「後編」
そして僕らは・・・(On Your Mark)
人類は放射線を除去するのに成功したが、地下に隠れ住んでいる人間には
耐えられない身体になっている皮肉な結果をもたらしていた近未来。
何日、何時間しか地上で生きられるのかもしれない。
そんな中、国家治安警備隊のヒデとシゲは、国家の実験台にされようとしている不思議な少女を救出しようと無謀にも国防軍の研究室への救出作戦を企てていた。
ヒデとシゲは、イタリアのアロファロメオのジュリエッタをモデルに再現したハイテク自動車で秘密基地である男子寮に到着した。
到着するなりヒデは、クローゼットから怪しげな工具箱を取り出して、器用に機器を分解して、くわえ煙草で何やら組み立てを始めた。
シゲは、コンピューターのディスプレイを睨みながらアクセスを試みている。
「お~い、シゲ。セキュリティ解除のアクセスコードに侵入できそう?」
どうやらシゲは、ハッキングを得意とし国防システムに侵入する計画のようだ。
「大きなお世話だ!ヒデ。そっちは?」
ヒデは、武器となるものを趣味で作っていたイタズラ用のオモチャを解体して、制作している。
「任せとけ。イケナイ道具のオンパレードだよ。」
ヒデは、少女の救出という目的を達成するために知恵を絞って武器を作るものの国防軍は仲間であり、同僚を傷つけるような殺傷能力のある武器を作るつもりなど無かった。
イケナイ道具とは、ヒデの英知の結晶であり、究極のイタズラ的な小道具でもあった。
「ヨッシャァ~!キター!」
シゲが、セキュリティ解除に成功して、アクセスキーのアクセスコードをゲットした。
「ヒデ、パスワード解析完了だ。」
ヒデは、針のない時計とスマホとガラ携を分解して、セキュリティスキャナーを作った。
シゲによると、プログラム解析から突入は警備の交代の隙を狙って紛れ込む。
大きくあくびをしながらヒデが、ひと休みしてからだなとイケナイ工具をウェストポーチに詰め込み壁に掛けて、机に足を投げ出した。
シゲは、ウォーミングアップすると、Tシャツ1枚になり竹刀の長さ程度の配管パイプで素振りを始めた。
相変わらず、放射能の数値は不安定で、アラームが鳴る。
「もう寝かせろよな」
ヒデは、線量計を睨みつけながら、
「なぁ、シゲよ。俺たち反逆者なのかな?それとも救世主?」
シゲは心の葛藤を見抜かれたことに腹が立ったのか、ヒデのあっけらかんとした物言いにも腹が立った。
その時、ハッキングしていたコンピューターが、アルカロイド系薬剤の異常数値を知らせている。
「まだ17歳なのか・・」
シゲは画面を見るなり、バラを持って赤いバラ17本に白いバラ1本を加えて急いで束にした。
部屋を飛び出す時にコインを一枚投げて部屋を飛び出した。
咄嗟のことで、ヒデは椅子から転げ落ちそうになりながらもコインを右手の平で受け取り、表か裏か。
即座に左手の甲に押し当てた。
「OK!思った通りだ!ィヤッホー!」
ヒデも追いかけるようにして、部屋を飛び出そうとした。
慌てて戻りウェストポーチにこれを忘れちゃ~・・っと。
小さな忘れ物?を仕舞い込み腰に装着して車にダイブした。
イタリアのアロファロメオのジュリエッタを再現したシゲ拘りの黄色いオープンカー仕様だ。
「シゲ。ひとつ聞いていいか。」
ヒデは、救出した少女が飛び立つのを見たかった。
「うまく助けだせたら、無菌状態の地上に行くんだよな。」
「そうしたら、俺たち飛び立つのを見届けれるかな。」
シゲは、ハンドルから右手を離して、ヒデのくわえ煙草を抜き取った。
「綺麗な空気に慣れておけよ。」
「俺たちゃ、今が病気みたいなもんだろ。」
ヒデは、ニヤッと笑いながら
「新鮮な空気かぁ。風邪をひいちまうよな」
バカ笑いしながらアクセルを踏み込んだ。
二人の向かう先は、国家機密研究室がある司令塔の更に地下にある研究室だ。
