アンコールワットで人魂が見せてくれた奇妙な光景。
木々が少なく、鉄の道と、石灰色の建物が数多く建ち並び、煌々と灯りを照らし出す。そして、その間を切れ間無く、赤や白の光が行き交い、鉄の道には多くの人々が乗った様々な色に塗られた篭が行き交う奇妙な光景。
そんな光景を見たあと、テムは妙な感じに襲われていた。
「何なんだろう。何かが強くなった気がする」
そうは言っても、気がするだけで、実際本当にそうなったのかどうかは分からない。
コーゴンの花びらを原住民達に食べさせ、石化を戻したあと、テム達は砂漠の町ダオへと向かうこととなった。
ダオの町にたどり着いたテムは、即座にダオの町の入口で見かけた闇の空間に入る。
だけども、何も変化はなかった。
「ガイア様、何か奇妙な気がするんだけど…」
「大丈夫だ。そなたがもっと強くなった。その証かもしれぬ」
「そう…。何か、違うものが生まれそうな気がしてるんだ…」
「うむ、ここでは、まだ分からぬのであれば、違うところでその異変の原因が分かるであろう。そのとき、そなたは、受け入れる覚悟があるか?」
「覚悟?」
テムが一瞬逡巡する。
それは、どういう意味かはまだ分からない。けれども、何かをするためにはその「覚悟」を自らの体に受け入れる必要があるのだろう。
「う、うん…。分かった。僕は父さんが捜し、そして、ミステリードールを集めるためにフリーダンの力を借りてるんだもん…。何があっても受け入れるよ」
テムはそう言うと、ガイアは笑みを浮かべたようにテムには見えた。
「では、行くが良い」
そう言ったあと、テムはダオの町を歩く。
その途中、テムを一人の男に声をかけられた。
「あんた、テムさんだね」
「えっ、そうだけど。あなたは?」
「こりゃ、丁度良かった!
ビルとローラって人から手紙と荷物が届いているんだ。受けとってくんな」
「う、うん…。ありがとう」
男から受け取った手紙には、テムの祖父母からの手紙で、ピラミッドにあるというヒエログリフについてのメモが見つかったと送ると言うことだった。
そのメモを見てみると、ヒエログリフをこの順にそろえると何かが起こるらしい。で、その言葉の意味は「太陽神が地平線から上る」だった。
「ふぅ~ん」と頷くテム。
「とりあえず、ピラミッドへ行ってみるしかないかな?」と思ったテムは目的地をそこに定めた。
それから、仲間達と一旦合流し、次の目的地を告げる。
「そうか…、テム、気をつけて行ってくるんだぞ」
エリックがそう言うと、「分かった。気をつけて行ってくるよ」とテムは答える。
そんな中、たまたま通りがかった路地で、一人の少女がテムに一枚の紙をそっと差し出した。
そこには黒い豹の絵が描かれていた。
「まさか…」
テムが思わずこう言うと、カレンはそれを見て「お母様の殺し屋が…」と呟く。
多分、追い詰めたという意味での警告なのかもしれない。
また、ピラミッドについて、ダオの町で町の人から聞いた噂にこんなのがあった。
「ピラミッドは死者の場所。肉体を超えた者のみ、その場所に踏み入れる資格がある」
このとき、テムは、この意味が全く分からなかったが、後々、その意味が明らかになる。
そして、ピラミッドへ向かうテム。入口から入ってすぐ、彼はきつい洗礼を浴びる。
「痛い!」
テムの右腕をレーザーが通り過ぎる。通りすぎがあとからは、赤い血が流れ始める。
入口にいるモンスターが、テムに対していきなりレーザーを撃ってきたのだ。
「こいつ!」
急激にダッシュして、相手にスライディングキックを決める。
しかし、打撃を与えたあとに、すぐさま両方向からレーザーが放たれる。
「くっ……」
