新人類戦記 第三章 聖域 第1回
作 （１９８０年作品）飛鳥京香（C）飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/
（アメリカとソビエトの冷戦時代の話です）
南西アフリカ、大きな港町の１つポート・モレスビーの町は
雨に煙っていた。
この町にしてはめずらしい雨だった。西か
ら吹いてくる季節風が雨を運んできていた。
南西アフリカにあるイギリス領の小さ々港
町は嘆きの港でもあった。アフリカの血が流
れていた。この港から数百年の間、金、象牙
奴隷がヨーロッパヘ、アメリカへ流れでてい
た。現在では、隣国ビサゴスが革命でゆれて
いた。
そのためこの港に武器商人がハイエナ
のように集まってきているのだ。
しかし、世界中のあらゆる港町と同じよう
々臭いがしている。潮の匂い、船底塗料、澄青
の匂い、そして汚物の臭いだった。
今日の驟雨がそれらを洗い流そうとしてい
た。
町はずれのパーに一人の男がヨットーパー
カーからしずくをたらしながら入っていく。
「ボセイドン」と書かれた看板がゆれている。
中は世界中の言葉のごった煮であった。
そのさびしげな目をした男はレインハット
とパーカーをぬぎ、中にいる男達を品定め
しているようだった。
パーカーからはまだ水滴が滴り落ちて床を
濡らしている。
「こっちだ、こっちだ、ムッシュー陳（チェ
ン）！」
ひげだらけの老人が手をのぱして叫んでい
る。男はゆっくりとその老人の卓へと歩んだ。
「まあ、すわり攻。ところで酒は何にする」
男は酒の名を口にした。老人の両耳はつぶ
れている。昔やったボクシングのなごりだ。
「ムッシュー陳、あなたは中国人だろう。ど
この出身かな。上海なら、私も昔行ったこと
がある。戦争前だ。あの頃はフランス租界が
あったからね。知っているだろう」
陳と呼ばれた痩身の男は岫舌な老人の話を
受けようとはしなかった。男は30才中頃とや
ったところか。しかし男の顔に刻みこまれた
しわは男の過去が過酷であったことを物語っ
ていた。
一
「あまり、話はしたくないようだね」
フランス人の老人は失望してつぶやいた。
陳はうなずく。
「それじゃ、なぜ、あんたがアコンカグワ
に行きたいのか話したくもないわけだね」
中国人はそのフランス人をにらみつけ言っ
た。
「ムッシュー・トルワイユ。あまり私は個人的
な質問には答えたくはないんだ。とにかく、
我々をアコンカグワまで運んでほしい」
「我々だって？」
「そう、二人だ」
トルワイユは少し考え込んでいた。
「二人とは聞いていなかったぜ。アコンカグワ
まで二人。こりや、大金が必要になるぜ」
「わかっている。金はいくらでも払おう。そ
ういう約束だからね」
「あんた、今のビサゴスの情勢をどれほど知
っているのかね。自由港ポートーモレスビー
には武器商人が集まってきている。ソ連船も
大勢来てるんだ。最新兵器とキューバ義勇軍
を積んでな。今、隣国ビサゴスは大揺れ々ん
だ。西側のバックアップを受けたボグラ政府
とソ連の支援を受けた解放戦線が交戦中だ。
あんたの行こうとしているアコンカグワ
は今、戦闘状態にある地帯、つまりジョバ川
をつっきっていく。
それにアコンカグワについてどれだけ知
っているのかね。あそこは悪魔の山として
ビサゴスのどんな種族も行くのを いやがる所だ。
「イアテ族が住んでいるが、極めて没交渉的
で好戦的な種族だぜ」
だまっていた陳が口をはさんだ。
「悪魔の山か。しかし超古代に作られた都市
群だといううわさを聞いたことがある」
新人類戦記 第三章 聖域 第1回
作 （１９８０年作品）飛鳥京香（C）飛鳥京香・山田企画事務所
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（アメリカとソビエトの冷戦時代の話です）
