「染み入れ、我が涙、巌にーなみだ石の伝説」第4回
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作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
第4回
人々の悲しみの涙を集めた涙岩が、粉粉になる。
その涙岩のかけら、「なみだ石」が、緑色、瑠璃色の光を放ちながら、
漆黒の闇の中へ、消えていくはずなのだ。
今日がその日だ。
「君も芝居がうまいね、日待クン。いや本当の名前は何というのかな」
ふっと滝は鼻で笑いながらいう。
しみじみと、僕を馬鹿にしている。でも僕は理解できないでいる。
ゆっくりと、滝が口を開いた。
「それじゃな。日待クンという名のコードネームをもつ男よ。「なみだ石」のと
ころまで案内してもらおうか」
「わからないんのだ。覚えていないのだ」
僕はあわてて、ごまかそうとする。
「でまかせをいうな。さっき、村にたどりつく前に、この山腹の方で光がちらちらと見えていた。あのあたりが涙岩の位置じゃないのかな、なあ日待クンよ」
「おおっと。そうそう。忘れるところだったな。これが必要だろうな、これからはな」
滝は短針銃ニードルガンをジャケットのポケットからと取り出し、それを僕に向けた。
短針銃ニードルガンは、超小型の針を限りなくばら撒く対人殺傷兵器だ。
が、僕はなぜ、それを知っているのか?自分の知識におののく。
「滝、よせ、あぷないじゃないか。短針銃を、、」
「おおつと。なぜ、危ないとわかる?短針銃とわかる?ふふん」
「僕は、、一体、誰だ、、、」
「もうよせ、日待クン,もう、すでにネタはあがっているぞ」
世の中がまるで180度回転したみたいだ。
僕はあきらめ、滝を後に、「涙岩」にむかい歩き始めた。
もちろん、滝は右手にその究極の殺人兵器、短針銃を構え、用心深くぴったりと
僕の背中に照準あわせているのだ。
涙岩へは小一時間ほどかかった。
悪路だった。
村人以外は、知らないよりな迷路のような道だ。
滝は先程、事故に出会ったばかりと思えないようなタフさでついてきた。
この頑丈さは。何者なのだ。
それと同じように、僕はいったい誰なのだ。何者なのだ。
「まて、日待クン」
滝は、道の徒切れていて、僕を止める。
山道がおわり丘が盛り上がり、そこからは草原の盆地になっていて、
そこに人の気配がした、
樹木のそばに隠れる。
涙岩のまわりには二百人ほどの人が集まっていた。
村人以外の人が、かなりいるようだ。
あきらかに、村の人口よりは多い。
気づかれないように、そっと草陰から眺める。
涙岩は緑色からルリ色へ、色々な透き通った色眼光を変え輝いていた。
人々の顔がはっきり見え始めた時、滝がいった。
「ようし、日待クン、ここまでだ。いい眺めじゃないか」
それから、僕達の出現に気づいていない人々に、隠れていた岡の上から姿を見せ見下ろし
大声で叫んだ。
「おい、君達、おれは「地球防衛機構」のものだ。代表者をだしたまえ」
どこからともなく突然、爆音がきこえた。
夜空に「ガン=シップ」と呼ばれる攻撃用ヘリコプター
が5機、飛来してくる。
「我々には、君たちと話し合いをする用意がある。しかし我々に逆らえば、、」
「ガン=シップ」ヘリ1機から1本の空対地ミサイルが発射され、草原近くの森の木々が打ち倒された。
その人間のならから、一人の女が、前にでてきた。
何てことだ。
彼女だった。
第7回
「私が、代表者です。名前はリーラです」
それから、ゆっくりと僕の存在をわかり、みつめ、悲しそうな顔をした。
「やっばり、来てしまったわね。ミユー。間違いだったわ、あなたに会ったのは。これで
最後だと思いあなたに会った。失敗だったわ。私は、あなたをつれていくことは、、やはり、できないのですも
の」
リーラ、そうだ。
彼女はリーラだった。
ミユー。それが私、日待明の本名?
