中高年の7割がこの"現代の病"に陥っている…精神科医・和田秀樹が説く「幸せに老いていく人の特徴」夫婦円満だけでなく、健康にもいい_25/02/27 10:00和田 秀樹様記事抜粋<幸せな老後を送るにはどうしたらいいのか。医師の和田秀樹さんは「熟年夫婦はホルモンバランスの変化で、夫婦の溝が深まりやすい。夫へのストレスが原因で発症する『夫源病』やセックスレスを放置していると、幸せな老後を送れなくなる」という―
夫婦仲とホルモンとの関係
幸齢期に夫婦の溝が深まるのは、生理学的に見れば仕方ないかもしれません。
理由のひとつは、夫の男性ホルモンが減ってくるからです。
男性ホルモンの減少によって、意欲が低下したり、人づきあいが億劫になったりします。幸齢期はただでさえ思考や意欲を司る脳の前頭葉が縮んでくるのに、意欲低下があると、さらに脳の働きが悪くなります。
いっぽう、妻は、更年期が終わりを迎えるころから、男性ホルモンが増えてきます。意欲も増進し、アクティブになります。すると脳も活発に働くので、幸齢期に見られる前頭葉の縮みもカバーできるのです。
つまり、男性は気持ちが内向きになり、女性は外向きになる傾向がある。これを放っておくと、夫婦の溝は大きくなってしまうのです。
原因は夫かもしれない
「夫源病」という言葉をご存じでしょうか?
夫の言葉や行動が大きなストレスになり、妻が病気になってしまうことです。
主な症状は、めまいや不眠、動悸、耳鳴り、食欲不振などの心身の不調で、うつ病になる方もいます。更年期外来を開設する故石蔵文信医師が命名しました。
夫へのストレスが原因で病気になるの? なんて思うかもしれませんが、本当になる人がいるのです。実際に、夫が定年退職し、家に居るようになって症状が出始める妻は多くいます。
ちなみに、タレントの上沼恵美子さんも、ご主人の退職をきっかけに、この病気になったことは有名な話です。あの活発な方でさえなるのです。ストレスを溜める怖さを、改めて教えてくれた例です。
男性ホルモンが減り、前頭葉が縮んできた夫のなかには、不安が募り、妻を束縛する人も多くいます。「ママ、ママ」と妻に依存する夫の例を話しましたが、それが強まるのですね。
夫に縛られ、家から出られなくなる妻は、ストレスを溜め込む一方です。こうなれば、心も体も悲鳴を上げるのは当然です。そうならないためにも、夫婦がおたがいに自立したほうがいいのです。
「3つ以上で要注意」チェックリスト10項目
夫源病は、小さなストレスが積もり積もって現れる心身の不調です。つまり、誰もがなり得る病気です。「私は大丈夫よ」と言う人も「ちょっと心配」と言う人も、念のため次の10項目の「チェックリスト」に答えてみてください。
当てはまる項目が、3つ以上の人は「夫源病」になりやすい人と言えます。
とてもまじめで、周りからも「しっかりしている」と思われているでしょう。もちろん、それはよいことです。でも反面、「かくあるべし思考」が強い女性とも言えます。そして、「かくあるべし思考」が強い人ほど、思い通りにならないと、精神的に不安定になったり、落ち込んだりします。
年をとればとるほど、体力が落ち、思い通りにならないことも増えてきます。また、夫がずっと家に居る、というストレスに見舞われたりもします。こうした“過去になかったストレス”が積もり、心身にダメージを追ってしまうのです。
原因は「とらわれ」にある
夫も本書を読んでくださっている場合、前項の「チェックリスト」を妻の心境を想像しながらやってみることをお勧めします。仮に「うちの女房は3つ当てはまる」と思うなら、妻を束縛し過ぎないよう注意しましょう。
夫婦の距離が近すぎることは、幸齢期の場合、デメリットに働くことが多いと私は考えています。精神科医として私は「森田療法」を長く学んでいますが、その考えでは、次のようなことを言っています。
家族関係や親子関係に問題が生じる大きな原因は“とらわれ”にある――と。
相手に気をつかいすぎると、相手もこちらに余計に気をつかいます。おたがいに気をつかいすぎれば、息苦しくなります。
他人であれば、適度な距離を置いたり、離れたりできますが、家族や親子はそうはいきません。近しい関係にあるからこそ、離れられず、息苦しさがマックスになり、精神的な問題が起こってしまうのです。
では、どうすればいいのか
関係が近すぎると、おたがいの存在が大きくなり、逃れられなくなります。束縛し合ってしまうのです。相手の嫌なところも、必要以上に大きく見えます。すると、相手の良い部分までもが悪く思えたり、小さな欠点までもが気になったりしてしまいます。そうやって、どんどん嫌いになってしまうのです。
