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源義経黄金伝説■第27回★

2017年09月18日 | 源義経黄金伝説

源義経黄金伝説■第27回★
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
Manga Agency山田企画事務所

西行はその平泉東稲山の、京都東山の桜に似た風景を愛でた。
「変わってしまったのは、我らのほうです。西行殿、自然はこの後千年も二
千年も桜の花を咲かせましょう。が、我々の桜はもう散ってしまったのです」

「何を寂しいことを申される、秀衡殿。平泉という桜も今は盛りに咲
いておるではございませんか」

「しかし、西行殿。平泉という桜は、いずれ、散ってしまおう」
「西行殿だからこそ、話もいたしましょう。この陸奥の黄金郷、末永く続け
たく思っておるが、悩むのは、私がなくなった後のこと」
「なくなるとは、また不吉な」

「いやいや、私も齢六十七。後のことを考ておかねばなりません。六年前ま
でおられた義経殿を、ゆくゆくはこの我が領地の主としようと画策致しまし
たが、我が子の清衡は、いかんせん、私の言うことを聞きそうにありませぬ」
「ましてや、義経殿が、この奥州を目指していられるとの風聞もある由、そ
うなれば鎌倉殿と一戦交えねばなりますまい」

「西行殿、再び、平泉全土をご覧になってはどうじゃ。この平泉王国、けっ
して都に引けは取りますまい。この近在より取れる沙金、また京の馬より良
いと言われる東北の馬が十七万騎。いかに頼朝殿とて、戦火を交えること、
いささか考えましょうぞ。そこで西行殿、ご相談じゃ。この秀衡、すでに朝
廷より大将軍の称号をいただいておる。加えて、天皇の御子をこの平泉に遣
わしていただきたい」

「何、天皇の御子を平泉に…」

「さようじゃ。恐らく、西行殿も同じことをお考えになっておられるに相違
ない。この平泉、名実ともに第二の京都といたしたいのです。今、京の荒れ
ようは保元事変以来、かなりの酷さと聞き及びます。どうぞ、御子をはじめ
公家の方々、この陸奥ではあるが、由緒正しき仏教王国平泉へ来てくださる
ようにお願いいたす。秀衡この命にかえましてお守り申しそう」

 平泉を第二の京都に、その考えは後白河法皇も考えていたのである。が法
皇はそれにある神社を付け加えたいと考えていた。保元の乱にかかわったあ
の方。そして西行もかかわったあのかた。
崇徳上皇である。

京都は霊的都市である。京都を建設した桓武は怨霊の祟りを封じ込める方策を
した。当時の最新科学、風水、陰陽道である。東北にあたる鬼門には、比叡
山を置き、西北には神護寺がある。文覚の寺である。

またその対角線には坂之上田村麻呂を意味した将軍塚をおいた。将軍塚は東北征伐を意味する。
坂之上田村麻呂が征服した東北、鬼門が奥州である。奥州平泉に比叡山にあ
たる神社をおけばよい。そうしれば、後白川は、京都朝廷は崇徳の祟りから
防衛できる。そう考えていた。

西行は、「しきしま道」すなわち言葉遣い士、言う言葉に霊力があり、西行
が歌う言葉に一種霊的な力があるとした。和歌、言葉による霊力で日本を守ろ
うとし、西行を始めとする歌人を周回させている。

西行はその意味で歌という言霊を使う当時の最新科学者。言葉遣い士である。
西行は、それゆえ歴史に書かれてその名が残るように行動した。現世よりも
死後歴史著述にその名が残るように行動した。そういう形で西行の名が不滅
であるようにした。

西行の行動様式こそが歌人の証明であった。いわば祝詞という目出度い言葉を口にさせで、目出度い状況をつくりあげるのだ。万葉集という詩華集以来、日本は
世界最大の言霊のたゆとう国である。