一方、国家機密研究室の地下では奇跡の少女を実験用モルモットとして、放射線抗体のメカニズムを解明するのに躍起だった。
何故、放射線を浴びても体内で浄化されるのか、いまだに解明ができていない。
南半球で保護されている「アダム」の血液サンプルを手に入れれば、解明の糸口が掴めるのではとの意見も研究者から漏れ出していた。
少女の意識は戻っているが、一言も話そうとない。
驚くべきは脳から発せられる脳波だ。
一定の波長で、ありえない数値をまるで無線通信のように発している。
鉛の壁も電磁波もその脳波を遮断できない。
研究者は、MRIよりも解剖して徹底的に解明する意見が多数を占めていた。
ただ一人、白い割烹着に身を包むハルだけが反対だった。
その昔、STAP細胞の開発者で名を馳せた女性研究員の末裔ハルは、少女の命を研究の名のもとに奪うことが、未来をも奪う結果になるのではないかと恐れていた。
先祖から引き継がれたこの割烹着を着るのは、失うかもしれない命を救う為の強い意思の表れだった。
「17歳の検体なのにもったいないが。」
「ハル君、アルカロイドの準備をしてくれ。」
ハルは、アルカロイド系の麻酔薬のアンプルを注射器に注入して、針を上に向け指で弾き針先から空気と共に溶液を飛ばした。
そして、ハルは同じタイプの注射器に生理食塩水にブトウ糖液5%を混入した溶液を予め用意してたものをすり替えて少女に注射した。
その時、シゲらは裏のゲートを強行突破して、荷物搬入用の出入り口からコピーしたセキュリティカードをタッチして開錠していた。
サイレンが鳴り響いた。
「もうバレちゃったのか。」
監視カメラの認証システムが、反逆者として二人の行動を狙う。
銃を乱射され、二人の侵入者を銃弾が阻止する。
「マジで、撃ってきたよ」
ヒデが、頭を下げて伏せたまま腰のポーチに手を突っ込んだ。
「俺たち、手配者だよな。イケナイ道具使っちゃうぞ。」
シゲが、鉄パイプを拾い上げて向かってくる警備隊の脇腹に剣道の胴打ちを食らわせた。
ゴメンよ。と声を掛けながら次々に急所を若干はずして敵ではないことを解らせようと細やかな思いやりが骨を砕くのを躊躇わせている。
次のゲートもクリアーした。
防護服に身を隠して、核心部に侵入した。
ヒデが、襲い掛かる警備の防護服の呼吸口に何にやらスプレーを注入した途端に相手は卒倒した。
「ちょと、臭かったかな、ゴメンね」
毒ガスじゃないよなとシゲが、ヒデに警備隊の命を奪うことをさせたくなかった。
その心配の必要なかったようだ。
「窒素、炭酸ガス、水素、メタン、酸素ですよぉ。」
「あっ、これ。オナラとも言う。」
ヒデは、インドールとスカトールを更に培養して濃縮ガスを注入したと説明したが、シゲには理解不能だった。
銃弾をくぐり抜けて、実験室に侵入した。
追っ手の数は増えていく。
強化ガラスの培養水の中に少女はいた。
その周りを高周波の防御システムでガードしているため近寄ることも出来ない。
目の前にいるのに防御システムをコピーカードでは解除できない。
ヒデもポーチから手裏剣を取り出して投げている。
これで、万事休すか。
「こっちよ」
実験台の陰から声が聞こえる。
割烹着を着た女性が、基盤装置を開けてナンバーを入力している。
「私は、ハル。」
「あなたたちが、救世主さんネ」
反逆者とも言うよ。ヒデが握手を求めて右手を出したが叩かれた。
無視されたほうが、まだマシだった。
防御システムは解除され、少女を抱きかかえて、ヒデが全力疾走する。
シゲは、ハルの協力に感謝しながら出口までのセキュリティを次々に解除していった。
「やったぁ~!」
危うく難を逃れて、アロファロメオの運転席にシゲが飛び乗りエンジンを掛けた。
ヒデは少女を抱えたまま後部座席に乗り込んだ。
「痛ててっ!」
ヒデは、座った座席に置かれてたバラの棘を尻に刺してたのだ、抜きながらキザな野郎だぜ!
