少しだけ窓をあけてハンドルを握る。
風が入ってくるわりには、それでも暑い。まだ5月の下旬だというのに、30度近くには達しているのだろうかと温度を疑う。
あまり好きではないクーラーのボタンを仕方なく押す。今年初めての作動だ。
蔵の街川越は相変わらず人が多い。
一年半ぶりなのに、さもしょっちゅう来ているかのような思いで、札の辻へ向かう車内から若者たちを見ている。
平日は市役所の駐車場は観光用には使わせてないとのことを、うっかり忘れていた。やむを得ず引き返し、町のパーキングに停める。そして、まっすぐそのまま南の方へ歩き出す。
芋のお菓子や饅頭。
来る前から買うことを決めていたので、わりと簡単に「これください」とお決まりのセリフのように発している。川越といえば芋というイメージがどうしても、それが好きな者には今でも抜けきらないでいる。
帰りぎわにあの時寄ったうどん屋さんの前を通る。今はもう店はない。
ご主人に「元祖芋うどん」のあれこれをお話いただき、これは美味しいと何度か食べて知っていて、両隣りさんのぶんも用意したこともあったっけ。ご自身の、商売に一生懸命でいる姿は、聞いていてもほんとうにすがすがしく、嬉しくなったことが今もこの耳の片隅に残る。片方の脳でそのお人柄にだいぶ感心した。ご夫妻と店でお会いするのは三度あったが、今はどうなされているのやら。過ぎてしまえばみんなあれもこれも思い出ばかり。
ランチは今回は芋料理ではなかった。プリンスホテルのフルコースであった。
部屋には、芋うどん、こがね芋、川越イもグラたると、甘藷納糖(かんしょなっとう)が川越に行くたぶに所狭しと並んでいたのに。
時間をかけて食べないと、体力が付きすぎるかもしれないなどという心配ももうなくなってしまった。
「心に残る旅(13) 川越芋づくし」