あべっちの思いをこめた雑記帳

おわら風の盆

 坂の多いこの町。
 その坂を下り行くと、正面からすう~っと夕べの風が頬をよぎる。それが風情を不思議なほどにいっそうかもし出してくれる。越中八尾(えっちゅうやつお)という町の名が私によけいそうさせてくれるのかもしれない。

 山々にこだまする胡弓の音色。
 町並みに映える女たちのやわらなしぐさ。男たちの華麗な動き。それをかたずをのんで見つめる多くの人びと。

 おわら風の盆は決して派手な観光用の祭りではないなと思う。この地に長く住んだ里人たちの、年に一度の暮らしの中の晴れ舞台なのだと感じる。長い歴史の中から里人たちが唄も踊りも伝承有形行事として引き継いできた芸術だと思う。山車やマイクやBGMなどは一切ない。
 聞けば、二百十日の風封じと豊作の祈りを込めた祭りだという。十一の町内がそれぞれのあで姿で、それぞれの思いで踊り明かす。

 観光用という訳ではなく、この地に住む人々の民族舞踏「おわら風の盆」。見ていてそう感じたし、いつまでも残しておきたい日本の伝統文化だと思う。

 そう思うのだけれど、身動きができないくらいの人だかり。生活の中から生まれた踊りがこれほどの人の数を寄せつける「おわら風の盆」の魅力に今さらながら驚かされる。

 ぼんぼりの明かりの中。
 しんしんと更けていく八尾の町中に、浴衣姿や法被姿の女たちの男たちの踊りが声が鳴り響く。生歌や胡弓や三味線などに合わせて。
 まさに日本の芸術の真髄を見たような気がする。


                  「心に残る旅(19)おわら風の盆」

コメント一覧

iinna
この踊りには足音がない。 どこからともなく近づいて来て、どこへともなく去って行くようだ。
町筋を影絵の動きを思わせながら進んで行く。
胡弓の音が遠くなり、やがて消えた。
胡弓の音も歌の声もなく、坂をのぼるぼんぼりの灯の間を、踊りだけが宙に漂いながら揺れて近づいて来る。

高橋治が小説「風の盆恋歌」で端的に八尾の風情を映しとっています。 

坂道の両脇に水が勢いよく流れる「えんなか」の音さえ掻き消してしまう、静かに哀しい音色が聴こえる賑やかさです。
「えんなか」から聞こえる水音が、1996年(平成8年)に環境省の「残したい日本の音風景100選」に選ばれたそうです。

来たり こなんだり えん中の水は 誰が上手で オワラ 止めるやら

https://blog.goo.ne.jp/iinna/e/12dcf43dec8e3099070fbb874f8998d0
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