これから、たった2年で論文が速読できるようになる方法を紹介します!
これさえやればあなたも1本一時間で読めるようになります!
しかも20分で読んで40分で要約できちゃう!
やることはたったの2つだけ!
この技術を体得して、そんじょそこらのコンサルでは手に入らないような知識と哲学的志向を手に入れて、なんかもうウハウハしよう! 自慢しまくりだぜ!
まず、論文の抄録を500本読みます。
次に、論文の本文を500本読みます。
以上です。お疲れさまでした。
さすがにこれだと雑すぎるので、事細かに解説していきます。石は投げられたくない。
最初の段階は動機の獲得。論文を読む理由を言語化します。
動機は割と何でもいいです。知識自慢したいとか威張りたいとかでも構いません。勉強しなきゃいけないとか、知識が必要になったとかでもいいです。興味本位でとか、知的好奇心がうずいてどうしようもない、とかでも歓迎です。
そして、この動機は読んでいる最中にコロコロ変わりますが、特に問題はありません。最初は知的好奇心でやっていたけれど、いつからかやらないと自分じゃない気がするっていう強迫観念が襲うようになった、というのは起こりうることです。
ヤバいのは湧いてきた動機の否定です。知的好奇心じゃなくて強迫観念的にやってしまう自分はダメなんだ、なんて思っちゃうと、学習でもなんでも折れてしまいます。繰り返しますが、動機は変化するもので、それ自体は当然です。
なので、動機はあったほうが断然進めやすいですが、固執する必要はないです。
次に、論文の抄録を読み始めます。
抄録とは論文のあらすじのような、要約のようなものです。論文の著者自身による要約なので、論文の内容を軽く押さえたいならこれ読むだけでも対応できます。めちゃ質と情報密度が高い文章なのです。
最初はこれを読んでいきましょう。1日1つで十分です、じゅうぶん偉いです。
初っ端から論文ぜんぶ読もうとしないでください。確実に折れます。論文とはある領域の探索に癖こじらせた変態が執筆した同人誌(諸説あり)です。拗らせまくった癖にいきなり触れても、なんもわかりません。なんもわからんくなって、やっぱ私には無理なのかなぁ…、って無力感を感じてしまいます。それは避けたい。
この後に、
「読んでる最中にわからない単語が出てきたらすぐに調べましょう」
って説明しようとしましたが、そもそも初心者のばあい単語を調べてもその説明にまた知らない単語が出てきます。統計とかはその最たる例です。だから安易に「調べてみましょう」とは言えないわけで。
それでも頑張って調べて理解しようとするあなたはとても偉いです。たくさん褒めておきます。
おすすめは大学に入り論文を読むための基礎知識を身に着けることです。というか大学ってそういうところでもあります。これについては放送大学の入学をお勧めしたいのですが、話がずれるのでここまで。
ちなみに私はわからないところはいったん読み飛ばして、後日おんなじ言葉が出たら照らし合わせて、文脈から意味を読み取るってことをしていました。おすすめしません。とても疲れます。
抄録読んでいるときも、単語を調べているときも、これから解説する本文を読むときも共通しますが、文のすべてを理解しようとしないでください。
人間の頭は無制限に学習でき、無限に記憶できるとされていますが、記憶できるスピードや一回の学習で記憶できることはかなり限定されます。覚えられることも、理解できることにも、限りがあります。
ここで重要になるのが論文を読む動機です。ある程度言語化された目的は、論文のどこを読んで、どこを覚えて、どこを理解すればいいかの指標になります。目的に合わせて、限りある認知能力を使いましょう。単に知識を得たいのであれば結果の部分を、差異を見定めたいのであれば手続きの部分を、重点的に読むといった感じで。
もう1つ。これも共通事項ですが、続けることを最優先にしてください。
もうお気づきかと思われますが、というか最初から言っていますが、論文を速読できるようになるには最低でも2年かかります。
この2年というのは理論値であり、実際に私が速読できるようになるまでに要した時間です。一日3時間の勉強を休みなくほぼ毎日繰り返した結果得られたものです。抄録500本・論文500本はその期間に読んだもののなかで現在記録に残っているものをカウントしたに過ぎません。なので、これも理論値として扱います。
どうあがいても時間がかかりますし、ものすごく疲れます。なので、自分が続けられる程度の負荷をかけ続けます。
