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ロボ刑事の事件簿<隠蔽NO.3>フィクション

2014-02-28 13:38:05 | フィクション

(隠蔽)

次々に癒着が発覚した。

現職の警察官が賭博ゲーム機の業者から賄賂を受け取り捜査情報を漏洩していたとマスコミ各社が一斉に報道されたのだ。

現職の警察官も逮捕され警察本部に激震が走った。

風紀捜査は汚職の係と同僚からも噂されるほど全国警察の各所属から不祥事案が次々に発覚していた。

南中央署の刑事課からも業者と癒着していたとして岸田刑事の他、刑事課の捜査員10名が処分された。

南中央署の風紀捜査からは誰ひとり処分者はなかったし業者との黒い噂も出ていない。

それは南中央署の風紀捜査係としての誇りと先輩捜査員からの伝統であるプライドを持っていたからに他ならない。

高木は米田主任の酒を飲むと繰り返す説教に今は感謝していた。

現職警察官の処分者は108人に及び連日マスコミを賑わしていた。

高木は、米田主任に今後の捜査についてどのように進めていけばよいのかを一刻も早く聞きたかった。

  「米さん、今回の一連の事件で捜査がやりにくくなりましたね。
  これから北署の風紀も取締りができんようになるやろ」

米田主任は頷きながら曇った顔で答えた。

  「ロボ、ええか。これで手を緩めたらあかん。
  これから徹底的に賭博ゲーム機の取締りをやるんや。
  もう決裁もクソも関係なくドンドン現行犯逮捕していくからな」

米田主任の考え方は常に前向きで強気だと高木は感心した。

風紀捜査の卓上電話が外線から繋がられた呼び出し音を鳴らしている。

米田主任が受話器を取ってメモを引き寄せた。
 
―――受付です。米田主任に公衆電話から加入電話が入ってます。

    お繋ぎしますどうぞ。

―――もしもしヨネダさんですか?
   確認だけです。300万で本当にいいですか。
   ハイとだけ言ってくれれば直ぐに振り込みますので・・・。

米田主任の顔色が一瞬で変わった。

―――お前は誰や。300万振り込むってなんの話をしてるんや
   今どこに居る。

―――南中央署の裏の富士山銀行ですけど頷いて貰うだけで結構ですから
   お願いします。

―――待て。そこを動くな。

米田主任が立ち上がった。

  「ロボ、一緒に来てくれ。生瀬係長もお願いします。
  誰かの罠かもしれん。」

高木は、この前の電話を思い出していた。

まるで、デジャブのように似たような電話が確かにあった。

3人は南署の裏の富士銀行島之内支店に向かった。

銀行のロビーに黒ズボン、白のワイシャツに蝶ネクタイの40歳位の男が怯えながら入り口に視線を投げかけている。

米田主任は真っ直ぐにその挙動不審な男に声を掛けた。

  「今南中央署の風紀に電話してきた方ですね。」

男は視線を下に落としたまま黙って頷いた。

生瀬係長が男の肩に手を添えて

  「ちょっと聞きたいことがあるので署まで来てもらえますか。」

と任意同行を求めた。

男は小刻みに震えて椅子から立ち上がったが顔面蒼白で立ち眩みをしたのかよろけて生瀬係長に寄りかかり慌てて腕を支えてもらっている。

署の風紀捜査の取調室に男を任意同行し高木刑事が事情を聞いた。

  「どういうことか説明してもらえますか?」

男は、観念したのか首をうな垂れたまま小さな声で話し出した。

  「私は、ソープダイヤモンドの店長をしている高田一郎です。
   昨日の夕方店に風紀捜査のヨネダと名乗る男性から電話があって

   『今回お前の店を摘発しようか内偵の候補になっている。
   今なら握り潰せるが300万出せるか。
   社長と相談して今から言う口座に明日振り込め。』

と電話が入ったことを話し始めた。

   「直ぐ社長に電話したところ、本当に300万に間違いないのかと
   社長は手入れをモミ消すには300万は安すぎるので金額を確認
   して振り込むようにと指示されたんです。」

