量子の100年に変革起こす、半導体の60年とAIの3年_25.03.03大下 淳一様記事抜粋<
2025年は量子力学の誕生から100年とされ、ユネスコは「国際量子科学技術年」に定めている。ハイゼンベルクやボルンなど、歴史に名を残す物理学者たちが量子力学の基礎理論を構築したのが100年前だ。
日本人にとって2025年は「昭和100年」の節目でもある。厚生労働省の調査によると、日本の100歳以上の人口は2024年時点で約9万5000人。親戚や知り合いの家族に100歳以上の人がいて不思議ではない。それほどに100年前とは「現代」に属する時間といえる。
誕生から100年を経た量子力学を巡って、いま最もホットな話題は量子コンピューターだろう。量子力学の原理を演算に応用し、様々なタイプの問題を現在のコンピューターと比べて桁違いに速く解く。つい10年前までは「夢の技術」と言われたが、ここ数年の大きな技術進化によって、商用の量子コンピューターがいつ実現するかに関心は移りつつある。大手IT(情報技術)企業が開発をけん引する。
米Microsoft(マイクロソフト)は2025年2月19日、量子コンピューター向けの新型プロセッサー「Majorana 1(マヨラナ 1)」を発表した。量子コンピューターの最大の課題とされる計算誤り(エラー)に強いのが特徴で、1チップに最大100万量子ビットを搭載できる。実用的な量子コンピューターの数年以内の実現につながると同社はみる。
米Google(グーグル)も2024年12月、量子コンピューター向けチップ「Willow(ウィロー)」を発表した。誤り訂正用の量子ビットを増やすことでエラー率を減らせる。
半導体とAIと量子が融合
米IBM上級副社長で研究開発部門を率いるDario Gil(ダリオ・ギル)氏は、これから起きるのは半導体と人工知能(AI)、量子の融合だと指摘する。同社はエラーを完全に訂正できる量子コンピューターを2029年までに開発する計画を掲げる。将来のコンピューティングでは「半導体、AI、量子技術を組み合わせ、それぞれの能力を引き出したり補ったりする技術が重要性を増す。Bits(半導体)、Neurons(AI)、Qubits(量子)という3つの要素の組み合わせだ」。
「半導体×量子」の例として同氏が挙げるのが、理化学研究所と共同で開発する量子セントリックなスーパーコンピューターだ。理研のスパコン「富岳」とIBMの量子コンピューター「IBM Quantum System Two」を連係動作させ、タスクを最適に処理するための研究を進める。
AI半導体時代の盟主となった米NVIDIA(エヌビディア)も「半導体×AI×量子」という潮流を体現する存在といえる。AI分野で鍛えたGPU(画像処理半導体)などの半導体技術を量子コンピューターの開発に欠かせないツールやシミュレーターに応用し、開発の効率化を支援する。これによって量子コンピューター時代の覇権をも握ろうとしている。
100歳を迎えた量子力学に比べると、半導体やAIはまだ若い。半導体の歴史はトランジスタ誕生にさかのぼれば80年近いが、トランジスタの集積密度の進化則である「ムーアの法則」の提唱を起点とすれば60年にすぎない。現在のコンピューターを根幹から支えるCMOS(相補性金属酸化膜半導体)トランジスタ技術が主流となったのはわずか40年前だ。そして現在に至るまで、半導体は量子力学を学問的裏付けとして進化してきた。
AIの歴史は人工知能の概念が提唱された1950年代にさかのぼる。ただ、真のAIの登場を我々が実感したのは2022年だろう。米OpenAI(オープンAI)が対話型AI「Chat(チャット)GPT」を発表し、生成AIブームが幕を開けた。その意味でAIは人間でいえば3歳に満たない、よちよち歩きを脱するころの子供だ。
AIという新たなスターの誕生によって、還暦を迎えた半導体は輝きを増し、百寿を迎えた量子力学にも新たな光が差す。それをつぶさに目撃できることは、現代人の幸福のひとつだろう。
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