新人類戦記第二章 脱出 第8回
作 (1980年作品)飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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(アメリカとソビエトの冷戦時代の話です)
■マレーシアのベトナム難民収容所の病院で竜はリハビリを受けていた。ジウが片わらに
心配そうに見ていた。
しかし竜とジウの心の中にはいいしれぬ不安かまたもや目覚めていた。2人は鳥肌をたてている。
魔の手が、いやおうなく二人を修羅場へひきだそうとする魔の手が近づいているのだった。2人の予知能力がそれを告げていた。
その男がベトナム難民収容所の中にはいってきた。そして付属病院のドアをくぐり、リハビリの部屋の前で立ちどまり、ゆっくりと戸びらをあけた。
二人の眼の間に火花が散った。
竜は、その旧友の力量が恐るべきものであることを一目で看過した。
「君が来たのか、デューク・島井」
「そうだ。俺がルーク大統領の命令で来た」
■まわりの風景が凍りつく。熱帯なのだが。
事実、周囲の人々の行動は停止されていた。驚くぺきデューク・島井の能
力のしわざである。まわりの物音は完全に消されている。
三人だけの世界が存在している。
「竜、なぜ、お前はジウを殺さなかった。何度でも機会があったはずだろう。
それとも、お前がベトナムで子供の時に誘拐して。超能力戦士に作りあげ
たので仏心が出たとでもいうのか」
竜はだまつている。
「ベトナムの人といわれた、お前が仏心か。笑わせるぜ。いいか、お前の体は、人を殺さ
なければ生きてはいけない体だ。それがなぜジウを助ける」
「私が説明するわ」
少女のジウが前に進み出た。
「私達は新人類なのよ」
「新人類だと、何をたわごとをほざく」
「私達は旧人類を威ぼす義務があるんだわ」
「お前さんがジウか。お前さんにはしばらくの間だまっていてもらおうか。俺は旧友の竜と話がしたいのだ」 ゛
瞬間、あらがう間もなくジウの心は凍結された。
竜がポッリとつぶやいた。
「デューク・島井、お前さんだけには来てほしくなかった」
竜とデューク・島井は超能力戦士の第一期生だった。
太平洋戦争直後、日本全国に戦争孤児が充満していた。戦争の恐怖体験をのり越えて
来た子供達の中に、異常な神経のたかぶりを生、そして超能力を生ずる少年達が存在した。
もちろん当時、超能力とかいう言葉が使われていたわけではない。日本にそんな研究をしよ
うという人間も存在しなかった。アメリカ駐留軍の中にブラックウッド博士がいた。
彼は戦争孤児達の超能力に興味を持ち、多くの戦争孤児をアメリカの研究所に連れてかえった。そして超能力がみがけるようにと教育を施したのだ。
その中に竜とデューク・島井がいた。しかしその当時からデューク・島井は人並みはずれた超能力者であった。しかし、竜はすぐれてはいなかったが、2人は気があった。
それゆえ、彼竜はその後グリーンベレーに送られ、後アメリカ軍のアクション・サービスの下級職員としてぺトナムで動いていたのだった。それを拾い上げたのが、日本政界の黒幕と言われる山梨の翁だ。
その間、デューク・島井は超能力研究で有名なアメリカ、デューク大学へはいり、研究を続け、さらに自らの能力の研さんにはげんでいた。
彼の師でもあり、育ての親であるブラックウッド博士がべトチムでハチにさされて急死と聞いた時、彼は悲嘆にくれた。
彼にとってブラックウッド博士は師であり、また戦争孤児のデューク・島井にとっては
父でもあり、また友でもあった。
今、デューク・島井が超能力者として、アメリカ政府に優遇されているのもひとえにブラックウッド博士のおかげである。
「俺をどうするつもりだ」
「どうするつもり、竜、俺をみくびるなよ。
今の俺は昔の俺ではない。アメリカの誇る偉大なる超能力者だぞ。お前達二人を殺すのは俺にとって何でもないことだ」
「まずジウから尋問を始めよう」
「どうして、お前はあの輸送機の爆破からのがれることができた。そして訟前達の仲間
は生きているのか」