観念したのか、男は社長から指示されたことを克明に話し出した。

確かにソープを開店するまでに数億円の費用がかかる。

それを摘発されれば6ヶ月の営業停止を覚悟しなければならない。

まだある、その間ボイラーも止められて浴槽タイルにもヒビが入るし従業員も解雇となる。

その損害額は数億円になるのに300万で助かるとは、確かに安すぎて不安になったと言うのだ。

桁を聴き間違えてないかと社長が心配して3000万かどうかを確認してから振り込めと指示されたらしい。

それで電話したことで、ようやく事態が呑み込めた。

店長の高田一郎は正直に話しているのが、態度からも伝わってくる。

米田主任が口を開いた。

  「店長さん、俺が米田やけど面識ないな。
  何で電話だけでそんな話を信用して振り込もうとしたのか教えてくれ。」

確かに言われればおかしい話だ。

店長は申し訳なさそうに頭を一度下げて話し始めた。

  「実は当店の系列店であるソープランド「エンジェル」が
  以前、摘発されまして、その時の従業員から
  ヨネダという刑事さんが風紀捜査に在籍していることを
  聞いたものですから・・・・。」

高木は、店長の話を聞きながら何か引っかかるものを胸に感じた。

  「その指定口座は誰の名義になっているのか教えてくれませんか」

店長は握り締めていたメモ用紙を広げて見せた。

     富士山銀行島之内支店
      普通口座22356
       木村大二郎名義

高木は目を疑った。あのモンローがそのような悪知恵を働かせるはずがない。

米田主任と生瀬係長も同じことを考えているようだ。

店長は3人の顔を交互に見ながら言い訳を始めた。

  「本当に手入れが助かるなら300万は安いと思いましたので確認したかっただけです。
  銀行の名義は偽名の口座と言われたので信用したんです。
  許してください。」

