日本人の日序章 第12回
作 (1980年作品)飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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二〇五四年 四月 アルプス要塞
アエロスペシャル・ヘリコプターはアルプスの山並みを
なめて飛行している。チューリッヒ空港からの客だった。ヘリのサ
イドにはラドクリフグループのマークがすり込まれている。
白髪というよりも銀髪と呼んだ方がいいだろう、ド=ヴァリエは
ヘリから鋭い眼で方々を観察している。
やがて、ヘリはベルデ山上にホバリングし、山腹に穴が開き、そ
の穴にヘリは飲み込まれた。
ド=ヴァリエはアルプス要塞の専用ヘリポートに立たずんでいた。
彼は今、ベルデ山の真中に立っているのだ。
情報将校が、ミニ=ヴィーグルでド=ヴァリエを迎えに来た。そ
の間、ド=ヴァリエはこのヘリポートの内部構造をしっかりと観察
している。
ド=ヴァリエはサングラスをはずし、ブレザーの胸ポケットに無
造作につっこんだ。
短かく刈り上げられた銀髪や、そのきびきびした体の動きは60歳
という年齢を感じさせないものだった。眼は猛禽類を思わせる。
「ド=ヴァリエ将軍、ラインハルト議長がスペシャルルームでお待ちです」担当
情報将校が言った。
「ごくろう。頼む」
ド=ヴァリエはその少尉のアルプス要塞についての講釈を耳にし
ながら、自分の形影から作りあげられたこの要塞のできあがりぐあ
いを細かくチェックしていた。
彼は、第二次大戦中、ナチによって、造り上げられていた
この要塞を発見し、新たなテクノロジーを持って地球最強の砦を作
りあげようとしたのだった。
もちろんこの要塞の構築にはラドクリフ企業グループの全面的な
バックアップがあり。ラインハルト議長自らが命令を下していた。
ミニ=ヴィーグルは特別室の前で止まり、若い将校はド=ヴァリ
エ将軍を降ろす。
「この部屋です。ド=ヴァリエ将軍」
「ありがとう。君のアルプス要塞の説明は簡にして要だった」
「おほめにあずかって、光栄です。将軍」
自動ドアが開き。広さ数100㎡の空間があった。その真中に、大き
なオーク材の机があり、ラインハルトと腹心になりつつあるINSファーガソンが居た。
ファーガソンはいつもながら顔色が悪い。
「やあ、ド=ヴァリエ将軍、よく来てくれた。久しぶりだ」
ラインハルトがイタリア製のエルゴデザインのチェアから立ちあ
がり、握手を求めた。
強く握りかえしてから、ド=ヴァリエは尋ねた。
「なにか、日本人共から不敵な挑戦がつきつけられたと聞いたが」
「そうなんだ、ド=ヴァリエ将軍、あいつらは、時折、我々の心を冷え
冷えとさせる。やつらは我々白色人種の理解を越えた行動をおこす。
やはり、やつら日本人は、この世界から追放すべきなんだ」
「私も同感だよ、ラインハルト。じゃ映像を見せてくれるかね」
ファーガソンがモニターのスイッチを入れる。
モニターに例の花田万頭の顔が映った。
しばらく、何度もこのテープを見ていたド=ヴァリエ将軍はライン(
ルトの方を向いた。
「ラインハルト。この映像の彼は確かに生きている人間のものか
ね」
「というと、花田の映像がCG
で、できているとでもいうのかね」
ラインハルトはド=ヴァリエの意外な質問にとまどっている。ド
=ヴ″リエはきつい緑色の眼に疑いの色を隠さず尋ねた。
「実は、この花田万頭という男、情報戦の分野では、かなり知られ
た男だった」
考え深げに言う。
「だったというと」
ファーガソンが疑問を投げかける。
「花田は確か、二〇四〇年のスリナム油田事件で爆死したはずなん
だ」
ド=ヴァリエはあごをなでた。
「爆死した。じゃ映像に映っている男は誰なんだ」
「わがらん。とにかく、花田万頭の事は世界のどこのデータベース
にも登録されていないだろう。彼は日本政府情報省のエースだった
男だ」
「でスリナム油田事件とは」
「石油コンツェルンのセブンシスターズと日本の石油会社が、油田
の占有権をめぐって武力抗争をおこした例の事件だよ」
「確か、あの事件は事故として報道されたはずですが」 ファーガソン
が口をはさんだ。
「確かに報道はそうなっていたが。この時期から、日本政府も秘密
裡にスペシャルフォース(SS)を訓練していたはずだ」
「というと、花田万頭のバ。クには」
「そうだ。旧日本政府のバックアップと、ジャップのスペシャル=
フォースの生き残りが関与していると考えていいだろう」
「わかった。裏の組織を使って、花田の資料を収集せねばならんな」
「そうすることは最善の策だろう。どんな組織、どんな個人でもウ
ィークポイント、アキレスの泣き所があるはずだ。それを押さえる
事。特にジャップのSSに関しては特殊戦のプロ集団ですし、ジャ
ップのハイテクノロジー技術で武装されているはずだから」
その時、机の上の電話がなった。
電話をとったファーガソンが言った。
「皆さんがお集まりになったようです」
「すまんが、将軍、会議に出席してくれんか。本日は、ジャップ掃
討作戦の各地方指揮官達が集まっているんだ」
「わかった。対日本人作戦の現況報告という奴だね」
「その通りだ。君にとってはいささか退屈かもしれんが」
「いやいや、そんな事はない。どんな小さな情報でも聞いておくに
こした事はない」
「それじゃ、動こう」
ラインハルトは机のボタンを押した。
スペシャル=ルーム自体がエレベーターになっていて、地下へ動
いていく。地下数百mに会議室が設けられていて、JVO(日本壊滅組織)の構成メ
ンバーが集まっている。
日本人の日序章 第12回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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