whitebleach's diary

旅と写真に憧れつつ

屈託のない笑顔

2012-10-19 23:55:57 | 旅行

「おい、カメラ持ってんぞ・・・」

少年達は互いにひそひそと話し始め、いつまでたってもプレーが再開しない。
自宅の近所を散歩の途中、最近にはちょっとばかり珍しく空き地で草野球をやっている少年達を見かけ、持っていたコンパクトカメラを手にプレーを待っていた。

『けったくそ悪いガキ共だな。ガキのうちから自意識つっぱらかすことばかり覚えてないで、ガキはガキらしくさっさと野球しろよ…』

どうやら現代日本のリアルなガキは、私の思い描く純朴な子供らしさなどとうに持ち合わせなくなっていたようだ。
ガキ共にしてみればこちらが胡散臭いジジイなのかもしれないと頭の片隅では理解しつつも、世知にばかり長けたような、おおらかさのない世の中になってしまった日本に心の中で舌打ちをし、ガキ共に見切りをつけて再び歩き始めた。


それにひきかえ、南の島・フィジーの子供たちは、思い返すだに実に屈託がなかった。

何よりもまず、皆とても笑顔が良い。
照れや恥じらいも少しあるけれど、男の子も、女の子も、珍しい日本人への好奇心や、呼びかけて答えてもらえた嬉しさには勝てない。大きい子は小さい子を抱いてまで、ぞろぞろと人の後ろを付いて歩く。芯から人懐こいのである。


男の子の方がどちらかといえばシャイで、何をするでもなく付いて歩くけど、あとはちょっとだけ思い切って、時折遠慮がちに質問してみるのが精一杯。

女の子は積極的で、元気いっぱい。
カメラを向けると「イェー!」と大合唱。浜辺を歩けば、棒切れを拾って砂のキャンバスにお絵かき遊び。自分の名前を書いて棒を渡し、こちらの名前を書けとせがむ。
そういえば、木登りしていたのも女の子ばかりだったっけ。


感心するのは、男の子グループも女の子グループも、様々な年齢が交じり合い、皆とても仲が良いこと。そして、年上の子は年下の子を、年下の子は更に年下の子を、全く自然なこととして良く面倒を見ていること。

成長著しい小中学生くらいの年齢では、低学年と高学年では興味も関心もおよそ異なってくる筈だろうに、面倒を見る方も何かを押し付ける風もなく、面倒を見てもらう方も何か反抗する風でもない。
父母や祖父母の話のなかでしか見られなくなっていた子供コミュニティの原風景が、ここではまだしっかりと、日常の一部をなしていた。

ゲームでもなく、ケータイでもなく、遊ぶことの楽しさを人と人との期待と役割の関係性に見出している子供達を見て、安堵するような懐かしさと嬉しさを覚えた。







@Fiji Islands

Nikon Ai Nikkor 35mm f/1.4S (1982), Nikon F4s: #1
Nikon Ai Nikkor 24mm f/2S (1981), Nikon F4s: #2, #3, #4, #5

Vサイン

2012-10-14 22:04:09 | 旅行

「ピース!ピース!」

子供の頃、カメラを向けられると決まってこう叫び、Vサインを振った。
恐らくは、ほぼ日本中の子供がそうだったのではないだろうか。

カメラに向かってVサインをするのは、きっと日本人だけだろう。
自分の乏しい経験のなかでは、海外で外人(=現地人)が「ピース!」をしている姿を見た記憶がない。
敢えて挙げるなら、スポーツの試合で待望の得点を入れた選手が、相手チームが消沈するなかでこれ見よがしに掲げて走り回るケースがあったかなという程度で、欧米文化の文脈では、日常使うと挑発や侮蔑の意味になるのかもしれない。
そもそもこれは「Vサイン」で、流行らせたのは第二次世界大戦を戦った英国首相チャーチルで、意味するところは対独戦に必ず勝利するという決意の符丁だったのだから…。



ずいぶん前だが、韓国の済州市を歩いていた時だった。
旧済州中心部の史跡の前で、「ピース!」で記念撮影をする女子旅3人組がいた。



「日本人はどこへ行っても変わらないなあ…。」

安堵と諦めの混ざったような気分で、楽しそうに記念撮影をする姿を取り敢えず1枚撮って、街を見ようと歩き始めた。

しばらく歩いて、そろそろバスに乗ろうと思い、バス停でバスを待つことにした。
バス停にはあまり人がおらず、自分の他には、買い物帰りの主婦が一人と、学校帰りなのだろうか、高校生ぐらいの年恰好の制服姿が二人だけ。

韓国の女性にはカメラを向けられることを快く思わない人が多く、風景の中に自分が写り込むような程度であっても、時には遠くから辺り憚らぬ大音声で容赦なく罵声を浴びせられる。
無用のトラブルを避けたい心理も働いて、カメラのレンズを件の高校生二人組に向けた。
二人は若者らしい屈託のなさで、じゃれ合いながらポーズをとってくれ、私は彼らのリアクションに以心伝心の嬉しさと多少の羨ましさとを覚えながら、ゆっくりと一枚撮らせてもらった。


