先日旅仲間とともに南房総の最南端に行った。翌日の帰り道、とある寿司屋さんに寄った。店の前の狭い駐車場すれすれに車を停め、のれんをくぐる。
やさしそうな、いかにも寿司屋さんというふうな女将さんのひと声に乗せられ、カウンター席に座る。そして地魚ランチを4人とも注文する。
女将にひきかえ、そこの店主。つまり旦那の印象がひときわ目立った。寡黙に寿司を握るその姿は、いかにも年期の入った握りひとすじという表現が似合う、年の頃60歳を超えているだろうか。愛想は決していいいとは言えず、握っている時の寿司屋特有のお愛想言葉もない。ぶっきらぼうな店主だなとその時は思った。
そして、出された地魚の寿司を私たちは食べ始めた。何の寿司だがわからず、一口二口と口に運んだ時、何かカタカナで書かれた紙を店主が無口で出してきた。
それは4品を横に、3段書きの、私たちの食べる寿司の名前であった。タチウオとサユリしかわからなかった私には、他の10品の名をしみじみと読み始めた。左からヒラメ、ブダイ、メダイ、イラ、ブリ、イサキ、ホウボウ、タチウオ、サヨリ、アンコウ、ハタ、クロダイ。
読んでから、そのご主人の心中を思ってみる。やさしくて、意地があり、我が道を行く、寡黙な男の生きざまが私にはとても快く思えてならなかった。
「つれづれ(94)ぶっきらぼう」