あべっちの思いをこめた雑記帳

陸前高田

   

 大津波で、家の形は残ったものの一階は全滅だったという。
 ピアノも使い物にならないとか。書道とピアノを教えている彼女が、ほそぼそと口にした。

 それは平成23年3月11日(金)。あの東日本大震災の時の、知人の弁である。海岸のすぐ側ではない、多少外れた所にある家なので大丈夫だろうなと、私の心配も被害を聞くまではわずかであったのに。

 風光明媚な陸前高田。近くの松林が海岸線にきれいに並んでいる姿は実にきれいであった。どうしてこんなきれいな海岸にド高いブロックコンクリートがあるのだろうと、波の力を当時は半信半疑に思っていた。まさかそれがまったくの役立たずになろうとは町の人でさえ思わなかったであろう。
 それだから、車の窓からこの陸前高田の松林が見えないのがもったいないとさえ以前は思っていた。わざわざブロック防波堤の中まで車を停めてその松林を見に行ったことさえある。

 自然の力はすごい。
 美しさと危険が紙一重とは頭ではわかっていても、信じたくはない。

 私にはどうしても「頑張れ」とは口に出しては知人へ言えなかった。
 ほんとうの自然の怖さを知った知人の何も言わない無言の姿に、それ以上に強い生き抜こうとする決意を感じたからである。

                          「心に残る旅(39)陸前高田)」

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