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そして、僕らは・・前編(On Your Mark)フィクション

2014-02-28 16:57:26 | フィクション
『前編』

そして僕らは・・・(On Your Mark)

いつから俺たちこんなになっちまったんだろう。

サングラス越しに小さな目で、吐き捨てるようにヒデが線量計を横目で睨みデスクの上に両足を投げ出した。

壊れた配管のパイプで素振りする手を止めて、シゲが流れる汗をTシャツの肩先で拭いながら大きく溜息をついた。

彼らは、国家治安警備隊のヒデとシゲ。

本来の任務は、20XX年に発生した太陽フレアの爆発により、地球上に大量の放射線が一気に押し寄せ、北半球のオゾン層を致命的に破壊した。

その事後処理と地上までのトンネルの警備が任務。

しかし、その影響で、地球上の地殻深部にまで及び人類が想定した以上の地殻変動を誘発して、北半球は壊滅的な巨大地震にみまわれていた。

日本も例外ではなく、主要な原発は致命的な打撃を受け壊滅状態となっていた。

救いは、過去20年前に発生した南海トラフの巨大地震を教訓にして、巨大な地下シェルターを建設して、人口の200分の1が、このシェルターに逃げ延びたことが唯一の望みだった。

ヒデは、天性の楽天主義だが、道化師のように振舞ってはシゲを励ますのが日課のようになっていた。

それが、疎ましく感じる出来事があって、シゲは緊急処置バックを抱えて線量監視タワーを飛び出した。

ヒデは、不意をつかれ椅子から転げ落ちながらもシゲの後を追って部屋を飛び出したが、慌てて非常用のベルトポーチを壁から取り、腰に巻きつけシゲの操縦する特殊輸送機のコックピットに頭から突っ込むように収まった。

  「シゲ、お前の趣味だけはどうかと思うよ。
  ハイテク搭載とは言うもののこのフォルムは悪趣味だよ」

もう博物館にしか今は存在していない、今は壊滅したイタリアのアロファロメオのジュリエッタを再現したのだからヒデの言い分にも一理ある。

  「だからシャーキーのイタリア男って呼ばれるんだぞ。」

ふん。シゲはスロットルを全開にして防衛本部向かった。

  「ヒデ、お前は生き残ったことが幸せか、それとも不幸か」

ふんぞり返ってたヒデが、デジタル投影された人工的な地下に広がる機械的な雲の流れをサングラス越に小さな目で追いながら呟いた。

  「幸せも不幸もコインの裏と表みたいに、
   どっちも1枚のコインにちがいねぇよ。」

この地下に描かれた空や雲は、作り物でしかない。

未来の子供たちは、これを空として疑うことも雲の流れが本当は不規則なのも知らずにこれが希望の未来と言えるのだろうかとシゲは憤りを隠しえなかった。

  「なぁ、俺たち、やれるだけのことをやったのかな?
  諦めて、自分自身に納得させてやしないか。」

ヒデは、帽子を目深にかぶりなおした。

  「どうせ、何もしないで後悔の日々を送るなら、
ここらで一発やっちゃいますかぁ~!」

そう来なくっちゃ。

二人の向かう先は、国家機密研究室がある司令塔の更に地下にある研究室だった。



彼らが、地下シェルターに非難して間もない頃、最後の地上にあった原子力発電所が、最悪のメルトダウンからメルトアウトした際に大爆発を起こし、壊滅的な放射能を拡散させた。

その時、防護服で身を守り救助活動に従事していた二人は、信じられない光景を目にしていた。

見るに耐えない惨状の中で、瓦礫の隙間に助けられ奇跡的に発見された少女だ。

爆風で飛ばされた少女は、純白のドレスの背中が破れて意識はないものの奇跡的に命をとりとめた。

大量の放射線を全身に浴びているにも関わらず、奇跡の少女として救出したのが、ヒデとシゲだった。

シゲは、その少女を見たとき我が目を疑った。

ヒデには、その時の光景を秘密にしていたからだ。

少女は、腹ばいに倒れていたが、純白のドレスが無残にも引き裂かれてはいたが、その白い破れたドレスが、左右に広がりまるで天使が羽を広げているかのような錯覚を見たからだった。