平泉を第2の京都には、実質は奥州藤原氏によって立ち上げられている。後
は祭事行為をどこまで、認めるかである。

「秀衡殿、そうならば、鎌倉の頼朝殿の攻撃から逃れられるとお考えか」
「甘いとお考えかもしれぬ。しかし、我が子泰衡の動き、考え方などを見る
につけても、泰衡一人で、この陸奥王国を支配し、永続させていく力はござ
いません」
「が、義経殿がおられましょう」
「義経殿は、いまだ、どこにおわすか」

「秀衡殿、お隠しめされるな」西行は語気強くいった。
「何と…」秀衡は慌てていた。
「すでに義経殿は、秀衡殿の手に保護されておられるのではないか」
西行は疑う様子が見える。

「何を証拠に…」
慌てる秀衡に対して、西行は元の表情に戻っている。
「いえいえ、今の一言、この老人のざれ言、気になさらずとも良しゅうございます。もし義経殿がおられるとしたらどうするおつもりかな」

「そうよ、それ、もしおられるとすれば…。西行殿もご存じのように、津軽
十三湊とさみなと、我が支配にあることご承知でしょう」
「知っております」

そうか、その方法があったのかと西行は思った。海上の道である。

「あの十三湊は、大陸との交易につこうています。今、大陸では、平清盛殿のお
りとは違って、宋の力も落ちているとのこと。もし鎌倉殿の追及が激しけれ
ば、義経主従、かの国に渡っていただこうと思っております」

「おお…、それはよき考え」
「つまり、義経殿は、この日の本からいなくなるという。それで頼朝殿から
の追及を逃れる。加えて法皇様の力で、この平泉政庁を第二の京都御所にし
とうございます。そうすれば、この平泉仏教王国は、京都の背景を受け安泰
でござる。そのためにはぜひとも…」

秀衡は砂金を使い、砂金をそれこそ、金の城壁にして平泉を守ろうとしてい
る。

京都はそれできくだろう、
が、鎌倉は、頼朝殿は、そうはいくまい。
西行は思った。
源頼朝は、源氏の長者は、その金そのものがほしいのだから。
「その東大寺の沙金、そうした意味の使い方もございますか」
「さようです。無論、東大寺の、重源殿に渡していただければ結構。
しかしそれがすべてではございまぬ。どうぞ、後白河法皇様にこの秀衡
の話を、取り次いでいただけませぬか」

「わかりました。この西行がこの老いの身をおして、再び平泉の地を訪れ
たのも、この極楽郷、平泉の地がいかがなるかと気に致してのこと。秀衡殿、
この地、永遠に残したいという思いあればこそ、二ヵ月もかけて、この陸奥
の地を踏みました。よくお受けくださいました。法皇様も喜ばれるこ
とでございましょう」

西行の思いは半ば成立している。

崇徳上皇様、法王様、喜び下されい。これで少しは鎌倉殿の勢力を
押さえる事が可能かも知れない。

西行は四国の寒々した崇徳上皇綾を思った。

同じ寒さでも、ここは、崇徳上皇様にとって暖かかろう。
西行は、この平泉平和郷を守りとうしたかった。

ここでなら、西行の守る西国王朝、京都の言葉の武器「しきしま」道も守
れるかもしれん。


平泉の衣川べりの高い台地に、新しい館が建っている。高館たかだて
と平泉に住むものどもは呼んでいる。 館の下を二人の雑色がとうりかか
り、館を見上げる。

「おお、あれはどなた様のお館なのだ」
「お前、知らぬのか。あれは高館御所。義経様と郎党の方々が住んでおられ
る」
「おお、あの義経殿か。それでもお館様の伽羅御所に比べれば、小さいのう

「まあ、これは俺が聞いた話だが、泰衡様が、義経様に対して、あまりよ
い顔をなさってはおられぬ」
「なぜだ」
「それは、お前。秀衡様は、我が子泰衡様より義経様をかっておられるから
だよ」

続く201208改訂
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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