凄まじい攻撃にテムは顔を歪める。痛いと言うだけではない。何か、体をつらぬかされるような感じがするのだ。
闇の空間もない安全地帯は上に上がる階段のみと言う状況下で、テムは、階段を使い、スライディングキックを使い、傷つきながらもモンスターを倒す。
そうすると、奇妙な煙と共に闇の空間が現れる。
「はぁはぁ、良かったぁ、闇の空間だ……。ひょっとしたら、あの噂について、ガイア様に聞けるかなぁ?」
傷ついた体を押して、テムが闇の空間に入っていく。
闇の空間に入ったテムは、奇妙な彫像に気がつく。
背丈はフリーダンと同じぐらいなのだが、完全に裸体で、何もかも無く、その体からは奇妙は炎の様なものが吹き上がっていた。
幸いなことに、顔はのっぺらぼうではなく、フリーダンと同等か、それ以上に端正で彫りが深い造詣の美男子のそれがあった。
「あ…、あれ…、ガイア様の隣に奇妙な彫像がある。これは何だろう。
ガイア様、これは?」
テムは、ガイアに尋ねると、傷を癒してくれると共に、彼に大切なことを告げてくれた。
「そなたの闇の力は、アンコールワットの寺院で、さらに強いものとなった。
右側の石像の前に立てば、さらに強力な闇の戦士『シャドウ』へとその姿を変えることができよう。
そして、私はそなたにアイテムを一つ与えたいと思う」
こう言うと小さな玉がテムの掌に現れた。
「ガイア様、これは?」
「これはオーラの玉。
オーラの玉は、シャドウの心。これを持つことによって、その体は水の様に変化する。
現在、知られているピラミッドは、地表のほんの一部分。そのほとんどは地下に眠っているのだ。
さあ、シャドウへと姿を変え、地下へ進むがよい」
「シャドウって、あの彫像のこと?」
「そうだ。あれこそが、そなたのもう一つの姿『シャドウ』だ。
どうしてああなっているかわ。私も知っているが、本人から聞いた方が良いだろう」
「ガイア様のケチ…」
「ケチではない。まぁ、簡単に言えば、人であって、人にあらずと言ったところだろう」
テムは、その言葉でダオの町で聴いたピラミッドの噂を思い出した。
「そうだ…、シャドウの力があれば、地下に潜れるんだ…。
だけど、それだけなのかなぁ…。ちょっと怖いや…」
そして、裸体でその体の前に腕を組んだ彫像の前にテムはやってくると、再び、声が聞こえてきた。
「私は、この時がくるのを、ずっと待ち続けていた。
私こそ、すい星の光を使って作り出された究極の戦士『シャドウ』。
私の体には、形がない…。人の意識だけが進化すると、この体になると思えばいい。
今、地球に近づいている彗星も形を持たない意識体。
破滅をもたらす彗星に立ち向かえるのは、この私の体だけであろう。
さあ、目を閉じるがいい…」
その彫像の前で静かに跪くテム。
静かに白い光が彼を暖かく包み込んでいく。
そして、白い光の中でテムの体に異変が生じる。彼が持っている意識だけが、有機的に結合されていくのだ。
そして、黄色い光が一瞬輝くと共に青い体の生命体が現れる。
静かに立て膝を付いた状態から、蒼く輝き、黄色の光を発する生命体はゆっくりと立ち上がる。
体が浮いている。―シャドウになって、テムの最初の感想がそれであった。
静かに鏡面のような彫像の台座の側に立ってみると、体は青く、その周囲を黄色い光が発している筋肉質の体を持つ裸体の男がそこにいた。
「これがシャドウなの?」
「そう。これが私、シャドウだ」
「そう言えば、さっき貰った力のを使ってみよう」
テムはこう言うと、静かに「潜れ」と念じた…。
そうすると、シャドウの体はみるみる地下へしみこもうとして、その体を変化させていく。
「これが、シャドウの力なの?」
「そう、これが私の力だ」
「でも、この体、裸に近いよね?