デューク・島井はジウの心の中をのぞきこもうとする。が、デューク・島井は驚いた。彼女の心はまるで壁がない。普通の超能力ならバリヤをはりめぐらして自分の心をとざそうとするのだが、そ
れがないのだ。
そして、あの輸送機爆破の件については、ジウはまるで記憶がないのだ。
「竜、お前は何かを知っているな」
今度は、竜の心に忍びこむ。竜は心をとざそうとする。しかしデューク・島井の超能力は、竜の
心のガードをつきやぶっている。
そして、竜と一時一緒に働いていたもとベトコンの勇士ハイニンの最後の言葉にたど
りつぐ。
「俺はKGBのエージェットから聞いたことがあるんだ。彼女のよう超能力者が世界中
に存在する」
「何 この世界じゅうに。超能力者が存在するだと」
デューク・島井の心の中に途中の飛行機のハイジャッカーが思い出されてきた。あの首領格の男。
秀れた超能力者だった。
しかし、デューク・島井は、ベトナムにいた。パラサイコマンドの顔を国防省のファイルにある全
員を記憶していた。その中にあのハイジャッカーの顔はない。
さらにデューク・島井は、あの姿なき新人類の指導者の言葉をさぐだしていた。
「人類を誠ぼせだと笑わせるな。俺がお前たち.超能力部隊の生き残りを一人
ずつ見つけだし殺していく。お前達を生かしておいてはこの世のためにはならん」
ジウはデューク・島井の超能力にあって金縛りにあっている。
そしてジウの殺人精神波はまだ発生していない。不思議だった。デューク・島井の超能力がそれを
防いでいるのだろうか。
デューク・島井は竜の過去の秘密を、竜の心の奥底からあばきたてていた。
すなわち、竜が「オオミツバチ」でブラックウッドド博士を殺したことだ。
「お前がブラックウッド博士を殺したのか、ゆるせんぞ竜、たとえお前でもそれはゆるせんぞ」
殺意がデューク・島井の体に充満していた。鋭い精神衝撃波が竜の体にふりそそがれる。
じっとしていたジウの心の中のスイッチが押された。しかし今度は……
収容所の壁が急激に揺れだした。ゆれは断々ひどくなり、戸びらが振動する。
収容所の人々は我にかえった。デューク・島井の集中力がやぶれたのだ。
天井の電灯がゆれ動き、ぶちあたってこわれた。収容所の難民は建物の外へとびだそう
とするか、人々は立っていることができなくなつてきた。
建物がくずれがち始める。地割が生じて来た。林のヤシが音たて
て到れてくる。窓のガラスが粉々に飛び散る。
大きな音がして、ジウと竜、それとデューク・島井の間に大きな断層が生じた。床ごと分割されている。
床に到れながらも、デューク・島井は二人をにらみつけ、衝撃波を送り続けようとする。とうとう
地震は激震の段階にはいった。
デューク・島井は自らの体を守るのが精一杯となる。いかなる超能力者といえども
地震をとどめるむとはできない。
落下してきた天井に気をとられたほんの一瞬、ジウと竜の姿は消えていた。
地震はうそのように終わった。
「今の地震を彼らがおこしたというのか」
驚きの表情があった。彼の声がふるえていた。
あの少女が自分の能力以上の存在だと。自尊心が崩れる。
デューク・島井はゆっくりと立ちあがり服の汚れをおとした。
目の前にはぐずれおちだ難民収容所の形骸か拡がり、火の手があがっていた。人々は傷つき、
気を失したっていた。
「くそっ、俺が考えていた以上に、彼らの裏には大きな力が存在するらしいな。本腰をい
れなければならん」独り言ちた。
デューク・島井は大いなる敵が現われたことに闘志をかきたてられていた。もとのデューク・島井にもどっていた。不敵なえみが浮かんでいた。
彼はアメリカに帰り、再度、超能力部隊を作ることを大統領に進言しょうと決意した。
さらにPLOのあの超能力者について調べなければ々らない。
デューク・島井はくずれおちた難民収容所の建物を、すぐれた念動力で一拠に持ちあげ、人々
を助け始めた。
病院の看護婦「淡華」が、偶然おとずれていた難民救助船「ピースス号」の看護婦「麗香」の死体にすがりつき泣
いていた。
第3章に続く
新人類戦記第二章 脱出 第8回
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