夫が会社に行っていたときは“物理的な距離”を保っていられました。このため、悪い部分にも目をつぶることができたのですが、家に居るようになると、距離が近すぎるため、気になって仕方がなくなるのです。
あなたが相手の悪い部分が目につくなら、「距離が近すぎるのかも」ということを、まずは疑ってかかるべきです。“近すぎる”と自覚することが、関係改善の第一歩。そのうえで、意識的に離れてみるとよいでしょう。
“離れる”と言っても、難しく考えることはありません。友だちと食事に行ったり、ひとりでお出かけしたりして、物理的に距離を置くだけです。自分から夫と離れてみることが大事なのです。
「つかず離れず婚」のススメ
近すぎるのもうっとうしいし、熟年離婚で完全に離れるのも寂しい……。
そこで私が提案しているのが「つかず離れず婚」です。夫と妻という関係を続けながら、おたがいを「同居人」と考えるという、心理的な距離の取り方です。
「つかず離れず婚」のカタチは、夫婦それぞれで決めて構いません。一定のルールを事前に決め、それ以外は自由に過ごすのがポイントです。
例えば、私の患者さんのご夫婦は、次のようなルールを決めています。
・朝食と昼食は各自で用意して食べる。夕食は、基本、当番制。
・夕食時に、必要な情報は共有する。
・洗濯は当番制。
・家の共有部分の掃除は当番制。各自の部屋は自分で掃除する。
・泊まり以外の外出は自由。宿泊する場合は事前に言う。
・外出時に「誰と会う」などの余計な詮索はしない。
もちろん、食事だけは妻が作ってあげる、というのもOKです。ただし、義務ではなく、「夫ができないので仕方なく」とか「夫のまずい料理を食べたくないから」というプラスの理由が必要です。
一方的なスタートは本末転倒
このようなルールの下で「物理的な距離感」をつくると、自然に「心理的な距離感」ができて、ストレスが軽減していきます。ふたりが自立した関係になることで、それぞれを尊重できるようになるのです。
大事なのは、おたがいが納得してやることです。妻が一方的に「今日からつかず離れず婚だからね」と宣言して、夫と距離を置き始めたら、夫は大きなストレスを抱えてしまいます。それこそ、病気になってしまうかもしれません。
離れる時間を少しずつ増やしながら、ひとりの時間が欲しいことを理解してもらい、「つかず離れず婚」を提案してみたらよいと思います。
もしも「そんなの嫌だ。俺はお前なしでは生きていけない」と夫が言うなら、「じゃあ、これだけは認めて」と譲歩を引き出す。大事なのは、物理的、心理的な距離を取ることで、おたがいの心に余裕を生むこと
中高年の7割がセックスレス
①婚姻関係を惰性で続けて、我慢しながら生きるか?
②新たな恋愛の可能性も含め、自分らしく生きるか?
どちらがいいと思いますか? 精神医学的には②がいいと思います。
ただし、婚姻関係をやめるのは簡単ではありません。精神的な負担があるのに加え、今後の生活費、住宅ローンの残債処理、財産分与など、山積みの問題が待っています。このため、多くの人は我慢しながら婚姻関係を続けています。
こんな調査結果があります。「日本の中高年の7割がセックスレス」――。
これって異常だと思いませんか。その多くは「したくてもできない」という我慢を強いられた状態です。健康的な生き方とは言えません。事実、性行為の回数が少ないと「前立腺がんになりやすい」とか「脳卒中になりやすい」というデータもあるほどです。
レス状態から抜け出す唯一の方法
夫婦生活を幸せなものにするためには、性的なことは避けて通れません。しかし、日本人の多くはタブーにしがちです。セックスについて話し合うこともせずに、ただ「したくない」とか「したい」と、一方的に自分の考えを押しつける。もはやこれは、健全な夫婦関係とは言えないでしょう。
夫婦において、妻と夫の双方が100%納得する関係をつくるのは、容易ではありません。でも、逃げずに話し合うことは必要だと思います。だって、セックスレスは、つらいですからね。
拒まれる側は毎晩「私は嫌われているのでは?」と悩みます。拒む側も「嫌がっているのになんで?」と相手を責めたり、受け入れられない自分を責めたりします。つまり、傷つけ合っているわけです。
これは本当に不幸ですよね。だからこそ、それ以上、おたがいを傷つけないためにも、話し合う必要があるのだと思います。
性について本音で話せば、おたがいの望みや苦しさもわかるはずです。歩み寄れるなら、新たな夫婦関係が見えてくるかもしれません。
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