追っ手の攻撃は、更に激しくなってきたが、シゲはミラーを確認しながら銃弾をくぐり抜ける。
「さぁ~て、シゲ。どうする」
このまま地上の出口まで走るしかない。
シゲは、地上への出口をめざしてアクセルを踏み込んだ。
グッタリとしていた少女が、目を覚ました。
「こわくないよぉ~」
「もう大丈夫だよぉ~」
ヒデの腕の中で少女は、ギュッと目を閉じた。
その時、車の計器の針が振り切り、これまでのスピード以上に加速した。
同時に耳の奥で、透き通るような声が、聞こえたんじゃなく響いた。
「これって、耳鳴りかな?」
ヒデが、小指で耳をホジホジしている。
シゲが、多分テレパシーじゃないかなと少女をミラーで見ながら答えた。
『私の名は、イヴ。助けてくれたのですね。
私が倒れていたところに連れて行って。
エルピスを・・・。』
ヒデには、何のことやら解らなかった。
シゲは、ハッカーだ。
搭載した端末から機密機関の情報にアクセスして、エルピスを検索した。
―――エルピス「Hope」(希望)パンドラ
やはり、未来に向けた希望の救世主だった。
「なるほど、パンドラの箱って訳ね」
ヒデの言う通り、エルピスとかいうパンドラの箱とやらを探さないと人類に未来は無いと言うことなのか。
衝撃が走った。
追っ手の放った砲弾が道を破壊したのだ。
そのままハイウェイから車ごと落下した。
「つかまってろぉ~」
シゲが、ジェットエンジンを点火して、激突寸前で建物の間をすり抜けて追っ手をかわして地上へのトンネルをフルで抜ける。
「シゲ、あの場所まで息止めようか」
「俺たち、地上で何時間かな?」
「そんなに息を止めてたら死ぬぞ。」
トンネル内の電気は、すでに電力を失い真っ暗だ。
さすがに銃弾を受けて、ライトも破壊された車が走行している方が奇跡だった。
トンネルを抜ける瞬間、ヒデの唇に何かが触れた。
「天井からの水漏れか?」
唇を拭いながら上を見ている。
シゲも同様に唇に冷ややかで、温かい何かが触れたのを感じていたが、同時に柔らかい髪が頬をかすめたのも感じていた。
暗闇から光の糸が見えた。
地上への出口だ。
地下の人工太陽と違い、眩しすぎてサングラスをしたヒデでさえ小さな目を更に小さくした。
もうダメだ。ヒデが咳き込んでいる。
どうやらトンネルを出た瞬間から息を止めていたらしい。
「ん?大丈夫みたい・・。」
ヒデは、これ以上は無理と言わんばかりに大きく深呼吸した。
シゲも久しぶりに草の薫る土の匂いと共に息を吸い込んだ。
「風邪も治るのかな?」
ヒデは、免疫力が急激に回復した理由に気が付いていないようだ。
知らない方が、良いと少女のうつむく姿をミラー越しに見て喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
「でも。飛べるのか?」
ヒデは、囚われの身であった少女を気遣った。
「取りあえず、練習だ。」
ヒデは、少女の両手をしっかりと握り、少女に羽を広げるように優しく促した。
恐る恐る羽を広げて、風を受けながら羽ばたいた。
シゲもスピードを調整している。
少女は、戸惑いながらも羽に風を受けて、上昇するかに見えたが、ヒデと繋がったままである。
ミラー越しにシゲが見た。
「こらっ!ヒデ~離さんかぁ」
ヒデが手首を握っていた。
放った瞬間、少女は空へ舞い上がった。
思わず、シゲも空を見上げてしまった。
大きく右に車線から外れる。
ガガッっと激しい音と共に路肩を越えて、大きく右に曲がり原野にはみ出したところで急停車した。
「シゲ、危ねぇなぁ」
シゲは、見惚れてしまって天を仰いでいてオーバーランして止まってしまった。
「地上も風景が変わっちまったなぁ」
