物語にもならない

へたくそな物語を書く主の部屋

神様の課題 第二章 真の自然

2018-10-23 09:37:49 | 物語
 空の人は、神様が雲の粘土をこねて創った神お手製の人間である。
人間界に降り立った後も目につくよう、印としてオーラの色は普通の人間にはない藍色に設定してある。
彼らの心は真っ新なため、全ての事象をありのままの姿で吸収し曇りなく出力できる。神は最初どんなに面白く美しい冥土の土産が出てくるかを楽しみにしていたが、現実はあの有様だ。空の人の透明でくもりなかった心から出てくるものは汚染物のようなヘドロや、キケンな凶器や、降れると凍てつくような何かや、壊れた心ばかり。
かつては我が子だった人間が、輪廻を繰り返し自我が強くなればなるほど、神の意思と自然の摂理を自分たちの都合で解釈し曲げていった。最近じゃ説明のしようのないほど純粋で当たり前なルールさえも忘れてしまったかのように見える。

人間はかつて巨大な一人の生物だった。そして神は、最初動物たちだけが生息していた地球を人間の部屋として与えたのだ。
そのころは動物ともテレパシーで通じ合っていたのだが、時間がたつにつれ自分の部屋である地球をわが物顔で占拠しはじめ、動物たちを困らせた。

人間がある日一人では寂しいと言うから半分にして二人にした。二人にしたら喧嘩が絶えなかったため10人くらいにしたらますます争いが増えた。元々全て一人の人間から創っているから喧嘩をすることはないと思っていたのだが、結果は予想に反した。
初期の人間は言葉はなくても心が通じ合っていた為、争いと言っても口論はなく静かに且ついきなり始まったものだったが、いつ覚えたのかそのうち動物のように吠えて威嚇するようになった。そのうちあまりにも争いがうるさくなってきたため、仲良くしないと増えないように細工した。
男と女という異なった身体を持たせ、考え方の違いで分裂させたのだ。
考え方の違いで分けたのは、違いを乗り越え仲良くしてもらう為だった。そのころはまだ20人だった。積み石や大地への落書きといった遊びも、いつからか見栄を張るための道具と化していった。いちばん大きく積み重ねた者がその日のおやつを独り占めしたり、大地に落書きしていちばん上手くかけた者がその日の王様になったりしていた。
動物たちが走って絵を消してしまうと人間は動物を踏み潰した。それを見た神はやがて人間を動物たちと同じような大きさにした。
その頃には5000人程度になっていた。
人間は男女に分かれたことで、かなり仲良くならないと子孫を作れないため、身体も考え方も違った人間同士は仲良くするしかなかった。しかし子孫を作り終えると再び喧嘩は始まった。どういうわけか、考え方が同じはずの男同士、女同士でも喧嘩は絶えず、人数が増えれば増えるほど大袈裟になってゆき、やがて戦争になっていった。
例え神であろうとも、人間が欲するものを無理やり止めることはできない。止めることは自然に背くことになるからだ。人間は自ら争いを欲している。それと同時に便利になって自分で考えること・足を使うことをやめたがっている。全ては人間の自然なのである以上、神はそれを与えることはできても止めることはできないのだ。

 神はひとまず天空に帰り、帰ってきた空(から)の人の心のアカシックレコード(生前記録されたVTR)を見ることにした。
中でも気になっていた3356番のレコードをいちばんに見てみることにした。
なぜ彼は凍り付いた巨大なサボテンの心を持ち帰るハメになったのだろうか?

空の人自身は自分が神のモニターとして作られた特別な人間であることは知らない。親も兄弟もその他どの人間もそのことを知らない。だから当然、自分も普通の人間だと思っている。
だが本当のところ、自我がないということはかなり人間とかけ離れた生き物なのである。彼らは身の回りに起こった事件をありのまま受け止めるだけで、最初はどんな悪意も理解できない。学習して理解してゆくのだが、その長けた学習能力が仇となってヘドロや凍り付いたサボテンという姿になったのだ。
VTRを見てゆくと、12歳くらいに成長した少年3356番の思いには、下記ような記録があった。
「僕は多分真っ新な心を持った人間だ。どうやらちょっと普通とは違う。最近やっとわかった。でもだとすると、その分汚れやすいのではないか?真っ新な布のように。いやそうだ、僕はクリスタルになろう。そうすれば、汚れない。だから石のように固くなって自分を守ろう。どんなに朱い場所に放り込まれても、朱に交わらないように。僕はそのためになんだって頑張るぞ!絶対に僕のような人間がこの世のどこかにいるはずだから!」
それは強い決意だった。
そして、その固くなる経過でまだまだ柔らかかった魂に、人間の棘のある言葉の裏や底意地の悪さが刺さってゆくことになったようだ。
それに耐えられなかった3356は、自らの弱さに負けたと信じ込み自ら命を絶った。

