「中国株には投資しないの?」と問われた“投資の神様”バフェット氏の答えは 証券アナリストが現地で見たバークシャー「4万人株主総会」の注目ポイント
様記事抜粋< 5月4日にアメリカのネブラスカ州・オマハで開催された、米著名投資家ウォーレン・バフェット氏が率いる投資会社「バークシャー・ハザウェイ」の年次株式総会。参加者が4万人を超え“株式市場のウッドストック”とも呼ばれる一大イベントを、実際に現地で目撃したマネックス証券の岡元兵八郎氏による現地レポートをお届け
世界最大の株主総会
5月4日土曜日の朝4時40分過ぎ、私たちは眠い目をこすりながらウーバータクシーに乗り込みました。向かった先はバークシャー・ハザウェイの株主総会が行われるアメリカのネブラスカ州・オマハ市にあるCHIヘルスセンターです。
当日は小雨が降っており肌寒い気候でしたが、会場に到着した朝5時には既に、数百人の株主が集まっていました。開場は7時なのですが、席は自由席です。開場を待つ数百人は皆、この日の主役であるバークシャーのCEO、ウォーレン・バフェットさんをできるだけ近くで見ようと、何時間も前から集まってきた生粋の“バフェットファン”なのです。
この日集まった株主は4万人を超えると言われており、“株式市場のウッドストック・フェスティバル”と呼ばれているこのイベントは、間違いなく世界最大の株主総会と言えるでしょう。
昨年、バフェットさんの長年の盟友であるチャーリー・マンガーさんが99歳で他界したこともあってか、今年は昨年よりも参加者が多かったと感じました。
今年94歳になるバフェットさんに“もしも”のことがあった場合、「バークシャーの経営はどうなるのか」と不安に感じている株主も少なくなかった
スタンディングオベーションで迎えられたバフェット氏
総会のプログラムはいつも、8時45分ちょうどに上映される、株主総会のためだけに作られた30分の動画から始まります。演台の前に設置されたVIP席にゲストが集まるのですが、有名な人物で言うと、バフェットさんの友人であるマイクロソフトのビル・ゲイツさんや、アップルCEOのティム・クックさんの姿がありました。
実はこの日、バークシャーは同社の最大保有銘柄であるアップルの株を13%も売却したと発表しました。
この発表を受けて、クックさんはさぞかし嫌な思いをしたのだろうな、と思いきや、後で聞いたところによると、ちゃんと事前に説明を受けていた
バフェットさんは前日の夜、クックさんと会食をしており、その場でアップル株を一部売却したことを説明したそうです。アップル株の価値が上昇したことで、バークシャーの保有上場銘柄の価値の半分をアップル株が占めていました。そのリスク管理の観点から、一部を売却することになったのだと思われます。
またバフェットさんは、株の一部売却後も「アップルは素晴らしいビジネスであり、2024年末時点でも同社の株はバークシャーにとって最多保有株である可能性が極めて高い」とコメントすることを忘れませんでした。
9時15分になると、総会のステージにバフェットさんが登壇します。すると、会場の株主達はスタンディングオベーションでバフェットさんを迎え入れます。CEOに対して敬意を表するため皆が立ち上がるのですが、日本の株主総会では考えられない光景です。
質問は事前チェックなし
総会では、バフェットさんが会場にいる株主の質問に答えていくのですが、オンラインから届く質問にもしっかりと対応しながら進行していきます。
ちなみに質問の内容については、事前に会社側によるチェックは行われず、バフェットさんも事前に内容を知らされていません。当日に質問を希望する株主は、8時過ぎに会場に設置されたブースに集まり、抽選に参加します。
実は、私は昨年この抽選に当たり、バフェットさんに直接質問するという栄誉を得ることができました。その際も、確かに事前に質問のチェックはありませんでした。当選した人には、自分が質問するだいたいの時刻が知らされます。あとは順番がくるまで、ブースにあるマイクの前に立ち、バフェットさんから呼ばれるのを待つだけです。
