義経黄金伝説■第13回★
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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桟敷の中央にいる源頼朝が、急に立ち上がった。
「あの白拍子めが。この期に及んで、ましてやわが鎌倉が舞台で、この頼朝が面前で、義経への恋歌を歌うとは、どういう心根だ。この頼朝を嘲笑しているとしか思われぬ」
頼朝は毒づいた。それは一つには、政子に対するある種の照れを含んでいる。
「よいではございませぬか。あの静の腹のありようお気付きにありませぬか」
政子はとりなそうとした。薄笑いが浮かんでいることに、頼朝は気付かぬ。
「なに、まさか義経が子を…」
「さようでございます。あの舞いは恋歌ではなく、大殿さまに、我が子を守ってほしいというなぞかけでございます」
「政子、おまえはなぜそれを……」
疑惑が、頼朝の心の中にじっくりと広がって行く。
今、このおりに頼朝に、自分の腹の内を探らせめる訳にはいかぬ。
あのたくらみが、私の命綱なのだから。政子は俯きながら黙っている。
「……」
「まあよい。広元をここへ」
頼朝の部下、門注所別当・大江広元が頼朝のもとにやってくる。
「よいか、広元。静をお前の観察下に置け。和子が生まれ、もし男の子なら
殺めよ」
[では、大殿。もし、女の子ならば、生かして置いてよろしゅうございますな」
「……それは、お前に任せる」
広元はちらりと政子の方を見ていた。
頼朝は広元と政子の、静をかばう態度に不審なものを感じている
政子は静を一眼見たときから、気に入っていた。その美貌からではなく、義経という愛人のために頑として情報を、源氏に渡さなかった。
その見事さは、一層、政子を静を好ましく感じた。
また、京の政争の中に送り込まれるべく、その許婚を殺されたばかりの、政子と頼朝の子供、大姫をも味方に取り込んでいた。
義経の行方を探索する人間は、何とか手掛かりを取ろうと静の尋問を続けた。
が、それは徒労に終わった。
尋問した武者たちも、顔には出さなかったが、この若い白拍子静の勇気を心の中では褒めたたえていた。
観客の中で、静の動静を悩む者が、もう一人。
静の母親 磯禅師いそのぜんしが、固唾を呑んでその舞いを見ていた。
裏切られた。そういう思いが心に広がっている。愛娘と思っていたが、
「あの静は、この母、禅師が苦労を無にするつもりか……」
やはり、血の繋がりが深いものは…。
この動乱の時期に女として生き残って来た者の思いが、
頭の内を目まぐるしく動かしている。
その思いは、しばらくの前のことに繋がる。
静の母禅師は、政子の方を見やった。
続く2010改訂
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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