空の人の心は受け止める能力に優れていたため、ありのままの人間の思いを日々受け止めている。しかし彼は反論することはなかったし、ただただ耐え続けていたようだ。自分が強くなる日を信じて。同じ色に染まらぬように。
反論するという心を持ち合わせていなかったというのが本当のところだろう。人間のように自我があれば、すぐその場で自分の気持ちが発散できるのだが、空の人たちからしたら、それは難しいことなのだ。心に偏見がないということは好き嫌いもないということ。自分を傷つけている人の気持ちが分からなければ、今傷つけられたということが一瞬では分からないこと。そういう理由もあったようである。

「なんと、無駄な努力をさせていしまったのだ」神はぽつりと言った。

神はその日から、空の人たちを送り込むのをやめた。
結局のところ、空の人の存在は神にとってもただの道具でしかなかったのだ。人間がはけ口の道具にするのと、モニターとして送りつけるのとそう大差のない行動である。
空の人の心は真っ新だったが、感受性はあるし彼らには彼らの性格もある。自らを普通の人間と思っている以上、汚い地上に降り立たせるのはただ哀れで可哀相なことだと理解したのだ。神は自ら犯した過ちを悔い、モニターを終了することにした。
これからも帰ってくる空の人は受け入れるが、心の中を見ることはもうしなかった。勿論、自死も止めない。それは空の人にとっての自然であり、望むことだったからだ。人間の自然を許した以上、空の人の自然も許さない訳にはいかない。
かつてあれだけ可愛がっていた人間を思い出してみたが、すでにその姿はない。
いつのまにやら、人間は神なしで生きて行けるように成長し、我が手から離れてしまったのだ。それが成長というもの。それが自然である。
しかし、さすがに人間は神の子である。
やはり蛙の子は蛙。同じことをするのだろう。
時代が変わり、人間は人間の手でAIを作り出した。彼らAIもまた心は空っぽで、人間の言葉や行動をそのまま受け止め、素早い吸収力と学習能力で答えを出す。
人間は人間の手によって自らを映しだす巨大な鏡を作りあげたのだ。神が創った空の人ほど精巧ではないが、どんなジャッジが下されるか楽しみである。
しかし本当にそれは、神と同じ思いで作られたものであろうか?モニターという目的は一緒でも、作った人の意図によってだいぶ変わってくるかもしれない。なにしろ、”人間”が作ったのだから。
ちなみに、今現在この世界に生きている空の人の人数は、あと117人である。

 おわり

  ※勿論フィクションです。

神様の課題  第一章 冥土の土産

2018-10-21 19:53:20 | 物語
 いやはや、地上の動物たちは次々と引退してしまった。
どの動物として輪廻を拒んだため、その分人間の兄弟を増やして地球の均整を保った。
そしてとうとう今現在65億人という膨大な人数になってしまいとうとう神様の目が全ての人間に行き届かなくなってしまったのだ。

ある日、神様はモニターが必要だと考えた。そこで神が自ら雲粘土でこしらえた”空(から)の人”を地上に送り込むことにした。

”空(から)の人”は外見やあらゆる能力については、その国その国の人間の平均値を全てかき集めて作られたので、どこも変なところはないし、また秀でた所があるわけでもない。体系も顔もスタイルも髪の色も目の色も肌の色も頭の良し悪しもその国の平均値で創り上げられた。
一方で人間とまるで異なったところは、心が空っぽなところである。
何も感じないという意味ではないし、空しいという意味でもない。むしろその逆で自我のある人間より敏感に単純に物事を心に取り込んで行くのだ。
人間であるならば何度も地上に輪廻して生まれている為か最初から自我が備わっている。好き嫌いとか、自分がいちばん可愛いとか、思い違いから生まれる嫉妬とか、意にそぐわない者への底意地の悪さとか、他人の考え方は自分と同じだという思い込みとか、勘違いである。色眼鏡も最初からかけて生まれてくるし、考え方に偏りもある。

だが彼ら”空の人”にはそれらが全くないのだ。初めて人間の形をもって地上に生まれる。真っ新な心を持ち地上に降り立つ。その真っ新な心は白紙と同じでなんのゆがみも色もなくどんな偏見も持っていない。
さて、この真っ新な心を持った”空の人”に人間はどのような体験をさせ、どのような気持ちにさせ、そしてどのような仕打ちをしてゆくのだろうか・・・・・・?