敵からの攻撃が来たときはどうするの?」
「それは、私に任せればいい。私もまた闇の戦士。敵を確実に仕留める」
「ふぅん…」
しかし、ここでは、潜ることしかできなかったのか、すぐさま下の人形に戻っていった。
テムはシャドウが言っていた「人の意識が進化した」と言うのが、何となく分かるような気がした。
闇の空間から出たシャドウは、地下へ潜ろうとその体を水のように変化させる。
次の瞬間、シャドウは石の隙間を縫うように潜り始めた。
「シャドウ、こういう状態で、上に上がることは出来ないの?」
「申し訳ないが、上に上がることは、いくら頑張っても無理なのだ…。期待に添えなくて申し訳ない」
「ううん、ありがとう。この力があれば、ピラミッドの謎を解くことが出来るかもしれない」
そして、再び、床が見えると「ピチャ」と音を立てて、水のようになったシャドウの体が、人形へと変化する。
「では、参ろうか。それから、暫くあなたの意識を借りさせてもらおう。口調も変わるがそれは気にしないでくれ」
シャドウがこう言うと、テムは静かに頷いた。
そして、ピラミッドの一室に入る。
入って少し進んだところにさっき居たレーザー光線を放つ球形のモンスターが居た。
シャドウを認識するや否やレーザーを放つモンスター。しかし、シャドウはこれを地中に潜ることで攻撃を躱していく。
「汝が動き、見切った」
再び地表にその姿を現したシャドウは一気に詰め寄る。
「目障りだ、失せろ…」
次の瞬間、シャドウの右手が鎌のようにしなり、モンスターを切り裂いた。煙と共に消えるモンスター。
ここのモンスターは厄介なモンスターが多い。例えば、こんなモンスターが居たりする。
ある一角にシャドウが着いたとき、いきなり、赤い弾丸がシャドウを襲う。
「何っ!」
シャドウは急いで、その自身の体を霧のように変化させる。
「そんな、鈍足な弾、我に通じると思うたか?」
弾が切れたところで、その弾が現れた場所に反撃の一撃を加える。
そうすると、鷲を頭だけにしたようなモンスターが現れる。
再び、シャドウに向けて、弾を放つがこれもまた、自身の体を霧状にしたシャドウの敵ではなく、すぐに防御される。
その直後、シャドウの右手が確実に鷲の頭を切り裂いた。
またある一角では鷲の頭で体が人の衛兵のような敵が現れる。
「汝が相手、我が勤めん。我が鎌の餌食になるが良い」
シャドウがこう言って、襲いかかるものの、相手は巨大な盾を持っているために正面からの攻撃は全て返していた。
「それこそ返り討ちにしてくれる!」
盾をしまい、槍を構えた衛兵はこう言うとシャドウに向けて槍を一突きしようとする。
しかし、すんでの所でシャドウはその体を地中に隠す。
「くそ、何処だ…」
衛兵がシャドウの上を通り過ぎる。
その次の瞬間、シャドウは再び姿を現し、後方から斬りつける。
「汝、何処を見ている。我はここぞ」
衛兵が振り向くとそこにシャドウの姿があった。
「てめぇー!」
再び、衛兵が槍を構えて、シャドウを襲いかかろうとしたその瞬間、シャドウの一撃が決まり、衛兵は倒れた。
「我が名はシャドウ。我、彗星の力で産み出されし、闇の戦士なり」
倒した相手に一瞥すると敵は全滅したらしく、力が強くなったように感じた。
「これが、シャドウの力なの?」
「ああ、そうだ。これが私、シャドウの力だ。気に入ってくれたかな?」
「う、うん…」
テムは、ただ、こう答えるとシャドウはこう言った。
「ちょっと怖いかもしれないが、こっちへ来て貰おう」とテムを言うがままに指示してシャドウはある場所へ連れて行った。
「ここ、行き止まりだよ?
しかも、飛び降りる場所しかないよ?」
「大丈夫、私であれば、こう言うことが出来るのだ」
その体で飛び降りるシャドウ。真っ逆さまに落ちていく。地面がドンドン迫ってくる。それだけでテムは恐怖感を抱いてしまう。
「シャドウ! 地面に激突するよ!!