今年も質問をしようと抽選に参加しましたが、残念ながら2年連続の当選とはなりませんでした。 総会で出た質問に耳を傾けていると、やはり「後継者問題」は株主たちの大きな関心事であることが分かります。バフェットさんに何かがあった場合に、同社がこれまで成し遂げてきた成功を維持できるのか、といった見通しを探りたいのです。 バークシャーの日常的な業務は既に、2018年に同社の副会長に就任したグレッグ・エイベルさんとアジット・ジェインさんが行っていると言われています。
そうした点も踏まえ、バフェットさんは
「自身に何かが起きたとしても、会社の経営には問題がない」 と強調しつつ、後継者に関するほとんどの質問に対しては、
「時が来れば会社の幹部と取締役会が詳細を決定する」 と答えていました。
会場で起きた2つの拍手の意味
総会の中では、ここ最近バークシャーが日本株への投資を行ったことから、中国やインドの投資家が「バークシャーは中国やインド株式への投資はしないのか」と質問する場面もありました。
面白かったのは、香港の投資家が「中国株への投資はいつ行うのか」と質問した際に、会場の一部から拍手が起きたことです。どうやら、拍手は中国から来た株主たちによるものだったようです。
バフェットさんの答えは、
「ひょっとすると、将来そういうこともあるかもしれない。それは自分の時代のことではなく、それより先の時代に起こることだろう」
というもの
バフェットさんの日本株への投資は大きな成功体験です。ただ、米国以外にも魅力的な投資の対象があるのは事実ではあるものの、問題はバークシャーが米国外で投資を行う上でなんらかの優位性があるのか、という点だとも語りました。
彼はアメリカに投資することの長所も短所も理解しているが、米国外についてはアメリカと同じようには分からないと言います。バークシャーは世界のGDPの2割以上を占めるアメリカで事業を行っており、これからもアメリカ志向の会社であり続けると答えたのです。
そうすると、今度は先ほどよりもいっそう大きな拍手が湧き起こりました。やはりアメリカ人たちは、バークシャーには永遠にアメリカ志向のまま、国内企業に投資し続けていて欲しいと考えている
ジョークで締めくくられた総会
ちなみに、バークシャーが今後も日本株への投資を増やすかというと、私は必ずしもそうではないだろうと見ています。
なぜなら日本の商社は、バークシャー・ハザウェイという会社の事業形態が近いことがあり、投資がしやすかったという特殊な事情があったからです。それに、バークシャーの日本の商社株への投資が明らかになった時は、まだ日本株市場全体のバリュエーションも割安でした。
今は日経平均が大幅に上昇しており、当時の割安感はなくなっています。 バフェットさんは同社が「アメリカ志向」であると発言した際、「次に大きな投資をする場合、それはアメリカ国内である可能性が極めて高い」
とも話していました。それも、バークシャーのフォーカスはやはり米国株に向いているのだと感じた理由の1つです。
実際、5月半ばに確認されたバークシャーの新しい大型投資案件は、アメリカ大手損害保険会社「チャブ」への70億ドルの投資でした。保険はバークシャーが50年以上行ってきた事業であり、十分に熟知したビジネスでもあります。
そうして、朝8時45分に始まった総会は、午後3時に終了しました。 バフェットさんは、非常に個性的なユーモアセンスのある方で、真面目な話の最中でも数分に1回はジョークが飛び出しますが、それも彼の魅力です。私を含め、多くのファンがいるのも頷けます。
今年94歳の誕生日を迎えるバフェットさんの総会での最後の言葉もまた、印象的でした。
「皆さん、今年も来てくれて本当にありがとう。皆さんが来年も来てくれることを願うだけでなく、自分も来年またここに来ることができればいいなと思っています」 彼の独特なジョークを皆で笑いながら、6時間に及ぶ総会は今年も無事に幕をおろしたのです。 もちろん、最後もスタンディングオベーションの中で終わったことは言うまでもありません。
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