瓦礫が、原野と森になっている風景を眺めてヒデが、この辺りだったよなと見渡している。
自由に旋回して大空を羽ばたいていた少女が、降りてきた。
『ありがとう。もう少しでお別れ』
ヒデは、少女の透き通る声をテレパシーで受け止めた。
「エルピスとかいうパンドラの箱は?」
その時、爆音を立てながら巨大な輸送ヘリが近づいてきた。
敵か、味方か。
機体には、国連平和軍のマークが付いていた。
『エルピスは、箱ではありません』
『希望の扉を開ける愛の鍵』
また少女の透き通る声が脳に伝わった。
その時、車載した無線機から声が聞こえる。
―――こちら、国連軍。イヴはそこか?――
―――アダムとそこへ着陸する――
ヒデとシゲは、旧約聖書の『創世記』を思い起こしていた。
ここで、世紀末を迎える大惨事があった。
そして、ここから始まるってことか。
咄嗟に、ヒデがポーチから何やら取り出して少女に手渡している。
もうすぐ、別れの時が来る。
ほんの僅かな時間であって、人生そのものを一緒に居たかのような錯覚にさえ覚える。
少女なのに母のような・・。
天使のようで、聖母マリアの温もりを感じる。
少女の目から涙が溢れて、こぼれ落ちた。
こぼれ落ちた涙の跡に白い花が咲いた。
ヒデも泣いている。
悲しいだけじゃないことくらいシゲにも解っている。
きっと、最後の言葉を探しているに違いない。
震える心を押さえきれないでいる。
ありきたりの言葉で、さようならできない。
少女は、笑顔でアダムに駆け寄り抱き合った。
シゲは、後ろに隠していたバラの花束をアダムにそっと手渡した。
そして、アダムの耳もとで囁いた。
「イブは、17歳だと。
赤いバラ17本と白いバラ1本にしたからな。」
やっと会えたね。出会いに年の数だけ赤いバラを渡すんだよ。
そして、この白いバラは、これから俺の色に染まって欲しいって言う意味をアダムに教え込もうとした。
頷くアダム。
「イヴ。会えると信じてた。この白いバラを地球の色に染めよう」
アダムは、シゲの方を向いて、右手の親指を立てていた。
「微妙に違うけど・・・オレ、小っちゃい?」
やっぱ、救世主は、スケールがデカイよ。
アダムが、ハート型の鍵を少女に手渡し、少女は鍵に軽く口づけをしてから地上に鍵を突き刺した。
瓦礫の上に草木が生い茂っていた原野が、鍵を刺したところを中心にして一気に色鮮やかな花に埋め尽くされていく。
ヒデとシゲは顔を合わせて、泣いて汚れた互いの顔を指さして笑った。
笑いすぎて涙が止まらない。
希望の扉を開ける鍵が愛ならば、エルピスというパンドラの箱はこの大地だった。
「ヒデ、これからどうする。」
決まってんだろ、スタート前の準備だよ。
まだ位置についてないからな。
シゲは、ヘリを見送ってちぎれんばかりに手を振った。
「メールするねぇ」
車に戻って、それはそうと、ヒデ何を渡したんだ。
「ないしょぉ~」
「おめでと・♡・そしてありがとう・・なう。」
ーーー送信ーー
「ヒデ!誰に送信したんだよ~!」
ふと見ると、フロントガラスにヒデがこっそり渡したのが口紅だと分かった。
『 SEE YA 』
赤い口紅で書かれていた。
空はどこまでも青く澄み渡って、赤い文字が更に映えた。
「On Your Mark」
♪そして~僕らは・…。
(終章)
※長い文章にお付き合いありがとうございます。
これは、原作の意図とは別の解釈によって、
書いたもので本作の主旨とは全く別のストーリーになっています。
どうかご了承下さい。
そして僕らは・・・(On Your Mark)
人類は放射線を除去するのに成功したが、地下に隠れ住んでいる人間には
耐えられない身体になっている皮肉な結果をもたらしていた近未来。
何日、何時間しか地上で生きられるのかもしれない。
