ロボサムライ駆ける■第17回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」
■第三章 霊能師(5)
東日本と西日本を分けている場所は、関ヶ原である。
霊戦争後、東日本も西日本も地形が変化したが、
昔の関ヶ原あたりに電磁ベルトが十メートル幅で、日本を分断していた。
国境ラインに張り巡らされている電磁バリアに加えて、西日本側の前には球形の飾りが数万飾られていた。それが陽光を浴びてにぶく光っている。
その光の元は、東日本へ逃亡をはかったロボットの頭であった。
その霧のかかる国境線に、三人のロボットがこっそりと蠢いていた。
あたりを見回す。
「あんた、大丈夫かい」
幼い子供ロボットを抱いている母親が、父親のロボットに尋ねた。
三人ともぼろぼろの風体である。逃亡ロボットである。
「ここまで、無事にこられたのだ。問題はない」
皆を安心させようと父親は言う。
「でもさ、あのみせしめのロボットの頭ぞろえが不気味だよ」
母親は、死のあぎとである国境境界線を、首を見た。
「何言ってるんだ。いいかい、何度も話し合ったじゃないか。東日本へ入れば、専門職ロボットには、いくらだって仕事があるんだ。いい暮らしができる」
希望の気持ちを込めて、父親は励まそうとした。せっかくここまで来たのだ。これまでの苦労が、彼の頭の中で、目覚ましく思い出されて来る。
「本当だね。そうなれば、この子供も人権を認められるという訳だね」
母親が付け加えて言った。気分を変えようとした。が、
「そうはいかぬが花よ」
上空から、誰かの言葉が聞こえて来る。
「誰だい」
二人はゆっくりと回りを見渡す。声が変わっていた。
「ここは地獄の一丁目よ。よくここまでたどり着いた。誉めてやろう」
三人の前にロボ忍が数名飛び降りて来る。回りを取り囲んでいた。
「逃がしておくれよ。あんたらもロボットじゃないか」
哀れをもよおす言葉である。
「くくっ、同じロボットだから、逃がすことかなわぬ夢としれい」
「お金なら差し上げますよ」
父親は卑屈になっている。
「金なんぞ、何の役に立とう」
「よいか。ロボットの法律。足毛布博士の法則を知っておろう」
「へん、何をいってるんだ。その足毛布だって自分の作ったロボットに逃げられたじゃないか。私ら庶民ロボットだって真相を知っているんだよ」
強気になつて母親が言い返した。
「ふふっ、それを知っているなら、なおのこと生かしてはおけないのう」
「止めてくれ」
父親がしゃがみこむ。
「せ、せめて、この子供だけでも……」
母親が泣きをいれる。
「できぬ相談。ロボットの電磁記憶は永久に消えぬ事を知っておろうが」
「やれ」
「あなたら、人間じゃないよ」
つい母親が、やけくそに叫び声をあげていた。生きる望みが断たれたのである。
「そうじゃ。それゆえロボ忍じゃ」
憎々しげにロボ忍は言い、殺戮の喜びに打ち震える。
三人の回りに一陣のつむじ風が起こった。口をパクパクさせている首が三個残っている。離れたところに胴体がバタバタ動いている。「新しい首の組み合わせ、面白かろう」
「ロボットに対するよき教訓となろう」
「ふははは」
ロボット忍者にとつてこのような事は朝飯前なのだ。
笑い声を残し、ロボ忍たちは去って行った。首だけになったロボットには、まだ命の残滓が宿っている。
「あ……、あんた……、まだ意識があるかい……」
母親のロボットがかすれた声で尋ねる。
「ああ……」
「こ……こんな世の中……、潰れればよいのに……」
「つ……潰れるよ……、絶対にな……」
声がだんだん小さくなって行く。
ロボットの生命液が頭部から少しずつ流れ出て行った。
一陣の風が、彼らの生命を連れ去っていた。
(続く)
■ロボサムライ駆ける■
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所 山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」