米田主任はブチ切れていた。

   店長さんよ。俺はそんな電話もしてないし摘発の情報も流さない。
   お前の店は騙されたんや。
   ソープランド「エンジェル」の誰に聞いたんや。


店長は、あまりの迫力に気圧されのけぞり答えた。

  「元マネージャーの金田浩二ですけど・・・。」

モンローと繋がった。

米田主任の名前を騙り金田がソープから金をゆすり取っているに違いない。

生瀬係長の悪い予感は、的中した。

これは、ある意味で、完全犯罪かもしれない。

店長が、仮に電話の確認をしないまま振り込めば、摘発の予定のないソープは、金を払ったから助かったとおもうだろう。

万が一、摘発したら、やっぱり金額を間違えていたと後悔するに違いない。

つまり、偽の情報を米さんの名前を知っていた、金田が悪用したということだよ。


生瀬係長は、早速に生活安全課長に報告して刑事課と合同で捜査体制を取るように動いた。

金田浩二の詐欺容疑事件として主担課は刑事課に委ねられた。

当然警察官の関与している事件なので特命監察も捜査に加わった。

災難は米田主任だった、連日に亘り事情聴取を受けるハメになったのだ。

高木は、その事情聴取に疑問を感じ生瀬係長に捜査の進展状況を聞いてみた。

  「係長、米さん、はどうして監察の調べを連日受けてるんですか?
  米田主任に何か否でもあると言うんですか」

生瀬係長も納得していないのか

  「ロボ、俺もそれは気になってるんや。
  米やんは名前を使われただけで被害者なんやけど
  例の南町奉行の前署長が根に持って裏で動いているらしい。

  米やんは、署長にとっては知り過ぎた男にされて切りにかかっているのかもしれん。
  ロボよ、これが警察組織の恐ろしい一面や」

高木は、理解できなかった。

  「係長、どういう意味ですか?」

納得などできなかった。

まさかとは思うが、シッポ切りにかかるって、米田主任を首にするとでも言うのか。

生瀬係長はメガネをはずし大きく溜息をついて重い口を開いた。

  「ロボ、よく聞け。米やんの捜査に間違いはない。
  しかし組織は米やんを反核分子と捉えるかもしれん。

  米やんは酒も競馬も好きやから監察が本気になれば
  別件でも辞表を書かせることは可能や。

  今回のソープの事件も金田が米やんの名前を利用して
  ソープを騙して摘発されたくなかったら300万を振り込めと
  脅していたようや。

  振り込んだソープは実在の刑事の名前を聞いて信用して
  振り込むやろな。

  イヤとは言えんし断ったら摘発されると勝手に思い込むやろ。
  金田も悪知恵の働く男やがモンローの口座に指定したのがマヌケやった。

  多分これは氷山の一角やろ。

  発覚していない金の流れが不透明やから
  米やんも疑われてるんやろな」

生瀬係長の心配はそれだけではないような口振りに聞こえた。

高木は、警察組織の正義に疑問を感じずにはいられなかった。

  「係長、本当のところどうなんですか?」
     
今回の一連の賭博ゲーム機汚職で南中央署の風紀捜査から処分者は出なかった。

しかし、トップの警察本部長が、首つり自殺した。

一面トップの見出しに「これで幕引きか、責任の自殺」と報道された。

  「それは米さんら先輩の指導があってのことでしょ。
  他に何があるんですか?」

生瀬係長も興奮気味に机を叩いて立ち上がった。

  「ロボ、お前はまだ若い。
  警察組織の正義とは組織防衛という大義名分のもとに
  成り立っているんや。

  しかし、それは個々の保身をすり替えての言い訳なんや。
  優秀な捜査員の使命感は、ある時、出すぎた釘になる場合がある。
     
  出すぎた釘は叩かれる。
  それ以上出すぎた釘は引き抜かれる。

  米やんは賭博ゲーム機汚職の事件を解明しようとして
  徹底的に取り締まったが、そのために現職警察官から
  108名の処分者がでた。

  昨日の新聞を見たやろ。
  元の警察本部長が首吊り自殺して幕引きや。」

高木は、どうしても納得できなかった。警察組織の理解できない闇の部分を思い知らされた。

米田主任の行く末を案じるしか、なすすべもなかった。

その時、悪い噂がソープ業界に広まっていた。

南中央署の風紀捜査の米田刑事が業者と癒着して捜査情報を漏洩していたという風評だった。

全くもって、事実ではない。

しかし、この手の噂は尾ひれが付いて面白おかしく流されていくものだ。

時期も悪かった、警察本部が遊技機賭博の汚職事件に揺れていた最中の出来事であったことも災いした。

この事件は隠蔽されてマスコミに嗅ぎ付かれる前に警察は手を打った。

週明けから突然、米田主任の姿を見ることもなくなった。

米田主任のデスクマットも無くなって机の中は空っぽになっている。

生瀬係長は朝から機嫌が悪い、ひと言も話そうとしない。

米田主任が警察組織を去った直接の理由について誰も聞かされていないし聞こうともしない。

タブーとされ、黙殺されたのだ。

正義感のない警察官はいないと、ロボは願うしかなかった。

しかし使命感に燃える警察官は、いつか『出すぎた釘』として抜かれる運命にあるかも知れない。

高木は、警察の組織防衛という大義名分の恐ろしさを知ると共に自らもその歯車の一員であることに心が痛んで主の居ない空席を振り返った。
  
  「後悔とは後で悔いること。

   俺と同じ道を歩むな。

   必要なのは自分自身の信念と覚悟だ」

と米田主任の空席のデスクから聞こえてきた気がして、握った拳の振り下ろし先を探していた。

米田主任の娘さんにホワイトデーのお返しをと用意していたパイをそっと家主の居なくなったデスクに置いた。




《終り》
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