そんな中、国家治安警備隊のヒデとシゲは、国家の実験台にされようとしている不思議な少女を救出しようと無謀にも国防軍の研究室への救出作戦を企てていた。
ヒデとシゲは、イタリアのアロファロメオのジュリエッタをモデルに再現したハイテク自動車で秘密基地である男子寮に到着した。
到着するなりヒデは、クローゼットから怪しげな工具箱を取り出して、器用に機器を分解して、くわえ煙草で何やら組み立てを始めた。
シゲは、コンピューターのディスプレイを睨みながらアクセスを試みている。
「お~い、シゲ。セキュリティ解除のアクセスコードに侵入できそう?」
どうやらシゲは、ハッキングを得意とし国防システムに侵入する計画のようだ。
「大きなお世話だ!ヒデ。そっちは?」
ヒデは、武器となるものを趣味で作っていたイタズラ用のオモチャを解体して、制作している。
「任せとけ。イケナイ道具のオンパレードだよ。」
ヒデは、少女の救出という目的を達成するために知恵を絞って武器を作るものの国防軍は仲間であり、同僚を傷つけるような殺傷能力のある武器を作るつもりなど無かった。
イケナイ道具とは、ヒデの英知の結晶であり、究極のイタズラ的な小道具でもあった。
「ヨッシャァ~!キター!」
シゲが、セキュリティ解除に成功して、アクセスキーのアクセスコードをゲットした。
「ヒデ、パスワード解析完了だ。」
ヒデは、針のない時計とスマホとガラ携を分解して、セキュリティスキャナーを作った。
シゲによると、プログラム解析から突入は警備の交代の隙を狙って紛れ込む。
大きくあくびをしながらヒデが、ひと休みしてからだなとイケナイ工具をウェストポーチに詰め込み壁に掛けて、机に足を投げ出した。
シゲは、ウォーミングアップすると、Tシャツ1枚になり竹刀の長さ程度の配管パイプで素振りを始めた。
相変わらず、放射能の数値は不安定で、アラームが鳴る。
「もう寝かせろよな」
ヒデは、線量計を睨みつけながら、
「なぁ、シゲよ。俺たち反逆者なのかな?それとも救世主?」
シゲは心の葛藤を見抜かれたことに腹が立ったのか、ヒデのあっけらかんとした物言いにも腹が立った。
その時、ハッキングしていたコンピューターが、アルカロイド系薬剤の異常数値を知らせている。
「まだ17歳なのか・・」
シゲは画面を見るなり、バラを持って赤いバラ17本に白いバラ1本を加えて急いで束にした。
部屋を飛び出す時にコインを一枚投げて部屋を飛び出した。
咄嗟のことで、ヒデは椅子から転げ落ちそうになりながらもコインを右手の平で受け取り、表か裏か。
即座に左手の甲に押し当てた。
「OK!思った通りだ!ィヤッホー!」
ヒデも追いかけるようにして、部屋を飛び出そうとした。
慌てて戻りウェストポーチにこれを忘れちゃ~・・っと。
小さな忘れ物?を仕舞い込み腰に装着して車にダイブした。
イタリアのアロファロメオのジュリエッタを再現したシゲ拘りの黄色いオープンカー仕様だ。
「シゲ。ひとつ聞いていいか。」
ヒデは、救出した少女が飛び立つのを見たかった。
「うまく助けだせたら、無菌状態の地上に行くんだよな。」
「そうしたら、俺たち飛び立つのを見届けれるかな。」
シゲは、ハンドルから右手を離して、ヒデのくわえ煙草を抜き取った。
「綺麗な空気に慣れておけよ。」
「俺たちゃ、今が病気みたいなもんだろ。」
ヒデは、ニヤッと笑いながら
「新鮮な空気かぁ。風邪をひいちまうよな」
バカ笑いしながらアクセルを踏み込んだ。
二人の向かう先は、国家機密研究室がある司令塔の更に地下にある研究室だ。
一方、国家機密研究室の地下では奇跡の少女を実験用モルモットとして、放射線抗体のメカニズムを解明するのに躍起だった。