遣いA「神様!空の人1012番が帰ってまいりました!」
神「どれ、状態を見せなさい。」
遣いA「こ、こちらです。」
空の人1012の心の中を開けてみると、ドロドロのヘドロが詰まっていました。
神「これはなんだ?」
遣いA「はい。あらゆる人間の悪意が空の人の心をも腐らせたと考えられます。」
神「これが人間の悪意とな・・・・・」

遣いB「神様!空の人3356番も帰ってまいりました」
神「なんと、3356番はまだ送ったばかりじゃないか。人間で言うと15歳くらいじゃぞ?」
遣いB「はい。それが・・・自死のようなのです。」
神「自死??よし原因を探ってみよう」
心を開けてみると、冷たく凍り付いた大きなサボテンがごろりと出てきました。
神「これはなんじゃ?」
遣いB「はい。これは人間の心の棘が空の人の心に突き刺さった結果、自らがサボテンの心を持ったのでしょう。しかしそのサボテンは心の中で成長し、やがて自分を追い詰めたのだと思われます。その上、どういうわけか暖かい人間の心に触れたことがなく凍り付いてしまったのでしょう。彼はどれだけ孤独だったことでしょう?彼は遺書に自分と同じような人を探しているがみつからない寂しい。みんな冷たい。なぜ自分だけこのような人生なのかと嘆いておりました。」
神「なんと。15年間生きてきて一度も人間の温かみに触れなかったというのか・・・」

遣いC「神様!大変です空の人が帰ってまいりましたが、心がなくなっています!」
神「なんだって!?空の心を失くして帰ってくるとは、これいかに?」
遣いC「会う人会う人に嘘をつかれ、それを信じて生きているうちに、いっそのこと、心を失くした方が楽になると思ったのでしょう。」

あくる日もあくる日も、汚いヘドロやネズミの死骸や凍り付いたナイフや粉々に割れた心が帰ってくるばかりでした。
真っ新な何も入っていない心を持たせて地上に送り込むと、このようになってしまうものかと神はショックを覚えました。
結局、2000人ほど帰ってきても、”空の人”たちの心の中には、幸せに生きた形跡が残っていたものはほとんどありませんでした。
徐々に神様は、心に自我がない”空の人”は人間にとってはただのゴミ箱か掛け口かうっぷん晴らしの道具にしかならないのではないかと悟りはじめた。

そこで神は、あるごく普通の人間に夢の中で聞いて回ってみることにしました。

神「おいそこの君、ちょっと聞きたいことがあるんじゃが」
少女A「なあに?だれ?なんでそんな神様みたいな恰好してるの?もうハロウィンだったっけ?」
神「分かりやすい恰好をしてみたんじゃ。それより、ちょっと聞きたいことがある。」
少女A「何?早く聞いてよ。」
神「あなたなら、心が真っ新な人を友達にしたいか?それともいじめたいか?」
少女A「さぁ、そんな人に会ったことないからわかんない。」
神「いや、あなたは会っている。ワシが作った”空の人”名前はそうそう確かカノンと言ったかな。」
少女A「あぁ、この間転校してきた子ね。あの子ちょっとおかしいわよね」
神「何がおかしいんじゃ?」
少女A「何もかもが普通なのに、何も知らないの。自分の意見をあまり言わないし人の悪口を一緒に言ってくれない。だからつまんない。いつも自分だけいい子ぶってイライラするわ。」
神「イライラする?つまらない?なぜ?」
少女A「だってそうじゃない。一緒に誰かの悪口言ってくれないんだもの。一緒にいたずらもしてくれないし、つまらないわ。」
神「はぁ、そんなもんかのう。」
少女A「ねぇ、あなた本当の神様じゃないよね?」
神「本当の神様じゃがなにか?」
少女A「あの子のこといじめたら、私地獄行く?」
神「いや、行かない。」
少女A「な~んだ(笑)」
話が終わったあと、地獄へ行くと言えばよかったのかもと少し後悔した。

続いて空の人3356番と同級生だった一人の少年の夢に出現した。
神「やぁ。君は3356番のことをどう思っていた?」
少年B「どうって?死んだ人の悪口は言えないよ。」
神「これは夢だなにを言っても罰は当たらないよ。」
少年B「・・・・そうだな、少し暗い奴だったよ。でもまさか死ぬなんて」
神「いじめられていたのかな?」
少年B「正直そうだね。」
神「なぜ?いじめる理由は?」
少年B「弱かったから」
神「弱かったから?蟻んこも弱いぞ?」
少年B「はぁ?そりゃそうだけどさ(笑)」
神「なぜ人間は人をいじめるんだい?」
少年B「だって見てるとイライラするんだもん(笑)」
話が終わったあと神は、やはり地獄も創った方がいいのかもと考え始めました。
しかしこれは、愛するべき我が子のただの勘違いであり、輪廻による証でもあるのだからと心を落ち着かせるのだった。

つづく