ソウルから特急セマウル号の夜行に乗り、日本海(かの地では「東海」か)側の日の出を見に行った。
真東に進めば2~3時間で着きそうな距離を、路線の関係で韓国中部まで一旦大きく南下し、東進して海岸に出た後に、海岸線を北上する。
このため、海岸から一番近い目的の駅には、日の出の直前に着くことができるのだが、韓国ではKTXの開通と相前後して寝台列車が全廃されており、通常の特急車両のリクライニングを目いっぱい倒して眠るしかない。
寝台料金を節約する旅客が昔から多かったのか、普通車でも日本のものより背もたれを深めに倒せるシートに身を委ね、車内アナウンスで唯一聞き取らなければならない駅名(唯一聴解できる単語でもあるが)を聞き漏らさないよう、眠りの浅い車中泊を過ごした。
幸いにして、目的の駅を寝過ごすことにはならなかった。
車内にまばらに眠っていた他の旅客の、目見当で9割方がこの駅で降り、私も彼らとともにプラットフォームに足を下ろし、ひとしきり伸びをしてからプラットフォーム直結の階段を下りて、そのまま波打ち際まで歩いていった。
乗り合っていた人々は、一足先に砂浜で思い思いに日の出を待っていた。
やはり、酔狂をするのはどこの国でも若者が多く、大宗を占めるのは10代とおぼしき韓国人のカップル。
「健康ウォーキング」のような格好をした単独行のおばさんがいるのも、「やりたいことをやって何が悪い?」的な、この国のおばさんパワーを感じさせて新鮮である。
そして、韓国ドラマにはまった中高年の日本人夫婦も一組。
やがて日の出が、このうえなく平穏な一日の始まりを告げた。
湘南海岸沿いを走る江ノ電でさえ、海岸と町にはもう少し距離がある。
しかしここでは、海岸と線路は全くの隣り合わせで走っており、浜から上がればすぐに線路、線路を越えればもう何の変哲もない田舎町の駅前の風景があった。
しばし日の出を鑑賞し、朝の空気を満喫した人々は、やがて三々五々記念撮影などをしながら、駅舎を抜け町の方角へと消えて行った。
街が起き出すには未だ早く、ソウルに戻るにもそうおいそれとは電車が来そうにない。
列車の来ない線路でお互いを撮り合っていた最後のカップルとともに駅舎を抜け、駅前のセブンイレブンで、インスタントコーヒーとパンの朝食を取った。
韓国のファストフードは、都市部では近年劇的に進歩しており、香りの高いコーヒーも焼き立てベーカリーのパンも、ある程度までの都市ではそれなりに見かけるようになっている。が、そこからさらに足を踏み出すと、いまだ甘いインスタントコーヒーが幅を利かせていた。
朝食後、タクシーを拾って訪れた公園に、捕獲された南侵潜水艦が展示されていた。
潜水艦の内部は狭く、素人目にも旧式な計器がところ狭しと並んでいた。
北朝鮮の工作員達は、本気でこんな潜水艦に乗り組み、さっき通り過ぎたような浜の沖合いから、潜入工作を試みていたのだろうか。
交戦中ならまだしも、いまどきこれでどれだけのことが出来ると考えていたのだろう。
分断国家の現実を見た…などという感覚の遥か以前に、「あほらしい…」というのが正直なところであった。
@Jeongdongjin, Korea
Leitz Elmar f=5cm 1:3,5 (1939), Leica IIIa (1936)