新人類戦記第二章 脱出 第7回
作 (1980年作品)飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/
(アメリカとソビエトの冷戦時代の話です)
米国ワシントンの大統領を含む閣僚会議だった。
「超能力者のエージェントだと」
「彼は、東郷竜と一緒に戦略心理研究所を第一期生として、訓練された人間です。彼は竜を知悉しています」
「わかった。国防長官、君にまかせよう。そしてもし、超能力戦士が全員生きているとする
ならば、彼らを狩り出し抹殺する。こちら側の超能力戦士を再び早急に養成したまえ)
「わかりました」
■一人の男がデユーク大学の研究所から国防省ペンタゴンヘ呼び寄せられた。一週間後、ニューヨークケネデイー空港からマレーシアのクアラルンプール空港へ飛び立ったスーパージャンボ機ボーイング七四七の中にその男の顔が見られた。
男はレイバンのサングラス、ブルック・ブラザーズのスリー・ピースで身をかためている。
「デューク・島井さんじゃありませんか」
飛行機内の化粧室へ行くために通路を歩いていた一人のアメリカ人が、話しかけた。
「これはめずらしいところでお目にかかりましたね。何かマレーシアで超心理学の研究会
でもあるのですか」
赤ら顔のアメリカ人は人なつこそうに話しかける。
「ええ、まあ、そのようなものですが、ところであなたは」
「もちろん、ビジネスの方でしてね。マレーシア・サラワクの
方で商談があるんですよ」
となりがあいていたのでその男はすわりこんで話しだした。
デューク・島井はこのアメリカ人と話しこんでいる間に、鳥肌が立つのをかぼえた。この
鳥肌が立つということは、危険が迫っているということなのだ。
そういえば、先刻、チューワーデスのあとについて一人のアラブ系の男が操縦席の方へ歩いていくのを見た。ほりの深い、どことなくかげのある男だった。
そのアラブ系の男はスチューワーデスの意志をあやつり操縦席のドアを開さ
せたのだ。パイロットが振りかえる。一人の長身の男か腕を組み立っていた。
「君は何者だ」
男はうむをいわせ座かった。パイロット、 副操縦士、機関士、無線士の
四名の人間が、その男の意志に従わされた。
男は肉体的には手だし一つしなかった。
「よし、しゃぺれ」
男はパイロットに命令し、機長は機内マイクを入れた。
「乗客の皆さん、お知らせします。この機はPLO(パレスチナ解放戦線)によってハイ
ジャックされました。乗客の皆さま、静かに彼らの命令に従って下さい」
どよめきがおこった。何事だこれはという不満の声であった。
「何を言っていやがる」
屈強な壮年の男が操縦席の方へ駆けていぐ。
二人の男が座席から立ちあがり、立ちふさがる。
「我々PLOの命令に征いたまえ」
「何だと」
最初の男は二人が武器をもっていないのを見て、押しのけてつっきろうとする。
しかしデューク・島井は見た。
二人の手に何もない空間から分子が集積し、形をとり始め、一個の銃機が突如出現したの
を。 彼らも超能力者なのだ。
その銃はイングラムM10。全長はわずか四十四、四m、拳銃なみの大きさなのだが、れ
っきとしたサブマシンガンMAC10の愛称で人気のマシンガンなのだ。 飛びかかろうとした男はすくみふるえあがった。男は頭をなぐりつけられた。
空港の厳重チェックなどまったく役に立だないのだ。彼ら超能力者は手のひらに何も
ないところから銃を出現させたのだ。
最近、世界ではあまりハイジャック事件はおこっていない。世界で最初のハイジャック
は一九三〇年に爾米のペルーで起っている。記録に残っている最も古いハイジャックは一九四八年
六月十六日のマカオでかこった。キャセイ航空の「ミスーマカオ」号が乗っ取られたが、
飛行士達がハイジャッカーにピストルを向けたために飛行機は墜落した。生存者はたった
の一人だけ。その一人はハイジャッカーの首領だった。
彼らの目的は何だろうとデューク・島井は考える。彼らはあきらかにエスパー集団だ。で超能力戦士
部隊以外に彼らのような秀れた超能力集団が存在していたのだ。
デューク・島井はしかし、彼らのおつきあいをして、アラブ諸国へ連れていかれるつもりはない。
何よりも彼には時間が大切だった。
デューク・島井はすっぐと立ちあがろうとした。となりの男がとめようとしたが、手を振りほどく。
ハイジャッカーの方へ向かっていく。
「やめておけ」
デューク・島井は二人のハイジャッカー、ガリルとハイムイムにテレパシーで叫びかけた。
二人に驚きの表情があらわれた。
「こいつも超能力者か」
「そうだ。君ら以上の超能力者だ」
若いハイムは思わず インダラムの引金をひきしぼっていた。
「やめろ」
ガリルは静止しようとした。
銃口から発射された弾丸はデューク・島井の胸に直進
したが、デューク・島井の体の直前で勢いを失ない、ポ