何故、放射線を浴びても体内で浄化されるのか、いまだに解明ができていない。
南半球で保護されている「アダム」の血液サンプルを手に入れれば、解明の糸口が掴めるのではとの意見も研究者から漏れ出していた。
少女の意識は戻っているが、一言も話そうとない。
驚くべきは脳から発せられる脳波だ。
一定の波長で、ありえない数値をまるで無線通信のように発している。
鉛の壁も電磁波もその脳波を遮断できない。
研究者は、MRIよりも解剖して徹底的に解明する意見が多数を占めていた。
ただ一人、白い割烹着に身を包むハルだけが反対だった。
その昔、STAP細胞の開発者で名を馳せた女性研究員の末裔ハルは、少女の命を研究の名のもとに奪うことが、未来をも奪う結果になるのではないかと恐れていた。
先祖から引き継がれたこの割烹着を着るのは、失うかもしれない命を救う為の強い意思の表れだった。
「17歳の検体なのにもったいないが。」
「ハル君、アルカロイドの準備をしてくれ。」
ハルは、アルカロイド系の麻酔薬のアンプルを注射器に注入して、針を上に向け指で弾き針先から空気と共に溶液を飛ばした。
そして、ハルは同じタイプの注射器に生理食塩水にブトウ糖液5%を混入した溶液を予め用意してたものをすり替えて少女に注射した。
その時、シゲらは裏のゲートを強行突破して、荷物搬入用の出入り口からコピーしたセキュリティカードをタッチして開錠していた。
サイレンが鳴り響いた。
「もうバレちゃったのか。」
監視カメラの認証システムが、反逆者として二人の行動を狙う。
銃を乱射され、二人の侵入者を銃弾が阻止する。
「マジで、撃ってきたよ」
ヒデが、頭を下げて伏せたまま腰のポーチに手を突っ込んだ。
「俺たち、手配者だよな。イケナイ道具使っちゃうぞ。」
シゲが、鉄パイプを拾い上げて向かってくる警備隊の脇腹に剣道の胴打ちを食らわせた。
ゴメンよ。と声を掛けながら次々に急所を若干はずして敵ではないことを解らせようと細やかな思いやりが骨を砕くのを躊躇わせている。
次のゲートもクリアーした。
防護服に身を隠して、核心部に侵入した。
ヒデが、襲い掛かる警備の防護服の呼吸口に何にやらスプレーを注入した途端に相手は卒倒した。
「ちょと、臭かったかな、ゴメンね」
毒ガスじゃないよなとシゲが、ヒデに警備隊の命を奪うことをさせたくなかった。
その心配の必要なかったようだ。
「窒素、炭酸ガス、水素、メタン、酸素ですよぉ。」
「あっ、これ。オナラとも言う。」
ヒデは、インドールとスカトールを更に培養して濃縮ガスを注入したと説明したが、シゲには理解不能だった。
銃弾をくぐり抜けて、実験室に侵入した。
追っ手の数は増えていく。
強化ガラスの培養水の中に少女はいた。
その周りを高周波の防御システムでガードしているため近寄ることも出来ない。
目の前にいるのに防御システムをコピーカードでは解除できない。
ヒデもポーチから手裏剣を取り出して投げている。
これで、万事休すか。
「こっちよ」
実験台の陰から声が聞こえる。
割烹着を着た女性が、基盤装置を開けてナンバーを入力している。
「私は、ハル。」
「あなたたちが、救世主さんネ」
反逆者とも言うよ。ヒデが握手を求めて右手を出したが叩かれた。
無視されたほうが、まだマシだった。
防御システムは解除され、少女を抱きかかえて、ヒデが全力疾走する。
シゲは、ハルの協力に感謝しながら出口までのセキュリティを次々に解除していった。
「やったぁ~!」
危うく難を逃れて、アロファロメオの運転席にシゲが飛び乗りエンジンを掛けた。
ヒデは少女を抱えたまま後部座席に乗り込んだ。
「痛ててっ!」
ヒデは、座った座席に置かれてたバラの棘を尻に刺してたのだ、抜きながらキザな野郎だぜ!