何とか出来ないの!?」
「大丈夫だ。私を信じて欲しい」
そして、そのまま、シャドウの体が地面に激突する。しかし、何事もなかったかのように、元の体に戻っていく。
「私は、体を持たないからこう言うことも出来るのだ。だけど、怖がらないで欲しい、テム…。これが彗星に対抗できる唯一の力なのだから…」
「う、うん…」
そう言ったあと、シャドウはこうつげた。
「では、奧へ参ろう…」
木々が少なく、鉄の道と、石灰色の建物が数多く建ち並び、煌々と灯りを照らし出す。そして、その間を切れ間無く、赤や白の光が行き交い、鉄の道には多くの人々が乗った様々な色に塗られた篭が行き交う奇妙な光景。
そんな光景を見たあと、テムは妙な感じに襲われていた。
「何なんだろう。何かが強くなった気がする」
そうは言っても、気がするだけで、実際本当にそうなったのかどうかは分からない。
コーゴンの花びらを原住民達に食べさせ、石化を戻したあと、テム達は砂漠の町ダオへと向かうこととなった。
ダオの町にたどり着いたテムは、即座にダオの町の入口で見かけた闇の空間に入る。
だけども、何も変化はなかった。
「ガイア様、何か奇妙な気がするんだけど…」
「大丈夫だ。そなたがもっと強くなった。その証かもしれぬ」
「そう…。何か、違うものが生まれそうな気がしてるんだ…」
「うむ、ここでは、まだ分からぬのであれば、違うところでその異変の原因が分かるであろう。そのとき、そなたは、受け入れる覚悟があるか?」
「覚悟?」
テムが一瞬逡巡する。
それは、どういう意味かはまだ分からない。けれども、何かをするためにはその「覚悟」を自らの体に受け入れる必要があるのだろう。
「う、うん…。分かった。僕は父さんが捜し、そして、ミステリードールを集めるためにフリーダンの力を借りてるんだもん…。何があっても受け入れるよ」
テムはそう言うと、ガイアは笑みを浮かべたようにテムには見えた。
「では、行くが良い」
そう言ったあと、テムはダオの町を歩く。
その途中、テムを一人の男に声をかけられた。
「あんた、テムさんだね」
「えっ、そうだけど。あなたは?」
「こりゃ、丁度良かった!
ビルとローラって人から手紙と荷物が届いているんだ。受けとってくんな」
「う、うん…。ありがとう」
男から受け取った手紙には、テムの祖父母からの手紙で、ピラミッドにあるというヒエログリフについてのメモが見つかったと送ると言うことだった。
そのメモを見てみると、ヒエログリフをこの順にそろえると何かが起こるらしい。で、その言葉の意味は「太陽神が地平線から上る」だった。
「ふぅ~ん」と頷くテム。
「とりあえず、ピラミッドへ行ってみるしかないかな?」と思ったテムは目的地をそこに定めた。
それから、仲間達と一旦合流し、次の目的地を告げる。
「そうか…、テム、気をつけて行ってくるんだぞ」
エリックがそう言うと、「分かった。気をつけて行ってくるよ」とテムは答える。
そんな中、たまたま通りがかった路地で、一人の少女がテムに一枚の紙をそっと差し出した。
そこには黒い豹の絵が描かれていた。
「まさか…」
テムが思わずこう言うと、カレンはそれを見て「お母様の殺し屋が…」と呟く。
多分、追い詰めたという意味での警告なのかもしれない。
また、ピラミッドについて、ダオの町で町の人から聞いた噂にこんなのがあった。
「ピラミッドは死者の場所。肉体を超えた者のみ、その場所に踏み入れる資格がある」
このとき、テムは、この意味が全く分からなかったが、後々、その意味が明らかになる。
そして、ピラミッドへ向かうテム。入口から入ってすぐ、彼はきつい洗礼を浴びる。
「痛い!」
テムの右腕をレーザーが通り過ぎる。通りすぎがあとからは、赤い血が流れ始める。
入口にいるモンスターが、テムに対していきなりレーザーを撃ってきたのだ。
「こいつ!」
