東京地下道1949■第9回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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東京地下道1949■第9回
上空から飛来した戦闘機ムスタングは、両翼の爆弾を雨を浴びせる。
ナパーム弾が地上を燃え上げる。前の太平洋戦争の折と一緒だ。多くの子供たちが空母艦載機
の機銃掃射でなくなったりふぐの体にされた。
投下しおわり、爆弾のなくなった戦闘機は、機銃弾を空からあびせはじめた。
風防からは、この殺戮を楽しむパイロットの顔がみえる。
低空飛行でつっこんでくるのだ。
ベビーギャングたち(戦争孤児達)の勝利の戦場となるべき場所は、修羅場となり、墓場となった。
機銃弾が、無機質な音で土ぼこりをあげ、地面をほりさげる度に、大地に鮮血が流れ、
しみこんでいった。
二つの双眼鏡が、ま下の光景をながめている。
小高い丘からは、この虐殺がー望のもとにみわたせる。
ロパートは思わず、叫んでいた。
「死ね。みんな死ね。お前ら、ジャップ。くず野郎はみんな死んじまえ。お前ら、ガキが
皆くたばったら、日本はアメリカの完全な領土になるんだ。なにしろ日本人がいなくなる
んだからな」
ほおにガーゼをあてたライリー大尉は、双眼鏡をおろし、傍らのロバート軍曹に言った。
「ようし ロバート。もう少し前進だ。それからスコープ付きライフルを出せ、俺たちの
楽しみはこれからだ」
彼らは、なんとか、戦闘機から逃れた少年達を今、望遠スコープの照準にとらえ、ねらい撃ちにするつもりなのだ。
●
「鉄、鉄おきて」
声がした。夢の中から聞えてくるようだ。
どうやら、俺はまた死んではいないようだな。
鉄はそう思った。
うすぼんやりした光が鉄の目をさす。
まだまだ、くらくらする。あいかわらずの米軍監獄だ。
声は床の下からかすかに聞えてくる。
それは竜の妹、恵の声だった。
「どうしたんだ。恵か」
「しっー、あまり大きな声を出さないで」
「だそうにも声はでないさ。あのロパートにえーらい目にあわされた。
それよりお前、なぜこんなところにいる」
「あなたのことが気になっていたの。あなたが、あの地図を奪ったから、どうせ進藤の店にいくと
おもったわ。米軍のジープがあなたを追いかけていくのを見たわ。
車のナンバープレートが保安部のものだったから、つかまると息ったわ。
きよう、それで保安部の独房の下へ忍びこんできたわけよ」
「よく、ここまでこれたな。昔なじみにあえるのはうれしいぜ」
「何いってるの。ふざけないで」
恵は、ほんとに怒っている。
「わかった。よし、はやくここから出してくれ。ロバートかライリーがまた来た日にや、、俺はぶっ殺れかねない」
「いい。言うことをよく聞いて。右壁から約一mのところをさぐってみて。何か印がある
でしょう。印のある床の上を思い切り踏みつけてごらんなさい」
「少し、へこんだぞ」
「そう、そこを何とか動かしてみて」
床は、鉄がひっぱると、穴が開いた。人一人くぐれる。
すばやく穴中にはいる。もと通りににする。暗闇の中に薄い光がもれている。声があった。
「どうやら、また、あえたようね」
「恵、一体この穴は」
「しつ、この上はずっと米軍保安部よ。気がつかたら、それっきるよ」
小さなろうそくを恵は持っていた。
小さな声で、
「この通路は、日本軍がトウキョウ市攻防戦の際作った地下壕の一部らしいの。
これを伝っていけぱ何とか外に出られるわ。ついてきて。鉄」
恵は先に立ち、ずんずん歩んでいく。
鉄はいためつられた体をひきずるように、光についていく。
あたりは、ゆっくりと闇がもどっていく。
●
泥滓の中で、ベビーギャングの頭、ムサシの意識がもどってきた。
同時に体がほてるように暑い。
場所の感覚がもどってきた。
顔をすこしもちあげる。
まだ少し雪まじりの雨が降っていた。
異臭がする。あたり1帯が燃えあがり、人間の形をした何かが焼け焦げていた。
体が膨らみはぜた。
(続く)
続く090901改訂
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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