ガーディアンルポ03「洪水」第4回(1979年作品)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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部屋は,白色の球形をしていた。
ム=ウムは、溶液のみたされたチューブの中で眠る。
部屋には、そのチューブ以外には何の装備もないようだった。
フネは真人の可能性の高いム=ウムを、くらげ形の収容子を通じて収集し、船の中に収容したのだ。
そして、再び、フネは新たな「真人」を求め遊戈し始めた。
ム=ウムは眠りの聞に真人であるかの再チョックを受けていた。
フネのコンピューターはそのデータ・バンクから情報をはきだし、検索機器はム=ウムの体を探査していた。
ム=ウムがチューブの中で覚醒した時、今まてかって彼が目にしたことがないものがあった。
体はムよりかなり大きく倍近くあるだろうか。
円筒形で頭部らしきものはつり鐘形をしている。全身は山吹色に輝いていた。
それに、そいつは水の中にいない。
「ム=ウムよ、目ざめましたか」
無気質な女の声が、ム=ウムの耳に響いた。
「なぜ、僕の名前を知っているの」
「私はあなたの事なら、何でも知っています。
あなたの頭脳からあなたのパーソナルヒストリーをすべて読みとりました」
「あなたは何者。それに、僕は、、何のためにこんなところにいるの」
「私の名前はゼフ。教導師です。あなたに真実を教えるのが私の役目です。
ム=ウムよ。あなたは数少ない人類の遺伝子をもつ生物なのです」
「ジンルイ? ジンルイって何」
「あなた方の本当の祖先なのです。今でこそ、あなた方は海の中で生活していますが、シュクセイキ以前には人類は陸の上で生活していたのです」
「信じられないよ。シュクセイキ?」
「今はわからなくてもいいのです。そのうちわかるようになります。あなたは人類の歴史を学は々ければなりません。そして地球を元の状態、少なくとも「シュクセイキ」以前の地球文明を取り戻さなければならないのです」
「まったくわからないよ。何の事だい」
「このフネの中にはあなたと同じような真人が数多く収容されています。
フネは人類を再生させ、地球を復興させようとしているのです」
「もういいよ。そんなわからない話は、興味がないよ。僕を仲間の所へ帰してくれよ。ゼフとかいったよね」
「それは不可能です。あなたはもう二度と彼らのもとには帰れません。あなたは真人であり、彼らはそうではないのです。彼らの役割はもう終わりました。用はありそれにません。
あなたは選ばれし者。フネは、次の目的地めざしてすでに出航しています」
「もういいよ。そんな話は。帰しておくれよ」
「あなたにもわかってくるでしょう。どうも、あなたは環境が急激に変化したので興奮しているようですね。さあ、また少し休んで下さい。一度にすへてを知る必要はないのです。我々には充分の時聞か与えられています。学習には恐らく長い時間が必要ですね」
痛みが走り、ム=ウムの体の中に溶液が注入される。
ム=ウムは、再びチューブの中で眠りにつく。
夢の中で、ミ=ムネが現われた。
ミ=ムネは悲しそうな顔をしている。
それから家族の顔や種族の人達の顔が現われ、それら総てが何かしら底知れぬ巨大なものに包み隠された。
「かあさん。とうさん、ミ=ムネー」心の中で叫んでいた。
が、あとには闇だけが残った。
ム=ウムは、この世界の中でひとりぽっちになったような気がした。
水棲人にはない涙が、、こぼれていた。
その頃、水棲人たちは、集落に帰ってきている。
ム=ウムの両親は、ム=ウムが連れ去られた事を聞き、嘆き悲しむ。
母親は、異子供であったム=ウムに、他の兄弟達よりもいっそうの愛情を注いでいたのだ。
父親もまた、ムが他の子供達と異たっていたがゆえに、不潤に思っていた。
水猿人の生存率はかなり低い。
族に対する脅威が海の中には混在している。
変貌した生物群が彼ら水棲人と同じように生活している。
シュクセイキに地球を熱射した放射線は地球の生物相に大きな影響を与えていた。
常に外敵に晒されているムの一族は集落を要塞化していた。
見張りが、常時、まわりを遊泳し、警戒をおこたらない。
突如「黒い死の使い」が彼らを襲ってきた。
見張りの者達は、その敵の姿をかいま見ることすぐ死んていった。
黒い生物は、体を溶解させ、拡大したそれは、水棲人の体全部をすっぽり包み込んだ。
水棲人の体は黒い生物の体圧で粉々に砕かれる。
黒い生物の体全体が変容し、ある者は鋭い刃部と反って水棲人を切り刻み、また、ある者は槌の形をとり、あたりの水棲人や建物を押し潰す。
恐ろべき膂力を持つその生物群は、水猿人に反撃のひまを与えず、効果的に集落を襲い、破壊し、生會のかけらも残さず、ムの一族を完全に抹殺した。
全身黒づくめて強力な四肢を自在に使いこなすこの生物の通りすぎた後には、
生物の影はない。
ミ=ムネは死の瞬間、ムの事を再び思い出していた。
「やはりあの言い伝えは真実だったのね」彼女はそう思った。
彼女の属する水棲人の一族は、ム=ウムという変わった水棲人個人を生みだすためにのみ存在していたのでは、という不思議な思いが、彼女の心を一瞬よぎった。
が、その考えも、また、激痛と共に、闇の中へ消えていく。
その抹殺行動は、主しゅの命令だった。
役割が終わった種族は生存すべきではない。
それが主しゅの思想だった。
(続く)
ガーディアンルポ03「洪水」第4回(1979年作品)
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