あれは、防護服のゴーグル越しに見たからではない、確かに少女の背中に白い羽を見た。

その時、ヒデは、生存者発見を本部に緊急連絡していたが、本部もこの惨状から生存者はあり得ないと・・・。

確かに目の前に横たわる少女は、意識こそ失っているが生きている。

早急に少女を研究室に緊急搬送するように指示を受け、二人で搬送したのだが・・・。

その道中、二度目の大爆発をモロに受けて、搬送機ごと吹き飛ばされてしまった。

薄れ行く意識の中で、シゲは夢を見ていた。

少女は、背中の大きな羽を広げて、大空を笑顔で羽ばたく姿を、そして未来の救世主として、少女に託した未来の姿を投影していた。

騒然としたサイレンが近づき、応援の部隊に救助され、少女は放射線防護容器に閉じ込められて、緊急搬送されて行くのをシゲもヒデも朦朧とする意識の中で見送るしかなかった。

  「おい、シゲ。オレ夢みてたのかな?」

ヒデが、病院の隣のベットから話しかけてきた。

その手には、白い一枚の羽。

シゲは、点滴のチューブを引き払ってヒデのベットに飛び乗った。

  「バカやろう!怪我人だろ!」

ヒデは、悶絶しながらも白い羽でシゲの鼻先をくすぐった。

  「まさか、ヒデお前も見たのか?」

シゲは、薄れ行く意識の中で見た少女のことをヒデに話した。

いつもおどけるヒデの小さな目が、ほんの少し大きく見開いた。

  「ありゃ、夢なんかじゃねぇ」

理由など、解らない。

居るはずのない生存者が、致命的な放射線の中、生存していた。

その事実が、ただならぬ奇跡を証明していた。

シゲとヒデは、その時の記憶が、夢なのか暗示なのか、未来へ託す希望の光なのかを確かめるべく、アロファロメオのジュリエッタをデザインした骨董品のフォルムの自動車型のジェットに飛び乗ったのだった。

シゲは、少女に会いたかった、そして何よりも確かめたかった。

本当に未来への救世主なのかを知りたいとその安否も確かめられずにはいられなかった。

それは、ヒデも同じだった。

フルスロットルのレバーを一気に落として、模造都市に横付けしたシゲは少し考えて、作戦を練ることを提案した。

ここは、その昔に地上にあった情景を再現した模造都市の一角。

丁度、東京の下町にある高円寺の居酒屋を再現した店に二人は入った。

  「おやじ、デンキブランと山芋の千切り2人前ね」

迷うことなく、ヒデがロボットをおやじと呼んで注文を済ませた。

その店にしたのは、研究室の職員がここを溜まり場にしていたからで、少女の情報を得るのが目的でもあった。

デンキブランに山芋の千切りを肴にして、ヒデとシゲは他の客の話に聞き耳を立てていた。

酒の勢いもあってか、後ろの席に陣取ったグループが、検体と呼んでる会話の中にエンジェルというキーワードを連呼している。

  「エンジェルって、まさか。」

ヒデもシゲも夢ではなく、確信へと近づくのを感じていた。

話の内容を要約すると、現在地上の北半球は放射能除去装置を各国共同で開発し、放射能を完全に除去することに成功したらしい。

しかし、人類は微量の放射線が生命を維持する上では不可欠であり、地下に隠れ住んでいる我々は、逆に放射能に耐えうるようにと開発された特殊なワクチンを接種することを義務付けられていた。

つまり、無菌状態の地上では、地下で暮らす人間は耐えられない身体になっていると、皮肉な結果になっている事実を聞いてしまった。

何日、いや何時間かは地上で生きられるのかも未だに実験段階で不明らしい。

そして、研究所でエンジェルと呼ばれている助けた少女は、ニュータイプの遺伝子DNAの持ち主で、放射能を体内で分解除去する特異なDNAを持って生まれた奇跡の申し子として、救世主エンジェルと呼ばれて、現在血液から取り出したDNAから新たな細胞を作る研究材料にされていることが解った。

更に驚くのは、南半球に同じDNAを保有するニュータイプの男の子をアダムと名付けて保護しているというではないか。

北半球と南半球で、互いの国益を賭けての争奪戦で新たな戦争も厭わないまでに緊迫してることも知ってしまった。

ヒデは、今にも殴りかかろうとするシゲを制止しながら肴の山芋を口に運びデンキブランで流し込んだ。

エンジェルの居場所も解った後は、未来に向けて一歩踏み出すだけだと二人は、模造居酒屋を後にして彼らの秘密の基地へ。

  「さぁ~てと、アレとコレと・・・。」

ヒデは、腰のウェストポーチを開いて、ニンマリと笑って、親指を立てた。

  「シゲ、お前ヤバイこと考えてんだろう!」

それに答えるようにシゲも親指を立てた。

  「おれは、イケナイものだよぉ~」

ヒデもシゲも覚悟を決めて、彼らの秘密基地である独身寮に向かった。


「つづく」
※この短編は、独自の解釈に基づくもので、本来の作品とは全く関係ありません。
  


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