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ロボ刑事の事件簿<癒着NO.2>フィクション

2014-02-28 12:24:07 | フィクション

(癒着)

ロボこと高木刑事は、ミナミの管内にあるゲーム喫茶店の名簿を見ながら頭を抱え米田主任に愚痴をこぼしていた。

  「どうなってるんや。ポーカーゲームやエイトラインに
  マージャンの賭博遊技機がどんどん増えて取締りが
  追いつかないですよ。」

米田主任もそれを受けて

  「上から摘発するゲーム喫茶の予定表を先に名簿から
  選び出せとか難儀なことを言ってきたんや」

高木は、その言葉の意味が判らず聞き返した。

  「それって内偵捜査するゲーム喫茶を事前に報告しろってことですか」

米田主任は頷きながら天を仰ぎ何やら考えている様子だ。

裏に何かあることを感じている違いない。

ここ一年ほどでミナミ管内には雨あとの竹の子のように賭博ゲーム機を設置した喫茶店が乱立していた。

本来なら賭博ゲーム機を設置している喫茶店を常習賭博で、客を単純賭博で現行犯逮捕するので摘発の情報が漏れないように隠密裏に捜査するのが大前提にあるはずだ。

これまでにもガサ入れの直前にシャッターが閉まったて摘発情報が漏れた疑いがある。

内部にネズミがいる。

摘発した店から現職の警察官の名刺が見つかったり、何らかの癒着が噂されていたのは事実だった。

だから摘発に関する報告は大掛かりな店舗は別として小規模の店舗は当直勤務と裏直の6人程度の捜査員で現行犯逮捕していた。

極秘だったことから当直明けに事後報告していたのをすべて事前に署長の決裁を受けるというのだ。

ロボは、米田主任の奥歯にものの挟まった言い方が気になっていた。

何か掴んでいる時のそれが癖だ。

  「米さん、何か知ってるでしょ。裏に何かあるんですね。」

高木なりに得ている情報を確認したかった。

米田主任が重たい口を開いた。

  「実はロボ、マル暴担当の岸田刑事が用事もないのに
  風紀捜査の部屋に顔を出してるのをお前も気づいてるやろ。
  この前も岸田に摘発のガセネタ掴ましたらそのゲーム喫茶が
  当日閉店したんや。

  それだけやない。
  オカマのモンローをこの前に調べた時、あいつが働いていた
  喫茶『オールナイト』の実質経営者が前の南中央署長の息子らしい。
  俺も気になって調べたら間違いなく前警察署長の次男が署管内
で賭博ゲーム機喫茶を堂々と経営してたんや」

高木の予感が的中した。

  「米田主任が喫茶『オールナイト』を内偵していたことがマル暴担当の
  岸田刑事を通じて署長の耳に入ったかもしれませんね。
  岸田刑事が賭博ゲーム機業者と癒着している悪い噂は
  俺も聞いています。