急激にダッシュして、相手にスライディングキックを決める。
しかし、打撃を与えたあとに、すぐさま両方向からレーザーが放たれる。
「くっ……」
凄まじい攻撃にテムは顔を歪める。痛いと言うだけではない。何か、体をつらぬかされるような感じがするのだ。
闇の空間もない安全地帯は上に上がる階段のみと言う状況下で、テムは、階段を使い、スライディングキックを使い、傷つきながらもモンスターを倒す。
そうすると、奇妙な煙と共に闇の空間が現れる。
「はぁはぁ、良かったぁ、闇の空間だ……。ひょっとしたら、あの噂について、ガイア様に聞けるかなぁ?」
傷ついた体を押して、テムが闇の空間に入っていく。
闇の空間に入ったテムは、奇妙な彫像に気がつく。
背丈はフリーダンと同じぐらいなのだが、完全に裸体で、何もかも無く、その体からは奇妙は炎の様なものが吹き上がっていた。
幸いなことに、顔はのっぺらぼうではなく、フリーダンと同等か、それ以上に端正で彫りが深い造詣の美男子のそれがあった。
「あ…、あれ…、ガイア様の隣に奇妙な彫像がある。これは何だろう。
ガイア様、これは?」
テムは、ガイアに尋ねると、傷を癒してくれると共に、彼に大切なことを告げてくれた。
「そなたの闇の力は、アンコールワットの寺院で、さらに強いものとなった。
右側の石像の前に立てば、さらに強力な闇の戦士『シャドウ』へとその姿を変えることができよう。
そして、私はそなたにアイテムを一つ与えたいと思う」
こう言うと小さな玉がテムの掌に現れた。
「ガイア様、これは?」
「これはオーラの玉。
オーラの玉は、シャドウの心。これを持つことによって、その体は水の様に変化する。
現在、知られているピラミッドは、地表のほんの一部分。そのほとんどは地下に眠っているのだ。
さあ、シャドウへと姿を変え、地下へ進むがよい」
「シャドウって、あの彫像のこと?」
「そうだ。あれこそが、そなたのもう一つの姿『シャドウ』だ。
どうしてああなっているかわ。私も知っているが、本人から聞いた方が良いだろう」
「ガイア様のケチ…」
「ケチではない。まぁ、簡単に言えば、人であって、人にあらずと言ったところだろう」
テムは、その言葉でダオの町で聴いたピラミッドの噂を思い出した。
「そうだ…、シャドウの力があれば、地下に潜れるんだ…。
だけど、それだけなのかなぁ…。ちょっと怖いや…」
そして、裸体でその体の前に腕を組んだ彫像の前にテムはやってくると、再び、声が聞こえてきた。
「私は、この時がくるのを、ずっと待ち続けていた。
私こそ、すい星の光を使って作り出された究極の戦士『シャドウ』。
私の体には、形がない…。人の意識だけが進化すると、この体になると思えばいい。
今、地球に近づいている彗星も形を持たない意識体。
破滅をもたらす彗星に立ち向かえるのは、この私の体だけであろう。
さあ、目を閉じるがいい…」
その彫像の前で静かに跪くテム。
静かに白い光が彼を暖かく包み込んでいく。
そして、白い光の中でテムの体に異変が生じる。彼が持っている意識だけが、有機的に結合されていくのだ。
そして、黄色い光が一瞬輝くと共に青い体の生命体が現れる。
静かに立て膝を付いた状態から、蒼く輝き、黄色の光を発する生命体はゆっくりと立ち上がる。
体が浮いている。―シャドウになって、テムの最初の感想がそれであった。
静かに鏡面のような彫像の台座の側に立ってみると、体は青く、その周囲を黄色い光が発している筋肉質の体を持つ裸体の男がそこにいた。
「これがシャドウなの?」
「そう。これが私、シャドウだ」
「そう言えば、さっき貰った力のを使ってみよう」
テムはこう言うと、静かに「潜れ」と念じた…。
そうすると、シャドウの体はみるみる地下へしみこもうとして、その体を変化させていく。
「これが、シャドウの力なの?」
「そう、これが私の力だ」
「でも、この体、裸に近いよね?
