ロボサムライ駆ける■第50回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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■第六章 古代都市(5)
「ええっ、足毛布博士とおっしゃいましたか。博士はご無事でございましたか」
「無事も無事よ。主水も知らぬらしいのう」
いい澱む落合。
「まあ、いたしかたがない。教えてやるか」
「何でございますか、そのような奥歯にものの挟まったような言い方、お止め下され」
「よいか、主水。この地下都市発掘に関するプロジェクトで、地下ロボット動員策は、だれが提唱したと思うのじゃ」
「ま、まさか、足毛布博士ということはありますまい」
「ほほ残念ながらのう、足毛布博士なのじゃ」
主水の人口体液が急激に冷却した。
「まさか、そのようなことが…」
といいつつも、やはり山本たちが言っていたには本当だったのか。まさか、生みの親である足毛布博士がそれほど悪辣だとは思っていなかった。
「足毛布博士はロボットに恨みを抱いておられるようじゃな。かつて我が子のようにかわいがったロボットに逃げられてのう。その名は…」
レイモンはじろりと主水を見る。
「レイモン様、あとは言われなくてもわかります。私と言う訳ですか」
取り乱す主水。
「そうじゃ、霊能力者たるレイモンにとって、すべては読みとれるのじゃ。ほほ、お前が、足毛布博士のトラウマ(精神的外傷)なのじゃ。それゆえ、お前に対する憎しみも強かろうの。そう思うじゃろう、夜叉丸」
傍らにいる夜叉丸に言う。
「さようでございます。主水殿、気をつけられよ。足毛布博士は、今普通の精神状態ではござらぬ」
主水は、神殿の上にいる人々の群れの中に足毛布博士を見つける。
「足毛布博士」
主水はかけよるが、
「お前の顔などみとうない」
博士が顔をのけぞらす。
すねているのか、と主水は思ったが、博士の言葉が急に襲ってきた。
「裏切り者め。主水。俺を裏切って、今は何か、徳川公国の侍ロボットになりさがりよるか。よいか主水、お前はNASA宇宙旅行用に開発されたロボットよ。 徳川公国の旗本ロボットになろうと思っても、所詮、水と油。お前のボディもICチップもほぼアメリカ合衆国製じゃ。アメリカと日本のハイブリッドなの じゃ。それがお前は徳川公国の大名になりたいじゃと。何を考えておるのじゃ。どうじゃ、主水、体の具合がおかしいじゃろう」
博士は喚く。
「……」
主水は図星をつかれた。なぜなのだ。体が不調なことをなぜ知っているのだ。まさか、そうプログラミングされていたわけでもあるまい。
「おかしいはずじゃ、体がいうことをきかなくなる時があろう」
どんどん、声をあらげる博士。完全に自分の言葉に酔っているようである。
「……」
どうしたらよいのだ。この場合の選択枝はなにだ。しかし、主水には解答はない。
「それはロボット・ストレスじゃ。アメリカの体に日本の心を宿したからのう。いくら頭脳強化剤を与えたところで、機械工学で解決できるものではないのだ。ロボット生理学やロボット心理学の世界でしか解決できぬのだ。どうじゃ、すべて図星であろうが」
がなる博士に、もう手の打ち様もない主水だった。
「主水、気にするな」
新たな声がやわらかに主水を包む。
別の声だ。
続いて、徳川家当主、徳川公廣が現れていた。
徳川家康そっくりの顔を見ると主水も安心する。
「これはお上。ご無事でしたか」
主水は膝を落とした。
「貴公は我が徳川公国のために働いておる。それはすなわち日本にたいして役に立っているということじゃ。足毛布博士の言うことなど気にしなくてよい。よいか、足毛布博士は、お前を再び我が手の者とし、NASA宇宙探査用ロボットとして、宇宙へ飛ばそうとしておるのじゃ」
「宇宙へですと」
新たな情報で眼が回る思いの主水だった。
「よいか、日本を狙っているのが、神聖ゲルマン帝国のルドルフ大帝なのじゃ。ルドルフは霊戦争の原因が宇宙空間にある冷子星と考えておるらしい。この冷子星へ調査隊を飛ばす計画のようだ」
冷子星は地球監視衛星『ボルテックス』を作った種族が支配する星である。
主水は急に切り札を思い出した。
この一つで、博士に切り返すことができる。
「足毛布博士、あなたのお宅にユダヤのダビデの星が落ちておりましたが」
「何と、どういうことかな。足毛布博士」
徳川公が詰問する。
「お前は邪宗の徒なのか」
「それは……」
今度は足毛布博士が言い淀んだ。
その時、新たな人物が、主水の前に現れていた。
(続く)
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