高木は、ふと引っかかっていた、それとは別にこのまえ米田主任宛の公衆電話の件を確認した。

ーーー「ハイと返事だけで結構です三百万で良かったですね?」---

  とか変な電話があったんで気になってました。

と嫌な予感と共に心の引っかかりを吐露した。

米田主任は訝しげに聞きながらも心当たりがないことを答えていたが同じく

何か心にささくれるものを感じているのが態度から伺えた。

風紀捜査係に対する業者の甘い罠は付きものである。

取り締まりの手を緩めて欲しいし、摘発から逃れられるのであればそれ相当の鼻薬を嗅がせてくる。

しかし、米田主任は若い刑事に必ず酔うと指導することが心に響くのである。

  「俺たちの貰う給料は利子と思え。
  毎月何十万の利子の元金は何十億なんや。
  目先の賄賂で元金まで失い恩給もなくなることを肝に命じろ」

   ああ・・・それからこれ。

無造作にカバンから似つかわしくないピンクのリボンに包まれた箱を出して投げるように寄越した。

高木は、危うく落としそうになりながら受け取った。

  なんですか?これ。

米田主任は、ぶっきらぼうに答えた。

  「うちの高1の娘が、お前に渡してくれって・・・。」

この前に家族で、バーベキューした時に奥さんと娘さんにめっぽう甘い米田主任を初めて見た。

バレンタインのチョコらしい。

米田主任の機嫌が悪いのは、これも原因かも知れなかった。

  「ロボ、勘違いするなよ。
  娘はな、絶対に・・・・。」

その先を制止して、酒を勧めた。
  
これが酒を飲むと必ず出る米田主任の口癖なのだ。

この日も酒を飲んで同じ話を繰り返し聞かされた。

酒飲みの悪い癖、また同じ話の繰り返しと、この時だけは思えなかった。

先輩刑事の失敗談や泣く泣く組織を去っていった仲間の後姿の寂しさよりもそれを見送る同僚の苦しみを教えてくれようとしているのだ。

当時約2万人の警察職員がいた。

その中には警察官としてふさわしくない者も残念ながら居るのも事実である。

組織ぐるみで隠蔽する体質が汚職の温床になっていることも否定できない。

それは突然に北警察署の風紀捜査係から火を噴いた。

盛り場はキタとミナミに大きく二分している。

その玄関口キタの新地を管内に持つ北警察署風紀捜査から賭博に絡む贈収賄で現職の刑事が逮捕される不祥事が発覚した。

マスコミは、こぞって警察の賭博遊技機汚職の不祥事案を叩いたのだ。

取り締まりの対象業者と癒着しているとの風評は南中央署でも例外ではなかった。

刑事は追いかけるのが本来の仕事のはずが、マスコミに尾行され行動を観察されているかもしれない。

米田主任が大部屋でぼやいていた。

  「ロボ、お前気付いてるか?北署の事件以後どうも
  背中に視線を感じるんや」

高木は、頷き自分だけではないのだと確信できた。

同時に嫌な噂も耳にしていた。

  「内の風紀捜査からはケガ人は出ないでしょう。
  ただ悪い噂が流れています。
  署の記者クラブの記者が、このご時勢に南町奉行とは何事かと
  記事にしようと狙っている動きがあるんです。」

風紀捜査の刑事は尾行にも敏感に対応していたが幹部はあまりにも迂闊だった。

恐れていたことが翌日の朝刊で現実のものとなる。

  【南中央警察署長が南町奉行として御乱交】

米田主任が眉間に皺を寄せながらデスクに朝刊を広げて記事を読んでいる。

  「署長が南町奉行で総務課長が寺社奉行、会計課長が勘定奉行と
  シールをボトルに貼って幹部専用の管内にあるラウンジで悪ふざけ
  していただけやないか。時期が悪かったのもあるが、
  従来の幹部が引き継いできたものを今敢えてマスコミのターゲット
  にされたみたいやな」
たしかに現在の署長はある意味では被害者かもしれないと事情を知る署員は同情した。

しかし、マスコミの報道により確実に捜査がやりにくくなったのも事実だった。



米田主任は生瀬係長に賭博ゲーム機設置店の摘発予定表を提出していたがそれには、あの喫茶『オールナイト』もわざと記載していたのだ。

   「米やん、本気でヤル気か?」

生瀬係長が一覧表を見ていた目線を上げ、米田主任を見据えている。

   「何か問題でもありましたか?」

トボケて米田主任がシラをきる。

   「一応決裁を出せと指示があったから10店舗予定として選定したまでです。」

生瀬係長にも元署長の息子が喫茶『オールナイト』で賭博ゲーム機を設置して賭博営業を堂々と行っていることは報告済みだ。

決裁を出すことにより署長から摘発予定の店舗にリンクされて、マスコミが嗅ぎ付ける前に賭博ゲーム機を撤去してくれればいいとの考えから米田主任は敢えてリストに加えたのだ。

   「米やん、お前の気持ちが裏目にでないといいがな。」

生瀬係長も今の時期を穏便に乗り切るためにモミ消す手段としてそのままリストを決裁にまわした。

間もなく、血相かいて生活安全課長が風紀捜査の大部屋に飛び込んできた。

   「一体どういうことや。署長がカンカンやぞ。
   お前らなんでアノ店をリストに加えたんや。
   知ってて、わざと入れたのか。」

課長は自分が報告を受けていなかったことで署長に恥をかいたと息巻いている。

   「とにかくこれは戻すから再度決裁のやり直しをしてくれ」

課長は一部が黒く塗り潰されたリストを生瀬係長に突き返した。

   「それからこの内偵をした米田を署長室に連れて来い」

吐き捨てるように生瀬係長に言い残し大部屋をでた。

米田主任と生瀬係長は連れ立って署長室に呼ばれていった。

署長室から戻った米田主任は無言で自分の椅子に身を投げ捨てるように座りデスクに足を放り上げた。

明らかに機嫌が悪い。その動作と態度からはっきり窺い知る事ができる。

  「なんか裏目に出たみたいですね」

高木は、米田主任の心中を察して聞いてみた。

米田主任が投げ捨てるように話し出した。

  「ロボ、署長はメンツを潰されたと大激怒してるんや。
  俺の話も生瀬係長の話も全く聞く耳を持たないし
  一方的に怒鳴られたよ。
  先代の南町奉行の息子が管内で賭博ゲーム機喫茶を
  経営していたことがマスコミに漏れたら
  とんでもないことになるやろな。
  まぁこれでアノ店も賭博ゲーム機を撤去するやろ。」

高木は、突き返された黒塗りのリストを見ながら喫茶『オールナイト』以外にも3店舗が消されている理由について米田主任に聞いた。

  「なんでこの3店舗も消されてるんですか?
  これならまるで癒着している業者を
  教えているのと同じやないですか」

米田主任もその裏事情については理解しているはずだがそれ以上何も答えなかった。

翌日夕方一気に事態が変わった。
 
南中央警察署の講堂でマスコミに対しての記者会見が行われ南中央警察署長が陳謝し、記者会見ている。

南中央警察署長が南町奉行として管内の。ラウンジで飲んでいたことの責任を取り引責辞職した。

しかし、事態はそれだけでは終わらなかった。

正義を貫こうとしたことが、命取りになるとは予想だにしなかった


《つづく》
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