![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/40/a8/c3f53eedaf24bdea382f67bd8bf53e37.jpg)
「洪水」ガーディアンルポ03第2回■(1979年作品)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/
http://ameblo.jp/yamadabook/
■「洪水」ガーディアンルポ03第2回■
「フネ」は大洋を漂っていた。
陸地と呼べるものは存在しなかった。
生物は海の中に生息していた。海はどこまても青く、広がっている。
地球は大洋といってよかった。地球イコール水球だ。
「フネ」は地球上を巡航し、「真人」を見つけだし、回収し保護することを自分の目的と
考えていた。「真人」、誠の地球人類である。
フネは大いなる昔、何者かによって造りだされ、海に送りだされた。
フネの記憶回路はそう告げていた。
「シュクセイキ」が地球にとって通い昔となった時、人類の影はなかった。
シュクセイキ。
人類はなぎ倒され、多くの者は苦痛の中で、のたうち死んでいき、わずかに残った者はその体の染色体に異常
を受け、入間の形態をとらぬ生物へと変化をしていった。
人間の遺伝子をより濃厚に持つ真人を捜し出すことは、無限とも思われる能力を持つフネにとっても画題をき
わめた。
フネの側を、水棲人の一入が泳いでいた。
彼は驚く。
こんな巨大なものが世の中に存在していたとは。
その巨大さは彼の理解力を越えている。
水棲人は近づくこともなく、フネを見ていた。
今夜、彼の集落は、この話でもちきりになるだろうし、彼は中心的役割を果たすことになる。
フネに出会うことはめったに次い。
その千載一遇の機会に彼はでくわしたのだ。彼の子々孫々にこの語は語りつがれるだろう。
フネは乳白色をしていた。底部は卵形をしている。中央は塔のような突起物が見えた。
船の外周から中心部へとながらかな曲線で頂点部へともり上っている。
フネは、だから海からひときわ高く空へ向けそそり立つ棒のようにも見えた。
窓と呼べるものはない。全表面はすべすべして光り輝き、つなぎ目も
まったく存在しない。
が、フネは意志をもっていた。その意志はある目的遂行のため。
ム=ウムは、水棲人一族の者と共に狩りに精を出していた。ム=ウムのエラから泡が立ち登っている。
ムの一族は水棲人で、体全身はうろこで被われ、海の中を自在に泳ぎ、自分達の世界としていた。
狩りの獲物はまた、変貌した魚類であった。魚類は巨大になり強力な力を手にしていた。
かつて陸上で我が世の春を謳歌していた肉禽獣のごとく、彼ら魚類は力強ぐ柔軟な体躯を自分のものとしていた。
大昔、アフリカ人達が、白身の持てる智力と体力でライオンや豹と対峙していた様に、水棲人達は魚類と闘っ
ているのだった。
今日の獲物は飛切上等の「グル」だ。何にちも部族が食べる事ができるこの時代のくじらだ。
ム=ウムの仲間達はもう小一時間も奴を追いかけていて、薙ぎ倒そうとしていた。
手にしているモリは唯一の武器。ム=ウムたちは集団戦法を得意としている。グルに一人で立向かうとす奴は生
まれながらのパカなのだ。ダルにかかって何人の仲間が死んでいったろう。グルの愕は昔のサメの伺倍もあった。
グルもかなり傷ついて、狂暴になっていた。気をつけ痙ければいけない。こんな時が一番危い。
彼らも注意力が散漫になっている。疲れているのだ。
海上から何かが落下してきた。その透明の半球状のものが、突如、水棲人達を襲ってきたのだ。
底部から突出した無数の触手を、水棲人遠にのばす。
ムは痛みを感じた。
上はく部のうろこの下から血が、わずかだが流れている。
突然の「くらげ状のもの」が襲来、彼らは呆然としたが、気をとりなかした。
攻撃の相手を今までのグルから、この半球状のものへとかえた。
しかしム遠のモリ はこいつの体には役にたたない。
その突然の出現とうって変わって、そいつは浮遊していた。
ム達はそいつにカー杯モリを叩き付けるが、跳ね返される。
そいつ「くらげ状のもの」の内部では、触手に隠されたレーザーメスで収集した皮膚細胞が分析されていた。
染色体の調査が行なわれ、フネのメイン・データセンターを通じ、チェックが行なわれていた。
再びそいつは活動を開始した。今までとは異なった動きをした。
触手を眼にもとまらぬ速さで自在に勣かし始め、水棲人を追いたて始めた。
触手は一人、ムだけ を追い求めた。
フネのメイン・コンピュータは、ムを「真人」の可能性が高いと分析したのである。
ムの体は、三本の触手によってがっちりと掴みこまれたかと思うと、その透明の内部へ収容されてしまった。
ムが、そいつの体の中に人れられる。それを見て水棲人達は総攻撃をかけた。
が、触手から激しい電気が流れる。水棲人は生まれて始めて受けた電気攻撃にかもわずたじろいた。
その瞬間、その半円球は水ヘ向かい急速に浮かび上がていった。
水棲人達は必死でそいつを追いかけたが、みるみる引き離され、やがて、そいつは見えなくなった。
「くらげ状のもの」半円球の物体はフネに引き寄せられ、フネ船底部から吸い込まれた。
ミ=ムネは、愛していたムが、そいつに連れていかれた、ショックで、水面をずっと見上げていた。
やがてみんながあきらめて集落へ帰り始める時も。
まだあきらめきれず、眺め続けている。仲間の1人がミの肩を叩いて言った。
「ミ=ムネ、残念だが、あきらめるんだ。もうム=ウムは帰ってこないぞ、いつまでまってもな」
ミはそれに答えなかった。長はじっとミを見守っていたが、やがて皆の方へと泳いていった。
「ミ=ムネ、いいか、早く帰ってくるんだぞ。このあたりは危険だからな」
と心配しながら。
ミ=ムネはうなだれて、近くの岩棚に腰かけてム=ウムの事を考え始めた。
■(続く)
「洪水」ガーディアンルポ03(1979年作品)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/