息を切らせて登った崖の上に、民族服の男性がいた。
断崖の踊り場のように作られた磨崖墓を見ようとここまで登ってくる観光客を相手に、彼は地面に布一枚を広げ、小さな土産物を並べていた。
崖の下の土産物屋の連中と異なり客引きらしいこともせず、雄大な見晴らしのなか、暇そうに、つまらなそうに、きっと今日も昨日と変わらない時間を潰し、明日もまた今日と変わらない時間を潰すのであろうと思われるような動きで、踊り場のこちらからあちらへ行って佇み、またあちらからこちらに戻っては佇んでいた。
ひとしきり往還を繰り返し、動物園の熊あたりであれば退屈して寝に入るであろう頃、彼は断崖の縁に移動し、やおら携帯電話で話し始めた。
悠久の時を超えた風景であっても、それもまた現代の風景なのであった。
@Petra, Jordan
Mamiya G 1:4 f=50mmL (1989), New Mamiya 6 MF