敵からの攻撃が来たときはどうするの?」
「それは、私に任せればいい。私もまた闇の戦士。敵を確実に仕留める」
「ふぅん…」
しかし、ここでは、潜ることしかできなかったのか、すぐさま下の人形に戻っていった。
テムはシャドウが言っていた「人の意識が進化した」と言うのが、何となく分かるような気がした。
闇の空間から出たシャドウは、地下へ潜ろうとその体を水のように変化させる。
次の瞬間、シャドウは石の隙間を縫うように潜り始めた。
「シャドウ、こういう状態で、上に上がることは出来ないの?」
「申し訳ないが、上に上がることは、いくら頑張っても無理なのだ…。期待に添えなくて申し訳ない」
「ううん、ありがとう。この力があれば、ピラミッドの謎を解くことが出来るかもしれない」
そして、再び、床が見えると「ピチャ」と音を立てて、水のようになったシャドウの体が、人形へと変化する。
「では、参ろうか。それから、暫くあなたの意識を借りさせてもらおう。口調も変わるがそれは気にしないでくれ」
シャドウがこう言うと、テムは静かに頷いた。
そして、ピラミッドの一室に入る。
入って少し進んだところにさっき居たレーザー光線を放つ球形のモンスターが居た。
シャドウを認識するや否やレーザーを放つモンスター。しかし、シャドウはこれを地中に潜ることで攻撃を躱していく。
「汝が動き、見切った」
再び地表にその姿を現したシャドウは一気に詰め寄る。
「目障りだ、失せろ…」
次の瞬間、シャドウの右手が鎌のようにしなり、モンスターを切り裂いた。煙と共に消えるモンスター。
ここのモンスターは厄介なモンスターが多い。例えば、こんなモンスターが居たりする。
ある一角にシャドウが着いたとき、いきなり、赤い弾丸がシャドウを襲う。
「何っ!」
シャドウは急いで、その自身の体を霧のように変化させる。
「そんな、鈍足な弾、我に通じると思うたか?」
弾が切れたところで、その弾が現れた場所に反撃の一撃を加える。
そうすると、鷲を頭だけにしたようなモンスターが現れる。
再び、シャドウに向けて、弾を放つがこれもまた、自身の体を霧状にしたシャドウの敵ではなく、すぐに防御される。
その直後、シャドウの右手が確実に鷲の頭を切り裂いた。
またある一角では鷲の頭で体が人の衛兵のような敵が現れる。
「汝が相手、我が勤めん。我が鎌の餌食になるが良い」
シャドウがこう言って、襲いかかるものの、相手は巨大な盾を持っているために正面からの攻撃は全て返していた。
「それこそ返り討ちにしてくれる!」
盾をしまい、槍を構えた衛兵はこう言うとシャドウに向けて槍を一突きしようとする。
しかし、すんでの所でシャドウはその体を地中に隠す。
「くそ、何処だ…」
衛兵がシャドウの上を通り過ぎる。
その次の瞬間、シャドウは再び姿を現し、後方から斬りつける。
「汝、何処を見ている。我はここぞ」
衛兵が振り向くとそこにシャドウの姿があった。
「てめぇー!」
再び、衛兵が槍を構えて、シャドウを襲いかかろうとしたその瞬間、シャドウの一撃が決まり、衛兵は倒れた。
「我が名はシャドウ。我、彗星の力で産み出されし、闇の戦士なり」
倒した相手に一瞥すると敵は全滅したらしく、力が強くなったように感じた。
「これが、シャドウの力なの?」
「ああ、そうだ。これが私、シャドウの力だ。気に入ってくれたかな?」
「う、うん…」
テムは、ただ、こう答えるとシャドウはこう言った。
「ちょっと怖いかもしれないが、こっちへ来て貰おう」とテムを言うがままに指示してシャドウはある場所へ連れて行った。
「ここ、行き止まりだよ?
しかも、飛び降りる場所しかないよ?」
「大丈夫、私であれば、こう言うことが出来るのだ」
その体で飛び降りるシャドウ。真っ逆さまに落ちていく。地面がドンドン迫ってくる。それだけでテムは恐怖感を抱いてしまう。
「シャドウ! 地面に激突するよ!!
何とか出来ないの!?」
「大丈夫だ。私を信じて欲しい」
そして、そのまま、シャドウの体が地面に激突する。しかし、何事もなかったかのように、元の体に戻っていく。
「私は、体を持たないからこう言うことも出来るのだ。だけど、怖がらないで欲しい、テム…。これが彗星に対抗できる唯一の力なのだから…」
「う、うん…」
そう言ったあと、シャドウはこうつげた。
「では、奧へ参ろう…」