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あべっちの思いをこめた雑記帳

舞妓はん

  若い頃から琴が好きだった。それも琴のみの本格的な演奏よりも、むしろ歌謡曲という世界の伴奏に取り入れられたものが好きだった。
 今さっと思い浮かんでくるのは「女ひとり」「友禅流し」だろうか。あっ、「長良川」などは最高に美しい琴の伴奏だと思う。岐阜の郡上おどりをテーマにした歌である。その郡上おどりを歌った曲は「郡上恋唄」も素敵だが、これは長良川と違い演奏に琴は登場しない。
 先の二曲や長良川は琴が見事に入っているものの、同じテーマの郡上おどりでも琴が入らない歌もあるのかなどと思い新たな気持ちになる。
 それらの歌の舞台である京都や金沢や郡上八幡はすべて代表的な古都である。その古都が琴につながっているなどと一人シャレてみる。

 それにしても琴の入った歌謡曲で忘れてならないものはやはり「舞妓はん」だろうか。「花のかんざし重たげに・・・」で始まる名曲。
 この歌は昭和38年発売の橋幸夫さんの大ヒット曲である。当時まだ少年の私にもその詩は容易に理解できた。同年に発売された舞妓さんの歌といえば、シャンソン分野で活躍していた紫倉麻里子さんの歌謡界デビュー曲「さいなら大阪の街」のB面である「初恋舞妓はん」という曲もある。どちらも京都の舞妓さんを歌ったものだが、橋さんの歌いかたがとても無垢で、まっすぐなところに好感がもてる。さらに曲が美しく、私の好きな歌の一つだ。
 が、そういうことよりも、琴の伴奏が何といっても絶品だと思う。特に前奏がすばらしく、一番から二番に入る間奏も心地よい。三番に入る間奏もたしかだし、最後の終奏は見事の一言につきます。そして、京都の桜吹雪時期という歌の設定もよい。
 レコードの発売がたしか2月5日だったから、今から58年前のちょうど今頃の桜の季節には、全国あちこちでこの舞妓はんが聴こえてきたものである。

 2年後の昭和40年には前記の女ひとりが「京都大原三千院・・・」と琴の音にあわせてやはり流行りだした。
 しかし、琴の伴奏を取り入れた歌謡曲でこの舞妓はんほどの名曲は他に類がないと思うし、今後これを超すような歌はもう二度と出てこないだろうなどと思っている。
 作曲は国民栄誉賞を受賞された吉田正さん、作詞は数々のヒット作を出した佐伯孝夫さん。三番の「桜がくれに清水の 別れ道で舞扇・・・」と歌詞にある清水寺の桜。くしくもその佐伯さんの命日は、桜の咲きだす3月18日とのこと。

 振り返れば仕事柄、その京都には何度となく行っている。そして舞妓さんとすれ違ったり、一言の言葉を交わしたり、彼女らの舞台ショーを観たことはあるけれど、正式なお座敷でその舞いを観たのはこの時が初めてであった。たしか都ホテルだったと記憶している。
 見事な立ち居振る舞いで、思わずかたずを飲んで観入った。踊りを終えてから多少話をしたが、大阪、静岡、もう一人は東北のどこだったか忘れたが、いずれも彼女らは京都以外の出身だとは意外だった。その時までは、舞妓さんはてっきりみんな京都出身の娘さんばかりだと思っていた自分の無知さを思う。同時に、舞妓さんの年齢は二十歳が上限ということも初めてその時に知った。

 中学を卒業してからすぐ舞妓さんの修行の道に入り、稽古を積んでも、いずれ二十歳になれば舞妓さんは上限に達する。華の生命はおどろくほど短い。そんなことを思いながら観ていたあの時。
 それは私にとって、最初で最後の舞妓さんのお座敷でもあった。

              「童謡唱歌歌謡曲など(3)舞妓はん」



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