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聖水紀ーウオーター・ナイツー第8回■奴隷船の奴隷シマは、タンツ大佐だと、聖水に反抗する組織レインツリーのロイドがいう。そして地球連邦軍の軍事機密をかたれと

2020年05月18日 | 聖水紀ーウオーター・ナイツー
聖水紀ーウオーター・ナイツー 宇宙から飛来した聖水は地球の歴史を変えようとした。人類は聖水をいかに受け入れるのか?
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聖水紀ーウオーター・ナイツー第8回■奴隷船の奴隷シマは、タンツ大佐だと、聖水に反抗する組織レインツリーのロイドがいう。そして地球連邦軍の軍事機密をかたれと
 

聖水紀ーウオーター・ナイツー第8回(1976年作品)

作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所

http://www.yamada-kikaku.com/

 

 

第4章

 

奴隷船の流体、漕ぎ手である シマはようやく目ざめた。

 

水鳥はシマと、意識を失っていたベラの体をどこかに運んだようだ。

 

シマは飛行中に疲労で寝てしまったようだ。しかし、いまだに信じられなかった。自分はあのフガンとかいう聖水騎士団の男に聖水をかけられた、が消滅しなかった。

 

おまけに奴隷船での単なる歌姫だと思っていたベラが、海水を鳥に変化させた。

 

自分はその鳥に乗ったのだ。脅えが今ごろ、シマの体を震わせていた。

 

それにしてもここは。雨音が急にシマの耳に飛び込んで来る。

 

シマは何かの建物の一階にいた。バラック状の簡素な建物で、シマの目前にドアがあった。

 

 

窓からは激しい雨足が見えている。

 

ドアを開けてズブヌレの男が入ってきた。

 

男の顔はレインパーカのフードのせいではっきり見えない。

 

不安がシマの体を震えさせた。不安は人を多弁にする。

 

「あなたはどなたですか。それにここは」

 

「我々はレインツリーの人間だ」

 

その男はフードをあげながら、言った。シマが思ったより若い男だった。

 

 レインツリー、対『聖水』組織。

 

聖水紀以前の地球社会に復帰さることを目的とする組織だった。おまけに、呪術者集団。

 

「安心しろ、シマ、我々は味方だ」

 

「ここは、どこなんですか。それにベラは大丈夫なのでしょうか」

 

「レインツリーの基地のひとつだ。ここは多雨地域。聖水騎士団もなかなかちかずけまい。ベラのことは、直接本人から聞け」

 

 建物に今度は小さな人間が入ってくる。

 

フードをはずす。元気なおなじみの顔があった。

 

「シマ、大丈夫だった」奴隷船の歌姫ベラの第1声だった。

 

「君こそ、大丈夫なのか。たしか聖水を体に浴びたはずだ」

 

わずかに、安堵感がシマの体に広がっていく。

 

「わずかよ。それにこのレインツリーの基地で手当してもらったの。私の体は特別製なの」

 

傍らの男を見て歌姫ベラはしゃべった。最後の言葉に意味があるかのように。

 

「シマにはもうしゃべったの、ロイド」

 

 ロイドと呼ばれた男は首を振る。

 

「いや、まだだ。君の口からいってもらったほうがいいと思ってね」

 

 ベラはすこしの間、考えていたようだが、やがて決心したようにシマの目をみつめながらしゃべった。

 

「シマ、あなたはシマではない」

 

 シマはとまどう。悪い冗談かとも思った。

 

が、ベラの表情は、船の上の歌姫の冗長なベラのそれとは別物だった。

 

「どういう事なのかな。君は私を探っていたのか。だから、船の上の君は演技だったのか」

 

シマはわけののわからない怒りで、自分がつき動かされているのを感じた。

 

ベラは顔を赤らめて絶句する。レインツリー組織のロイドがその場を救おうとした。

 

「それはベラから答えにくいだろう。私が船にいる君を発見し、確認のためにベラを歌姫として奴隷船に潜入させたのだ」

 

 シマは考える。

 

この私がシマでないとすれば、一体私はだれなのだ。

 

ベラは私が誰だかわかっていて私に質問をしていたという。

 

このレインツリーの人間は、本来の私が何者なのか知っているわけか。

 

シマは怖かった。自分が誰か聞くことが。シマの心はちじに乱れ、叫んでいた。

 

「頼む。教えてくれ。私は誰なのだ」

 

「本当に知らないようだな」

 

男は静かに言った。

 

「君はウェーゲナー・タンツ宇宙連邦軍大佐だ。聖水が地球防衛圏を突破するのに手をかした男だ。君のために地球は聖水に汚染されたのだ」

 

ロイドの目には憎しみの炎が燃えている。

 

 ロイドの言葉はシマの心に深々とつき刺さる。

 

俺がウェーゲナー・タンツだと。地球最大の裏切り者。

 

急に過去の記憶が戻ってきて、タンツの心と胸を一杯にした。

犯罪者。

 

震えがタンツの体を襲った。いてもたっていられない。

 

思わず地面に両手両ひざをついた。タンツの体は小刻みにふるえる。汗が体じゅうから吹き出る。

 

 ロイドがひざまずき、タンツに被いかぶさるように、タンツの顔をのぞきこむ。

 

「タンツ地球連邦軍大佐。君に教えて欲しい。地球連邦軍の秘密要塞の位置を。君しか生き残っていない。宇宙連邦軍で、君しかね」

 

タンツの脳裏には、地球連邦軍の潰滅シーンが想起された。

 

「ねえ、シマ、じゃなくてタンツ大佐、お願い。教えて。覚えているはずよ。宇宙要塞ウェガの位置と要塞侵入のパスワードを」

 

「宇宙要塞ウェガが我々の切り札なんだ」

タンツは無言で震え続ける。

 

「だめよ。ロイド、タンツは堅く自分の殻に閉じこもっている。

 

病院でも、自分がタンツだと、結局最後まで認めなかったというわ。

 

今でもショック状態よ。我々の機械で治療しましょう」

 

「ベラ、時間が惜しい気がする。こんな奴に時間を与えるのがねえ」

 

 あたりが急に騒がしくなった。ロイドは建物から飛び出る。男が走ってきた。

 

聖水紀ーウオーター・ナイツー第8回(1976年作品)

作 飛鳥京香

(C)飛鳥京香・山田企画事務所http://www.yamada-kikaku.com/

 

 

 



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