追っ手の攻撃は、更に激しくなってきたが、シゲはミラーを確認しながら銃弾をくぐり抜ける。
「さぁ~て、シゲ。どうする」
このまま地上の出口まで走るしかない。
シゲは、地上への出口をめざしてアクセルを踏み込んだ。
グッタリとしていた少女が、目を覚ました。
「こわくないよぉ~」
「もう大丈夫だよぉ~」
ヒデの腕の中で少女は、ギュッと目を閉じた。
その時、車の計器の針が振り切り、これまでのスピード以上に加速した。
同時に耳の奥で、透き通るような声が、聞こえたんじゃなく響いた。
「これって、耳鳴りかな?」
ヒデが、小指で耳をホジホジしている。
シゲが、多分テレパシーじゃないかなと少女をミラーで見ながら答えた。
『私の名は、イヴ。助けてくれたのですね。
私が倒れていたところに連れて行って。
エルピスを・・・。』
ヒデには、何のことやら解らなかった。
シゲは、ハッカーだ。
搭載した端末から機密機関の情報にアクセスして、エルピスを検索した。
―――エルピス「Hope」(希望)パンドラ
やはり、未来に向けた希望の救世主だった。
「なるほど、パンドラの箱って訳ね」
ヒデの言う通り、エルピスとかいうパンドラの箱とやらを探さないと人類に未来は無いと言うことなのか。
衝撃が走った。
追っ手の放った砲弾が道を破壊したのだ。
そのままハイウェイから車ごと落下した。
「つかまってろぉ~」
シゲが、ジェットエンジンを点火して、激突寸前で建物の間をすり抜けて追っ手をかわして地上へのトンネルをフルで抜ける。
「シゲ、あの場所まで息止めようか」
「俺たち、地上で何時間かな?」
「そんなに息を止めてたら死ぬぞ。」
トンネル内の電気は、すでに電力を失い真っ暗だ。
さすがに銃弾を受けて、ライトも破壊された車が走行している方が奇跡だった。
トンネルを抜ける瞬間、ヒデの唇に何かが触れた。
「天井からの水漏れか?」
唇を拭いながら上を見ている。
シゲも同様に唇に冷ややかで、温かい何かが触れたのを感じていたが、同時に柔らかい髪が頬をかすめたのも感じていた。
暗闇から光の糸が見えた。
地上への出口だ。
地下の人工太陽と違い、眩しすぎてサングラスをしたヒデでさえ小さな目を更に小さくした。
もうダメだ。ヒデが咳き込んでいる。
どうやらトンネルを出た瞬間から息を止めていたらしい。
「ん?大丈夫みたい・・。」
ヒデは、これ以上は無理と言わんばかりに大きく深呼吸した。
シゲも久しぶりに草の薫る土の匂いと共に息を吸い込んだ。
「風邪も治るのかな?」
ヒデは、免疫力が急激に回復した理由に気が付いていないようだ。
知らない方が、良いと少女のうつむく姿をミラー越しに見て喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
「でも。飛べるのか?」
ヒデは、囚われの身であった少女を気遣った。
「取りあえず、練習だ。」
ヒデは、少女の両手をしっかりと握り、少女に羽を広げるように優しく促した。
恐る恐る羽を広げて、風を受けながら羽ばたいた。
シゲもスピードを調整している。
少女は、戸惑いながらも羽に風を受けて、上昇するかに見えたが、ヒデと繋がったままである。
ミラー越しにシゲが見た。
「こらっ!ヒデ~離さんかぁ」
ヒデが手首を握っていた。
放った瞬間、少女は空へ舞い上がった。
思わず、シゲも空を見上げてしまった。
大きく右に車線から外れる。
ガガッっと激しい音と共に路肩を越えて、大きく右に曲がり原野にはみ出したところで急停車した。
「シゲ、危ねぇなぁ」