僕の、、いや、私の頭の中で何かが爆発した。
私の記憶の総てが急激に、、甦ってきた。
リーラ、彼女は私の妻だった。
いや、今も私ミユーの妻だ。
はるか昔、我々は、この地球に降り立った。
我々は目的遂行のため、この地球に一定期間、滞在することになっていた。
だが、第10次探険隊長の私ミユーは、ふとしたことで、この地球上で罪を犯してしまったのだ。
私達の星の法律及び裁判に依り、私はこの星への追放刑に処せられた。
第10次探険隊長の私ミユーは、この地球に,永遠に住まざるを得ないのだ
そして同時に、私の記憶は分解された。
偽りの記憶が埋め込まれたのだ。
1年前に、「リーラ」に会い、別れの記念に「涙石」を与えられた。
その涙石が、ここで記憶をとりもどすきっかけとなった。
今の自分に戻った私の意識。
滝が、リーラ達にむかい、何かを必死に訴えている。
が、私は、私自身の過去の記憶を、何とかたぐりよせる事に努力し、
上の空だった。
「私は地球防衛機構を代表して話している。君達は、なぜ地球人をつれさろうとするのだ。
すでに多くの地球人が、いままでに君達によってつれさられている」
滝という名の男の声が耳に入ってきている。
リーラは、ゆっくりと微笑んで、余裕のある態度で返事をかえす。
「滝さん。いい。ですか」
リーラは、回りに不安げにたたづむ人々を両手でしましながら、諭すように言った。
「この人達は地球では住めない人達なの。善良すぎて。この汚れた梅球ではね」
「ふつ、善良すぎるだと?リーラ。ここは我々の星だ。そして彼らは我々人類の仲間なのだ」
「ねえ、滝さん、彼らがこの地球を去るかどうかは、自分達がきめる事よ」
私の、今までの記憶、過去はすべて造られたものだった。
この村で生まれ、育ったということ。それもすぺて彼女らに、つまり仲間遠に作られた記憶だ。
私達が、この星地球をはじめて見た時のことを私。ミューは思い出す。
地球は本当に美しかった。
そうなのだ。
夜空の中に浮ぶ「なみだ石」のようだった。
あれから何年たってしまったろう。
今まで20才であると思っていた僕「日待明」は、地球の上で少
なくとも2000年暮らしていた私「ミュー」を発見する。
裁判の決果、有罪と決めつけられた私は、何人分もの地球人の人生を一人で,歩んできたのだった。
仲間は私の体に特殊処置を施した。
私は私個有の記憶をなくし、地球人幾人分かの生と死を味わったのだ。
今の今まで、私自身を忘れさっていた。
あの日記、このなみだ石のことを書いた父の日記は誰のものだろうか。
おそらく私はリーラがそう仕掛けたと思う。
副隊長であったリーラは、自分達、第10次探険隊が引きあげる時が近づいたことを知せるためにだ。この20才の僕「日待明」の人格、頭屋村の生まれであるという記憶が、最後に作られていたのもりーラのしわざだろう。
「地球追放刑」を受けた私を、彼女の旅立ちの時に、涙岩のところまで来させたかったのだろう。
たてまえとしては、来させてはいけないのだが、彼女の本音は、やはり、ここに、別れに来てほしかったに違いない。
滝は、本当の名前は知らないが、まだ、必死でりーラ達と話をしていた。彼女達をとめようとしていた。
涙岩の上で、涙をながさざるをえないような心のやさしい人達、今の地球に住むには心やさしすぎる地球人達、そんな人達を、我々の星に連れてかえるのが私
達の使命だ。しかし、そんなことは、今の私には、かかわりあいがない。
滝は、地球防衛組織の一員だ。そしてどういうきっかけかはしらないが、私が地球人ではないことを知り、「涙岩」の場所をつきとめるために、私について、この神立山に来たのだろう。
かわいそうな地球人たち、、、私は常に思う。
どうやら、滝は力にうたえるらしい。
近くの森の上を旋回していたヘリ5機が、急速に近づいてきた。草原と涙岩と人々の間に、ヘリからのサーチライトの光条が飛び交う。
それまで輝いていた「涙岩」がもっと光を増しはじめた。
一瞬、涙岩からの閃光が私の目を射た。
そして、大きな音が聞こえ、衝撃が襲う。
(続く)