封印惑星(ハーモナイザー02)第2回●
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
山田企画事務所http://www.yamada-kikaku.com/
新機類、ユニコーン、ルウ502はどこまでも拡がる鉄表の上を四つの足で駆っている。
眼の前に拡がるのは鋼鉄の荒野。
いや荒野と呼ぶのさえ、不適当だろう。
つるりとした冷たい鉄で被われていた。
ルウ502の生体機能は充分に活性化していた。
活発に働いている内臓機構や機械筋肉がルウ502に快い気分を与えていた。
荒野から絆が生え出ていて、それは上空に消えている。
大球と小球を結ぶコード。がそれだ。
衛星、小球に存在する生命球が、ルウ502たち、新機類に命令を授けているのだ。まさに、天の糸である。
大球、つまり鉄の表面を疾駆するルウ502は、
『ああ、俺は生きている。駆けている』
そんな充実感があった。
が、ルウ502の顔にあたる空気流が急に温かくきり、かまけに生体液のすえた臭いがした。
『うっ、この臭いは』
その時、生命球から『ゴーストトレインが出現した』という情報が入力さ
れた。
ああ、なんという連絡なんだ。そんな連絡などなけれぱ、ルウ502はず
っと快適に走れていたのに。
急に走るのがおっくうになる。
ゴーストトレイン。
この「生物的な動きをする一連の機関車・列車群」は、あるいは幻想かもしれなかった。
というのは、ゴーストトレインが実際に走っている姿を見たルウ502の仲間はいない。
とにかくそいつはレールもないこの鉄表面を自在に走り廻り、ルウ502たちの仲間をひき殺しているという。
前方に仲間の新機類たちが集まっているのが見えた。
ルウ502はどうやら目的地についたようだ。
犠牲者はルウ300たった。
首がへんに左角度に折れ曲がり、角は抜きとられていた。
腹腔が無惨に破られ、内臓機械がはみてていた。
ゴーストトレインはルウたち斯様類をくいちぎり、内臓をくらうという。
それも情報回路が集積されている心臓部分を。
ルウ502は身震いをした。
不快感から全身の汗腺穴が収縮した。が、冷静に観察しなければならない。
ルウ300の赤外線アイが色相変化している。かわり果てた姿としかいい
ようがない体。
角からコードがはみでているのも、物悲しい。
一番大切な角。
この角で、ルウ502達は衛星、小球にある「生命球」へ連絡をとっているのだ。
収集した現場データをルウ502は生命球へと送った。
しばらくして、ルウ502達全員に、生命球から命令が下った。
『ゴーストトレインの存在を確かめよ』
新機類たちは四方八方へ飛び出した。
ルウ502も無限に拡がる鉄表の上を、つめが生えた節足で駆ける。 ,
二、三クロノタイム走っただろうか。
平原にはまるで変化はなかった。
ルウ502は急に停止する。
角が感応する。何かが存在する。
が、この鉄表上には何者も存在するはずがない事を、ルウ502は理解していた。
何しろ、この「大球」、つまり巨大な鉄の球の表上では、ルウ502たち、新機類しか生存していないのだから。
が、何かが反応していた。そいつは今、動いてはいない。
ルウ502の数m前の鉄表が白熱していた。
白熱部分にルウ502はゆっくりと焉ついていく。
そいつは白熱部分の中から姿を見せていた。
自分の赤外線アイがこわれたのてはないか。
ルウ502はそう思った。
なぜなら、そいつはルウ502とうり二つなのだ。
が、体の中に機械が存在しない。かまけに、そいつの上には別種の醜い生物が乗っていた。
ルウ502達断機類とはまったく異なる存在だった。こんな生命体がいる
とは信じがたい。
醜い生合体が、ルウ502にそっくりな生命体に音を使って意志を告げていた。ルウ502はその空気振動を解析した。音はこういう意味らしい。
『さあ、ユニコーーン、私、北の詩人と行こう。旅行しょうじゃないか。この大球をね』
どうやら、そいつは、微笑んでいるようだ。つまりルウ502に対して、友好的な態度を見せているのだ。
驚きの連続でルウ502は一所に静止していた。
それゆえ、急激に接近してくる別の物体に全く気づかなかった。
一瞬、ルウ502の体は、巨大な物体にふき飛ばされていた。
ルウ502の赤外線アイは二本の光帯を一瞬見た。
ゴーストトレインだった。
ルウ502の生命光が消えるのと同時に、20メートルもの体長のゴーストトレインはかま首をもたげ、愕を開け、ルウ502の腹腔を喰い破り、心臓をむしゃぶり始めた。
ゴーストトレインの顔は、うれしそうに笑っている。
おいしいのだ。ルウ502の体が。
ゴーストトレインの先頭部に口となっていて、ぼろぼろと、ルウ502の内臓のあたる、機械部品が転がり出てくる。
「大球」から遠く離れて存在する「小球」。
その「小球」中心部に機械パネルで被われた生命球が存在していた。
生命球はハーモナイザーの分身であり、また監視機類の元締であった。
生命球は大昔、ハーモナイザによって、小球に組み込まれ、新機類を生みはぐくんできた。
■
生命球は、ルウ502の最後に送ってきた映像を分析していた。
なぜ、新機知しか存在しないはずの鉄表に、生命体がいたのか。
それにあの白熱は何を意味するのだろうか。
『まさか、天宮がめざめたのては』
何かが大球の中でかこっている。ハーモナイザーによって、大昔、「封印された大球」の中で。
その頃、大球と小球をつなぐ絆に,変化がおこっていた。
蘇った機械共生体「天宮」が神経糸を張りめぐらそうとしていたのだ。
生命球は、大球上の、すべての新機類を呼びだしてみた。ゴーストトレインを捜索中のはずだ。
が、どこ個体からも、応答がまったくない。
こんな事は今までになかった。生命球が始めて感じたパニックだった。
生命球は自らの体を移動し、バリヤーヘ逃げ込もうとした。
が、パリヤーは生命球を包み込むと、収斂した。
『これは、どういう事だ』
バリヤーは生命球の意図に反して作動している。すでに、天宮の「神経
糸」が小球へ侵入していた。
生命球はバリヤーにからみとられ、動けない。表面パネルが音をたて
て吹き飛び、各部位がめり込んだ。
数秒後、「生命球」は圧力に抗しきれずづフパラにはじき飛んだ。
生命球は消滅する時、信号を発する事が自分自身の存在理由であったことを
理解していた。
やがて、生命球の破片を天宮の神経糸がつかまえた。
いまや大球と小球は完全に、機械共生体の支配下にはいっていた。
それは天宮が一つの運命の道を歩み始めたことを意味した。
■
大球上では、醜い生合体がゴーストトレインに言った。
「おいおい、僕の乗り物を奪うんじゃないって」
「北の詩人よ。では、新しいユニコーンを再生してやろうか」
ユニットコードナンバー 16589
ユニットタイトル 北の詩人
ユニットコードナンバー 836250
ユニットタイトル 幽霊列車
ユニットコードナンバー 386574
ユニットタイドル ユニコーンの旅
彼らは、、
機械群の共生体「天宮」のイメージコーダーが
作り出した創造物であった。
(続く)
●封印惑星(ハーモナイザー02)第2回●(1987年作品)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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