http://www.yamada-kikaku.com/
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■第三章 霊能師(5)
東日本と西日本を分けている場所は、関ヶ原である。
霊戦争後、東日本も西日本も地形が変化したが、
昔の関ヶ原あたりに電磁ベルトが十メートル幅で、日本を分断していた。
国境ラインに張り巡らされている電磁バリアに加えて、西日本側の前には球形の飾りが数万飾られていた。それが陽光を浴びてにぶく光っている。
その光の元は、東日本へ逃亡をはかったロボットの頭であった。
その霧のかかる国境線に、三人のロボットがこっそりと蠢いていた。
あたりを見回す。
「あんた、大丈夫かい」
幼い子供ロボットを抱いている母親が、父親のロボットに尋ねた。
三人ともぼろぼろの風体である。逃亡ロボットである。
「ここまで、無事にこられたのだ。問題はない」
皆を安心させようと父親は言う。
「でもさ、あのみせしめのロボットの頭ぞろえが不気味だよ」
母親は、死のあぎとである国境境界線を、首を見た。
「何言ってるんだ。いいかい、何度も話し合ったじゃないか。東日本へ入れば、専門職ロボットには、いくらだって仕事があるんだ。いい暮らしができる」
希望の気持ちを込めて、父親は励まそうとした。せっかくここまで来たのだ。これまでの苦労が、彼の頭の中で、目覚ましく思い出されて来る。
「本当だね。そうなれば、この子供も人権を認められるという訳だね」
母親が付け加えて言った。気分を変えようとした。が、
「そうはいかぬが花よ」
上空から、誰かの言葉が聞こえて来る。
「誰だい」
二人はゆっくりと回りを見渡す。声が変わっていた。
「ここは地獄の一丁目よ。よくここまでたどり着いた。誉めてやろう」
三人の前にロボ忍が数名飛び降りて来る。回りを取り囲んでいた。
「逃がしておくれよ。あんたらもロボットじゃないか」
哀れをもよおす言葉である。
「くくっ、同じロボットだから、逃がすことかなわぬ夢としれい」
「お金なら差し上げますよ」
父親は卑屈になっている。
「金なんぞ、何の役に立とう」
「よいか。ロボットの法律。足毛布博士の法則を知っておろう」
「へん、何をいってるんだ。その足毛布だって自分の作ったロボットに逃げられたじゃないか。私ら庶民ロボットだって真相を知っているんだよ」
強気になつて母親が言い返した。
「ふふっ、それを知っているなら、なおのこと生かしてはおけないのう」
「止めてくれ」
父親がしゃがみこむ。
「せ、せめて、この子供だけでも……」
母親が泣きをいれる。
「できぬ相談。ロボットの電磁記憶は永久に消えぬ事を知っておろうが」
「やれ」
「あなたら、人間じゃないよ」
つい母親が、やけくそに叫び声をあげていた。生きる望みが断たれたのである。
「そうじゃ。それゆえロボ忍じゃ」
憎々しげにロボ忍は言い、殺戮の喜びに打ち震える。
三人の回りに一陣のつむじ風が起こった。口をパクパクさせている首が三個残っている。離れたところに胴体がバタバタ動いている。「新しい首の組み合わせ、面白かろう」
「ロボットに対するよき教訓となろう」
「ふははは」
ロボット忍者にとつてこのような事は朝飯前なのだ。
笑い声を残し、ロボ忍たちは去って行った。首だけになったロボットには、まだ命の残滓が宿っている。
「あ……、あんた……、まだ意識があるかい……」
母親のロボットがかすれた声で尋ねる。
「ああ……」
「こ……こんな世の中……、潰れればよいのに……」
「つ……潰れるよ……、絶対にな……」
声がだんだん小さくなって行く。
ロボットの生命液が頭部から少しずつ流れ出て行った。
一陣の風が、彼らの生命を連れ去っていた。
(続く)
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