ロポロとデューク・島井の足もとへ落下した。
「くそっ」
ハイムは鋭い精神衝撃波をデューク・島井に投げつけ
た。しかしデューク・島井は動じない。普通の人間な
ら吹きとび気を失う。
デューク・島井から逆にハイムイムヘ衝撃波が投げ与えら
れる。かろうじてハイムは耐え、座席にたたきつけられた。
ガリルはそれを見て、彼も戦列に加わった。
ハイムとガリルは二人で力を合せて衝撃波
をデューク・島井にはなった。それとデューク・島井が二人に向か
い衝撃波を送ったのが同時だった。
二つの強力な衝撃波は衝突し、恐ろしい振動を機体にあたえた。
スーパージャンボの横腹がひぴ割れ、爆発がおこったように感じた。瞬間、中央右横側
の窓周辺が吹きとんだ。
窓際にすわっていた二十人があっという間に機外へ吸い出される。ハイジャッカーの
ハイムイムとガリルも機外へ吹きとぱされた。
まわりにあったコーヒ、新聞、雑誌、小荷物、が見る間に機外へ
と投げ出された。デューク・島井はその瞬間、テレポートを行い、安全圏へのがれていた。
恐るべき
吸引力であった。
もちろん飛行機も。バランスを失なう。
首領格の男ダレルは操縦席ドアの窓からのぞき、島井の姿を見て、もはやこれまでと思った。i
だ後しまつがある。ダレルの意志に従がわせていた四名の飛行士の頭脳を精神力でズタズ
タに粉砕した。四人は叫び声をあげる間もなく即死する。
さらに彼は操縦席内の機器を壊わし始めた。
高度が急激にさがり始める。
眼下には太平洋がひろがっていた。
デューク・島井は席につかまりながら操縦席へと歩み出す。
ようやく前部座席に辿り着いた時、操縦席のドアが開き、首領のダレルが飛び出
して来た。ダレルはデューク・島井の頭脳も精神波でズタズタにしようとしたが、ダメだった。
逆にデューク・島井が衝撃波を送ろうとしていた。彼は姿を
消していた。テレポートしたようだ。
ボーイング七四七は落下を続けている。島井は冷汗を流しながらおのれの持てる超能力を使
い、尽そうとしていた。
島井は念動力で二九九トンのジェット旅客機を持ちあげようとしている。
落下速度が徐々に落ちてきた。 やがてボーイング七四七は空間に停止した。
ちょうど近海をアメリカ第七艦隊が遊戈していた。
第七艦隊の段とんどの将兵がこのありさまを目撃していた。全員が息をひそめこの々りy
ゆきを見守っていた。しかしボーイングが突如空間で停止した瞬間、驚きの声があがった。
まるで上から糸でつりさげられているかのようである。ふらふらゆれているのだ。
原子力空母エンタープライズ号の艦橋にいるフェアモント海軍中将の頭にあるメ″
セージが飛び込んできた。
「助けてくれ」
「君は誰だ」
「誰でもいい。現在、君達が見ているボーイング七四七の塔乗客の一人と思っていただこ
う」
「どこの馬の骨ともわからんものに協力するわけにはいかん」
『ええい、くそっ、デューク・島井という者だ大統領と国防長官に応の名前を言ってくれ。
急いでぐれ』
「わかった、早急に連絡をとってみょう」
「早くしてほしい。私の超能力・念動力だけで、このジャンボ機体に浮力と揚力を与えているのだ」
連絡将校か海将へ大統領からのメ″セージを持ってきた。デューク・島井の身もと保証である。
「最優先事項。米国政府はデューク・島井のサジェスチョンにいかなる最大級の軍の協力をおしまぬこ
とを希望する」
「デューク・島井君、君の身分と能力は大統領によって保障された。それで、私はどうすればいいのかね」
「エンタープライズ号をボーイング七四七の下に航行してきてくれ、それから今現在甲板
にでている飛行機は全部格納してぐれ」
「々んだと、それじゃ君は……」
「そうだ。君の考えている通りだ。この飛行機ボーイング七四七を空母上にのせる。それしか方
法がない。いかなる私といえどもこのジャンボをもよりの島までもっていく能力は有して
はいない」
やがて怪島のごとき、それも傷つき、羽折れた巨鳥ボーイングが、巣々らぬ、現代科学
の枠、原子力空母エンタープライズ号の上に降下し、生き残った乗客達は助けら
れた。
エンタープライズ号。船体分類番号CVA65。
アメリカ海軍が全世界に誇る世界最大の原力空母である。
満載排水量は八万五三五〇トン。戦艦大和を一万トン以上も凌ぐ巨大さである。飛行甲
板の全長は約三四三メートル。その飛行甲板の上に全長約六〇メートルのボーイング七四
七が着艦したのだ。
この事件は報道管制がひかれたが、衆目の前のことでもあり、話はあちこちにひろがっ
た。もちろんソ連KGBの耳にも。
新人類戦記第二章 脱出 第7回
作 (1980年作品)飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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