ファインダーを覗いている時にはあまりに自然で気付かなかったが、出来上がった写真を見ると、日本人の専売特許である筈の「カメラの前でVサイン」=「ピース!」であった。

しばらく歩くと、橋に出た。
橋のたもとのベンチでは、ちょっと所在なさげな初老のおじさんがコップ酒をひっかけていた。
聞くところによると韓国の退職年齢は一般的に日本よりも早く、街を歩くと、家で時間を持て余した退職者達が、空気を変えに、仲間を求めに、公園や公共の空間で過ごしているところに出会う。

おじさんは、これまた一見するとプー太郎のようないでたちの若者と話していた。
若者は、まだ肌寒いのでニット帽を被り、ウインドブレーカーも着ているのに、下は膝下を無造作に鋏で切ったジャージのようなものを履き、自転車も拾った車体にあれこれパーツを組み合わせて大切に整備したような、手作り感/これでいいのだ感に溢れている。

時間を返された退職者と、時間を返された(あるいは受け取ってもらえない)若者。
決して豊かには見えない二人だが、悲壮感はなく、むしろゲゼルシャフトから自由である分、ゲマインシャフト本来の、人と人との紐帯があるように見える…。
想像力を逞しくすると、何の変哲もないながら何だか今日の社会を象徴するような風景にも思え、今度はちょっと遠慮がちにカメラを構え、また一枚、撮らせてもらった。


やっぱり、「ピース!」なのである。

高校生にも、自転車の若者にも、どちらにも「ピース!」と言われた記憶はないが、「カメラの前でVサイン」は、日本人だけではなかったのだという新鮮な発見。

心の中で、チャーチルのVサインがが何でカメラのポーズで「ピース」なの?という素朴な疑問を抱きつつ、カメラを向けられるとやはり反射的に「ピース!」とやりながらこの二世紀を生きてきたちょっとした後ろめたさ(?)が消え、彼らから貰った「これでいいのだ感」が、私の心にも広がっていった。

@Jeju, Korea

New York Times : #1
Leitz Elmar f=5cm 1:3,5 (1939), Leica IIIa (1936) : #2, #3, #4

異国の時間

2012-10-08 08:19:11 | 旅行
旅に出たいが出られない時、適応機制の一法として「異国の時間」に身を置いてみると、精神衛生が改善される場合がある。

過日もそんなような訳で、都内のモスクを訪れた。
そこにあることは四半世紀も前から知ってはいたが、観光名所として名を聞くこともなく、やはり礼拝所であろうとの遠慮もあって、ついぞ足を踏み入れることなく今日に至っていた。

何の変哲もない住宅地に、イスタンブールの街角にでもそこだけスリップしたかのような、立派なミナレット(尖塔)とドームを持つ大層なモスクが建っていた。
違和感があってもよさそうなものだが、近隣住宅との過密度が思えばあちら風でもあり、見上げずに歩道を歩いている分には気づかず通り過ぎてしまうかもしれないほど溶け込んでいた。

「境内(?)」に入ると、空気はモスクのそれであった。
建築が空気を変えるのか、空間に集う人のベクトルを一にする営みの残滓であるのかは判らないが、この空気感は「異国の時間」の大事な要素だと思う。



この建物はトルコ政府の援助で2000年に建て替えられたとのことだったが、集まっている人の顔立ちは、インド系あり、中東系あり、アフリカ系ありで、施主が誰であるかを特段気にする風もなく、屈託なくバラエティーに富んでいる。



夕方の集団礼拝の時間はさすがに居合わせた皆が揃って祈ってはいたが、それ以外では、祈る者もあれば、その傍らでのんびり座り込んでいる者、何となく雑談をしている者など、礼拝もする集会所といった趣の、終始静謐で緩い空気が流れていた。



イスラム教では、祈りの姿を撮ることは一応タブーとされているらしい。
集団礼拝に遅れて来た若い日本人信徒が、入り口の脇で礼拝を眺めていた私の手のカメラを見咎め、すかさず「礼拝の最中はちょっと」と苦言を呈した。
既に礼拝の列にあった外国人信徒達は彼よりもずっと鷹揚で、「遠くからお祈りの邪魔をしなければいいんじゃないの」などと言い、実際に撮影する姿を見ても誰も気にも留めなかったのだが。

信徒のための場所で信徒の気分を害さないよう、カメラは素直にしまったものの、「異国の時間」は「日本の時間」へとたちまち引き戻されてしまった。



@Tokyo, Japan

Leitz Elmar f=3,5cm 1:3,5 (1938), Minolta CLE (1981) : #1, #4
Zeiss-Opton Sonnar 1:2 f=50mm T (1946-54), Contax IIa (1951) : #2, #3