坂の多いこの町。
その坂を下り行くと、正面からすう~っと夕べの風が頬をよぎる。それが風情を不思議なほどにいっそうかもし出してくれる。越中八尾(えっちゅうやつお)という町の名が私によけいそうさせてくれるのかもしれない。
山々にこだまする胡弓の音色。
町並みに映える女たちのやわらなしぐさ。男たちの華麗な動き。それをかたずをのんで見つめる多くの人びと。
おわら風の盆は決して派手な観光用の祭りではないなと思う。この地に長く住んだ里人たちの、年に一度の暮らしの中の晴れ舞台なのだと感じる。長い歴史の中から里人たちが唄も踊りも伝承有形行事として引き継いできた芸術だと思う。山車やマイクやBGMなどは一切ない。
聞けば、二百十日の風封じと豊作の祈りを込めた祭りだという。十一の町内がそれぞれのあで姿で、それぞれの思いで踊り明かす。
観光用という訳ではなく、この地に住む人々の民族舞踏「おわら風の盆」。見ていてそう感じたし、いつまでも残しておきたい日本の伝統文化だと思う。
そう思うのだけれど、身動きができないくらいの人だかり。生活の中から生まれた踊りがこれほどの人の数を寄せつける「おわら風の盆」の魅力に今さらながら驚かされる。
ぼんぼりの明かりの中。
しんしんと更けていく八尾の町中に、浴衣姿や法被姿の女たちの男たちの踊りが声が鳴り響く。生歌や胡弓や三味線などに合わせて。
まさに日本の芸術の真髄を見たような気がする。
「心に残る旅(19)おわら風の盆」