そして、慣れてきたらどんどん負荷を上げていきます。負荷を上げるタイミングは個人差が大きいですが、「少し飽きてきたな」と思ったら潮時です。この飽きの感覚は、抄録の内容や読み方に対し慣れてきたサインであり、どこか同じようなことを繰り返しているように知覚されるはずです。
抄録毎日1本読んでるけど、ちょっと慣れてきたなぁ、って思ったら今度は一日2本読んでみるとか。抄録の内容を自分なりの言葉で残してみるとか。もっと進んできたら、複数の抄録が言っていることを組み合わせて、齟齬が生まれないように論理組み立ててみたり。
足りないなぁと思ったら、ちょっと負荷を増やします。数日試してみて、ちょっと負荷かけすぎたなと思ったら戻しましょう。
それでも物足りなくなってきたとき、いよいよ本文の読書に入ります。
論文にはいくつかのパターンがありますが、今回は実験心理学で一般にみられる論文を題材にお話しします。
構造は、まず問題提起があって(Introduction)、仮説を立ててそれを検証する方法を組んで(Method)、その通りに調査や実験を行って結果を得て(Results)、結果をもとに考察して(Discussion)、結論を出す(Conclusion)、といった感じ。この流れがわかるだけでも読みやすくなります。なかには論文の欠点や今後追及するべき課題が書かれていることもあります(limitation)。旨味が詰まっているのでぜひ摂取したいところ。
論文の本文は抄録の数十倍~百倍以上の分量があります。いままで抄録では削減されてきた情報がぜんぶ載っているわけです。続けることを最優先に、まずは数日かけて1本読み切るように心がけましょう。慣れてきたら、一日で読み切ったり、複数の論文の言っていることを照らし合わせたり、それをもとに自分なりの意見を書いてみると良いです。
本文の中には読み手である自分にとってはあまり重要ではない情報もあります。すでに読んでいて知っている情報の説明だったり、動機にそぐわない情報だったり。そういったものは読み飛ばしても大丈夫です。必要な情報を集めましょう。
知らない情報はどんどん調べましょう。本文を読み始めたあたりから、自分がいま探求している領域の用語についてはすっと理解できるようになってきます。ただし、調べて出てきた解説をそのまま鵜呑みにしないことだけは、気を付けてください。
以下は論文本文を読みなれた人向けへの示唆です。
私が実験心理学で一般にみられる論文を読む際は、MethodとResultsを中心に読むようにしています。いわばここに研究でやりたいことと求まったことが記述されているので、時間がないときは最悪ここだけ読むようにしています。
次点でDiscussionやlimitationを読みます。前者は筆者が結果をどう解釈しているかを知るために読んでいます。後者は今後論文を調べるときの留意事項や自分が探求するときに抑えておきたいポイント、新しい探求の示唆などが書かれているので、是非とも抑えたい。
Introductionはあまり読み込んでいません。この論文がどういった理論体系や疑問を基盤に展開しているかを知れたら、あとは読み飛ばしています。私が知りたいのはそこなのです。筆者が結果をどう解釈するかは、この基盤が重要になってきます。
抄録を読み、本文を読み、知識を得て、これを継続する。
その結果、論文を1本一時間で読み切れる速読技術を手に入れられるわけです。
速読とはいわばゴリ押しです。いままで獲得してきた圧倒的な知識量と哲学的思想を元手に、論文の癖や領域内傾向などの言語化しづらい要素を踏まえたうえで、こなせる行為なのです。
「そんじょそこらのコンサルでは手に入らないような知識と哲学的志向」は速読に必須な条件であり、速読の技術を得るに至った結果なのです。
ここに至るまでの道筋は、容易ではありません、というか再現性は全く担保されていません。論文500本読めば絶対に体得できるものでもありませんし、そもそもそれが続く保証はできません。人間は自分が思う以上に自発的行動や知的好奇心に従うことが難しいのです。
「絶対に真似できない」はクリック誘導のための煽り文句ではなく、客観的事実に基づいた推測なのです。
これらの記述を読み切り、なおも速読をしてみたいというのであれば、私はあなたを歓迎します。
どうかご自愛を。この道筋において過敏に厳しくある必要はありません。できる範囲で、続けられるように、積み重ねていってください。