんだと気づく
日の当たる場所に出て初めて 日陰にいたんだと気づく

「なぜ心を閉ざすの?」と聞かれても わからない
「閉ざしているつもりはない」と言っても君にはわからないだろう?
「笑ってごらん」と言われれば笑うことも出来るよ 
でも一人になったとき その分を泣いて過ごすより
一緒にいて 笑わないで しゃべらないでもいい時間がほしい

窓の外はいつも騒がしい 
孤独が好きなわけじゃないけれど そこに溶け込める気がしないんだ
いつも晴れていてめったに雨は降らない
木々も道も人も鳥も街もみんな輝いている まぶしいくらい輝いている

「人は人だよ」って誰かが言う
「これは私の意見なんだけど」と誰かが言う

そんなの知ってるよ 知らないのはそれを言ってる君の方じゃないの?

僕が心を閉ざしてるって?そんなことはないよ
ちゃんと言えるし喜怒哀楽もある
ただひとつ 自分の自然を守るために必要以上に開かないだけ
理解してくれるであろう人がみつかるまでね

それまで僕は待つだろう 石のように土のように
全てのものが通り過ぎても 風が吹いても水が流れても
僕はずっと待つだろう なぜならそれしかできないから
僕はそれまでずっと この未完成な世界を保たなければならない