シゲは、見惚れてしまって天を仰いでいてオーバーランして止まってしまった。
「地上も風景が変わっちまったなぁ」
瓦礫が、原野と森になっている風景を眺めてヒデが、この辺りだったよなと見渡している。
自由に旋回して大空を羽ばたいていた少女が、降りてきた。
『ありがとう。もう少しでお別れ』
ヒデは、少女の透き通る声をテレパシーで受け止めた。
「エルピスとかいうパンドラの箱は?」
その時、爆音を立てながら巨大な輸送ヘリが近づいてきた。
敵か、味方か。
機体には、国連平和軍のマークが付いていた。
『エルピスは、箱ではありません』
『希望の扉を開ける愛の鍵』
また少女の透き通る声が脳に伝わった。
その時、車載した無線機から声が聞こえる。
―――こちら、国連軍。イヴはそこか?――
―――アダムとそこへ着陸する――
ヒデとシゲは、旧約聖書の『創世記』を思い起こしていた。
ここで、世紀末を迎える大惨事があった。
そして、ここから始まるってことか。
咄嗟に、ヒデがポーチから何やら取り出して少女に手渡している。
もうすぐ、別れの時が来る。
ほんの僅かな時間であって、人生そのものを一緒に居たかのような錯覚にさえ覚える。
少女なのに母のような・・。
天使のようで、聖母マリアの温もりを感じる。
少女の目から涙が溢れて、こぼれ落ちた。
こぼれ落ちた涙の跡に白い花が咲いた。
ヒデも泣いている。
悲しいだけじゃないことくらいシゲにも解っている。
きっと、最後の言葉を探しているに違いない。
震える心を押さえきれないでいる。
ありきたりの言葉で、さようならできない。
少女は、笑顔でアダムに駆け寄り抱き合った。
シゲは、後ろに隠していたバラの花束をアダムにそっと手渡した。
そして、アダムの耳もとで囁いた。
「イブは、17歳だと。
赤いバラ17本と白いバラ1本にしたからな。」
やっと会えたね。出会いに年の数だけ赤いバラを渡すんだよ。
そして、この白いバラは、これから俺の色に染まって欲しいって言う意味をアダムに教え込もうとした。
頷くアダム。
「イヴ。会えると信じてた。この白いバラを地球の色に染めよう」
アダムは、シゲの方を向いて、右手の親指を立てていた。
「微妙に違うけど・・・オレ、小っちゃい?」
やっぱ、救世主は、スケールがデカイよ。
アダムが、ハート型の鍵を少女に手渡し、少女は鍵に軽く口づけをしてから地上に鍵を突き刺した。
瓦礫の上に草木が生い茂っていた原野が、鍵を刺したところを中心にして一気に色鮮やかな花に埋め尽くされていく。
ヒデとシゲは顔を合わせて、泣いて汚れた互いの顔を指さして笑った。
笑いすぎて涙が止まらない。
希望の扉を開ける鍵が愛ならば、エルピスというパンドラの箱はこの大地だった。
「ヒデ、これからどうする。」
決まってんだろ、スタート前の準備だよ。
まだ位置についてないからな。
シゲは、ヘリを見送ってちぎれんばかりに手を振った。
「メールするねぇ」
車に戻って、それはそうと、ヒデ何を渡したんだ。
「ないしょぉ~」
「おめでと・♡・そしてありがとう・・なう。」
ーーー送信ーー
「ヒデ!誰に送信したんだよ~!」
ふと見ると、フロントガラスにヒデがこっそり渡したのが口紅だと分かった。
『 SEE YA 』
赤い口紅で書かれていた。
空はどこまでも青く澄み渡って、赤い文字が更に映えた。
「On Your Mark」
♪そして~僕らは・…。
(終章)
※長い文章にお付き合いありがとうございます。
これは、原作の意図とは別の解釈によって、
書いたもので本作の主旨とは全く別のストーリーになっています。
どうかご了承下さい。